著者:村山由佳 2022年7月に幻冬舎から出版
星屑の主要登場人物
〈樋口桐絵〉(ひぐちきりえ)芸能プロダクション「鳳プロ」の女性マネージャー。〈佐藤真由〉(さとうまゆ)本名・有川真由。鳳プロの専務取締役、かつては名ギタリストとして活躍していたジョージ有川の娘。昔から皆にちやほやされて育ったせいで、わがままで自分勝手な性格。〈篠塚未散〉(しのづかみちる)博多のライブハウス『ほらあなはうす』で歌う少女。素晴らしい歌唱力が桐絵の心をつかみ、説得され東京に行くことになる。父親は、ジョージ有川。つまり真由とは異母姉妹となるが、本人らは気づいていない。〈峰岸俊作〉(みねぎししゅんさく)桐絵の上司。昔は熱心な仕事ぶりに桐絵は「峰岸先輩」と尊敬の眼差しで見ていたが、出世するにつれ、仕事への情熱がなくなり、ビジネスで損得を考えるようになった。〈城田万里子〉(しろたまりこ)「鳳プロ」の演歌スター。自分にも仕事に厳しく、新人にも容赦ないが真由と未散に時折激励の言葉を与える。
星屑 の簡単なあらすじ
昭和の時代、芸能プロダクションに勤める桐絵は、博多で歌っていた未散の歌声にぞっこんほれ込み、東京へ連れて行きます。
ところがデビューはソロではなく、小鳥真由という犬猿の仲とのデュオ。
相反発するふたりですが、徐々に親睦を深め、あっという間にスターダムに駆け上がります。
イギリスのバンドから未散にスカウトが来たのは、人気絶頂のとき。
当然嫌がる未散ですが、真由の説得もあり、イギリスへ旅立ちました。
星屑 の起承転結
【起】星屑 のあらすじ①
昭和の時代。
新人発掘オーディションで、桐絵はため息をついていました。
女性というだけで大きな仕事を任せてもらえず、峰岸にあごで使われる毎日に疲れていました。
しかし、新人発掘オーディションの地区大会、博多で峰岸に連れられて入った「ほらあなはうす」にて、未散の歌に惚れ込んでしまいます。
確かに真由の歌も素晴らしい。
しかし、わがままで口の悪い真由にはイライラし通し。
博多で歌っていた未散の歌がどうしても忘れられず、再び博多へ向かいます。
改めて未散と話をし、未散の「歌だけ歌っていたい」という希望を叶えるため、東京へ連れて行くことにしました。
未散を鳳プロに連れて行った桐絵。
しかし簡単にことは運ばびません。
すでにプロダクションは「小鳥真由」をデビューさせるべく全面的にバックアップを始めていのです。
峰岸の策略もあり、レッスンさえ受けさせることができない状況に焦りを覚える桐絵。
ええい、とばかりにやけっぱちで未散に歌わせたのは「素人のど自慢。」
そこで未散は予定していた曲ではなく、伴奏もなしで、審査員として座っていた城田万里子の「雨降る街角」を歌いました。
城田万里子の後押しがあり、レッスンを受けられるようになった未散。
しかしそれが気に入らない真由。
何かにつけて未散に嫌味を言って、それに未散も言い返し、ケンカになることもしばしばでした。
ある歌番組の見学に訪れたふたり。
ふたりの憧れである女性二人組「ピンキーガールズ」の出演を楽しみにリハーサルを見学していたところ、ビンキーガールズの到着が遅れるとの一報が入ります。
スタッフが困り果てているところに、城田万里子はあっさりと言いました。
「あの子たちに歌わせたらいいじゃない。」
仰天するふたりだったが、いざふたりが歌いだすと、仰天したのは周囲の大人たちの方でした。
息がぴったりと合い、完璧なダンスを披露したのです。
【承】星屑 のあらすじ②
作曲家で、ふたりのレッスンをしている高尾良晃は、真由と未散、ふたりをデュオとしてデビューさせるための曲を作りました。
当然反対する峰岸。
犬猿の仲の少女たちももちろん反対、かと思えば、未散は「うちは、いいっちゃけど。」
「一緒に歌うのが、気持ちよかったから」と。
実は真由も同じことを考えていました。
しかし素直になれない真由は「こんな子を認めたわけじゃ絶対ないんだから。」
「ティンカーベル。」
真由と未散はデュオでデビューすることが決まりました。
しかし、あのリハーサル以来、まったくふたりの息が合いません。
反目しあって、ただ自分のことしか考えずに歌い、踊るふたり。
