著者:小路幸也 2017年5月にキノブックスから出版
風とにわか雨と花の主要登場人物
岬博明(みさきひろあき)
もうすぐ四十歳。以前はカーディーラーで営業の仕事をしていた。作家志望。恵里佳の元夫。
津田恵里佳(つだえりか)
博明の元妻。
津田風花(つだふうか)
十二歳。博明と恵里佳の長女。
津田天水(つだあまみ)
九歳。博明と恵里佳の長男。風花の弟。
蒲原喜子(かんばらよしこ)
八十歳。作家。
風とにわか雨と花 の簡単なあらすじ
風花と天水の姉弟の両親が離婚しました。
喧嘩別れではなく、父の博明が小説家をめざすために、わがままを言って別れたのです。
離婚後、初めての夏休み、風花と天水は、海辺に住む父のところへ泊りにいきます。
家族それぞれの胸の内に、いろいろな感情が起こり、四人は人間として成長していきます……。
風とにわか雨と花 の起承転結
【起】風とにわか雨と花 のあらすじ①
風花と天水の姉弟の両親が離婚しました。
父の岬博明が、小説家になりたいとわがままを通しての離婚でした。
母の名前は、岬恵里佳から、津田恵里佳へもどりました。
子供たちは、それまでの家で、母といっしょに暮らします。
恵里佳は、結婚前にやっていた建築設計の仕事を再開します。
博明は、海辺の家を買って、アルバイトをしながら、小説を書いています。
学校が夏休みになって、風花と天水は、父の家に泊まりにいきます。
父はボロボロの車に乗り、ボロボロの家に住んでいました。
それでも、内装はきれいにリフォームされています。
父は生き生きとしています。
離婚前、カーディーラーの仕事をしていた昼間のお父さんは、嘘のお父さんで、夜、書斎にこもるときの嬉々としたお父さんが本当のお父さんなのだ、と子供たちはわかっていました。
博明は風花に言います、離婚したのは自分のわがままなのだ、と。
そして、「そのわがままを通すために、ほとんどの財産を残してきたし、子供たちがこうしてほしいということがあったら、身を投げうってそれを果たす」と言います。
一方、子供たちが父親のところへ行って、空っぽになった家で、恵里佳は親友の晴海と、離婚のときの話をしています。
夫妻は、決して喧嘩別れしたのではありません。
いろんなタイミングが重なって、博明がわがままを通したのでした。
【承】風とにわか雨と花 のあらすじ②
天水たちは父子で食事をつくることになりました。
天水は料理したことがありませんでしたが、「材料を組みあわせて作品を作るのだ」という父の指導により、楽しく料理します。
博明は、子供たちのしたいことを一緒にやると言います。
そういう経験が作家の仕事だというのです。
子供たちが海に行きたいというので、博明は、知り合いの人が個人で持っている浜へつれていくことにします。
三人はお弁当やおやつや着替えを持って、その浜までの六キロを歩いていきます。
着いてみると、そこには本当にきれいな浜があったのでした。
風花は父に、この浜の持ち主について尋ねます。
博明はこんなふうに答えました、「これまで三篇の小説を発表してきた。
それらを褒めてくれる作家がいて、交流があった。
それが、この浜の持ち主である、八十歳のおばあさんの蒲原喜子だ」と。
その夜、夜中に目覚めた風花は、パソコンに向かっている父に話しかけます。
父は、蒲原さんから、「あの浜でバーベキューをしないか」というお誘いのメールがきていることを話します。
風花は「行く」と即答し、翌朝起きた天水も、もちろん行くことにします。
昨日に続いて、三人であの浜に行きました。
蒲原喜子さんを含め、数名の大人たちが集まって、バーベキューが始まりました。
【転】風とにわか雨と花 のあらすじ③
バーベキューの間、風花は喜子さんと話をします。
喜子さんは、風花がとても頭がよいと褒めます。
それは学校の成績がよいというのとは別の頭のよさです。
喜子さんは、風花が尋ねる人生のいろいろについて、決してごまかさず、真摯に答えてくれます。
たとえば、世のなかに戦いや争いがなくなることは、いいことのように見えて、不幸かもしれない、と言います。
人はみな意見が違うのは当たり前。
だから、争いが起こるのは当然で、むしろ争いが起こらないというのは、すべての人の意見や考えが同じになっていることだ、と言うのでした。
一方、天水は、サーファーの中野さんと友だちになります。
一度好きになって友だちになったら、離れても、一生ずっと友だちなのだ、と中野さんは言うのでした。
さて、しばらくして、元妻の恵里佳が、子供たちがいる間に、と、元夫の博明の家を訪れました。
恵里佳の心情は少し複雑ですが、元夫と、子供たちといっしょにいると、それはそれでとても楽しいと感じるのでした。
子供たちが寝たあと、恵里佳と博明は話をします。
離婚したことで、自分のやりたい仕事をしたりして、良い面もあったのだと認めあいます。
また、博明は恵里佳に対して、「もう少し肩の力を抜いて、子供たちに、自分の気持ちを率直に話した方がよい」とアドバイスするのでした。
【結】風とにわか雨と花 のあらすじ④
恵里佳が帰ることになりました。
恵里佳は風花と話をします。
「いままで、あななたちを守らなきゃって思って、カッコつけてきたけど、これからは、困ったときにはすなおに助けてねっていうつもり」だと。
その後、残った父子は、中野さんにサーフィンを習うために、まずは海中に潜って洗濯機のように回される感覚を覚えるところから始めるのでした。
夏休みも残りわずかとなりました。
風花は、自由研究のテーマを「お父さんとお母さん」にしようかと言いだして、博明をあわてさせます。
ふたりはきちんと話しあい、結局、世のなかのいろいろな職業の人のことを調べることにしたのでした。
天水のほうは、名前のことを調べてみようと思っています。
自分の名前の天水も、姉の名前の風花も、母が考えたものです。
すばらしい名前だと博明も思っています。
苗字と名前ってどうして分かれているのか、といったむつかしいことを調べようとしている天水の希望を、博明は尊重しようと思います。
やがて、父の家から帰る日が来ました。
天水は、「いつでも来れるから寂しくない」と言います。
風花は少し寂しいのだろう、と天水は見抜いています。
風花は、「高校に入るとき、この町から通えるところにしようと思っている」と天水に話します。
天水は、お母さんが寂しがるだろうから、自分は母の元に残るつもりです。
風花は思います、「やがて成長し、みんなはバラバラになっていく、それまではみんなで仲良くしよう」と。
風とにわか雨と花 を読んだ読書感想
初読みの作家さんです。
巻末の作家紹介の文を読むと、メフィスト賞を受賞してデビューしたかたのようです。
なので、ミステリー作品かと思って読んだのですが、全然違っていました。
ひとことで言うと、ほっこりする作品でした。
離婚した家庭についてのお話ですが、喧嘩別れしたわけではなく、ギスギスした家族関係はどこにもありません。
現実にはこうはいかないだろう、と思いつつも、こんな家族がいてもいいんじゃないか、みたいに思えます。
それはつまり、リアリティがある、ということなのでしょう。
作品全体を通して、家族四人がそれぞれに生きる意味を考え、成長していっているのがわかります。
読み終わると、心のなかが温かくなって、生きていく希望がわいてくるような気がしました。
すてきな小説を読ませていただきました。
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