とうとうダンスのレッスンをしていた沢野千佳子に厳しくお咎めをくらってしまいました。
桐絵としては、ここで真由を叱りたい。
しかしあえて、未散に厳しい言葉でお説教をします。
しかしそこで、桐絵を止めたのは真由でした。
相変わらず横柄な態度でだが、確かに未散を庇ったのです。
その日を境に、ふたりは変わりました。
相変わらず私用で口をきくことはありませんが、指導にくらいつき、懸命に練習を積み上げていきました。
しかしいざ本番になると、どうしても自信が出ません。
イライラと癇癪をおこす真由に「うちが合わせるけん」と請け負う未散。
本番は、城田万里子が絶賛するほど素晴らしいものになりました。
「ティンカーベル」は彗星のごとく現れた新生として認知されるようになりました。
それとともに、徐々に距離を深めていく真由と未散。
未散がうかつな行動を取ってしまい、スキャンダルとして報じられることになりますが、それでも運は彼女らを味方にしました。
率直な謝罪は視聴者の胸を打ち、ファンはますます彼女らを応援しました。
真由と未散はすっかり仲良くなり、唯一無二の相棒になったのです。
【転】星屑 のあらすじ③
「ティンカーベル」の人気がどんどん高まる中、あるイギリスのアーティストが、未散に参加してほしいと要望が入りました。
せっかく「ティンカーベル」が成功しているこのとき、1年間もイギリスに未散を送り出すのです。
反対する桐絵でしたが、周囲は未散の歌声が認められたと喜んでいます。
桐絵は悩んだ末、相談したのは未散ではなく真由でした。
しかし、幼い頃から芸能界の裏表を見ていた真由は「あの子にはものすごい才能がある」と、反対することはありませんでした。
当然のことながら、未散は嫌がります。
「もううちは要らんと?」と駄々をこねて泣き続けます。
しかし、本当は行ってみたいという未散の気持ちは確かでした。
それを後押ししたのも、やはり真由でした。
「うっとおしいのよ。」
相変わらずの口調で、「離れている間、お互いもっと巧くなって、『ティンカーベル」をやるときは世界中をあっと言わせるのよ。」
ようやく自分の気持ちに素直になり、未散はイギリスへ行くことを決意しました。
【結】星屑 のあらすじ④
未散がイギリスへと旅立ち、真由がソロで歌うときが来ました。
しかし真由は自信喪失しています。
「未散がいたからこその『ティンカーベル』だ」「未散がよかった。
未散になりたかった」と泣きじゃくり、不安に押しつぶされそうになっています。
そこを助けたのも、城田万里子でした。
緊張で混乱する真由に「未散というライバルから自由になって、歌えるのよ。
私は、あなたの歌うほんとうの歌が聴きたいのよ」とアドバイスを贈りました。
本番前、真由はスタッフに向かって頭を下げます。
「精いっぱい歌わせてもらいますので、どうかよろしくお願いします」と。
真由の成長に波がこらえきれない桐絵。
ところが本番直前、真由が消えてしました。
大慌てで探す桐絵が見たのは、ステージ衣装ではなく、白いTシャツに黒革のベスト、赤いタータンチェックのプリーツスカートと、未散からもらったワークブーツ。
そして、背中まで伸ばしていた髪はばっさりと切られていました。
そう、未散のような姿で。
ステージに駆け出す姿を見送る桐絵。
その向こうに、もうひとりの少女の姿が見えました。
星屑 を読んだ読書感想
とにかく面白い。
昭和という時代はアイドルがたくさん現れ、そして消えていった時代です。
真由と未散、相反するふたりがケンカしあい、徐々に仲良くなっていく様は親が子どもを見るような、あたたかい気持ちで読むことができます。
そして、未散が旅立ってからも「ティンカーベル」を守ると決意した真由の姿。
以前の「ワガママお嬢様」ではなく、ひとりの歌手として生きる覚悟を決めています。
村山由佳さんの小説は読みやすいので有名ですが、今回の本も、長編でありながら一遍に読むことができる素晴らしい小説です。
読み手をぐいぐい引っ張る文章力は少しも衰えを知らず、尊敬するばかりです。
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