著者:瀧羽麻子 2019年2月に新潮社から出版
うちのレシピの主要登場人物
啓太(けいた)
主人公。会社員からコックに転身。職も恋も自分の意志を貫く。
真衣(まい)
啓太の彼女。笑顔が似合うウェイター。
美奈子(みなこ)
啓太の母。高給取りで好きなことにお金をかける。
雪生(ゆきお)
啓太の父。定時に帰宅して家事をこなす。
正造(しょうぞう)
真衣の父。寡黙な職人肌で妻の芳江とフレンチの店を切り盛りする。
うちのレシピ の簡単なあらすじ
仕事第一の母・美奈子と家庭を大切にする父親の雪生に育てられた啓太は、1軒のレストランに立ち寄ったことがきっかけで料理の道を志すことに。
店主の正造に弟子入りしつつ娘の真衣とのお付き合いを認めてもらい、食事会をセッティングします。
なかなかお互いのスケジュールが合いませんが、ひそかに動いていた美奈子のおかげで両家は少しずつ歩みよっていくのでした。
うちのレシピ の起承転結
【起】うちのレシピ のあらすじ①
平日は深夜まで帰ってこなくて土日も呼び出される母親の美奈子、夕方には帰ってきて食事を作ってくれる父親の雪生。
幼い頃の啓太はよその家も同じようなものかと考えていましたが、中学・高校と進むにつれて少しずつ疑問を抱いていきました。
20階建てのマンションの最上階からは東京タワーが見えて快適ですが、内装もデザイナーズ家具もすべて母の趣味だと居心地は良くありません。
学生時代は飲食店で働いていて楽しかったという雪生の話をきいて、啓太はピザ屋でアルバイトをしてみます。
調理師の免許に合格するほどのめり込んでいきますが、大学卒業後は文房具メーカーに新卒採用で入社。
社会人4年目に突入した頃にたまたま本社の近くで見つけたのが「ファミーユ・ド・トロワ」、フランス語で3人家族という意味です。
父親の正造が調理、母の芳江が接客、娘の真衣が給仕。
入り口のドアにある「従業員募集」の張り紙を目にした啓太は直感を信じて、社に戻って辞表を提出してから面接に応募します。
【承】うちのレシピ のあらすじ②
複雑な余韻を残すソース、めりはりの利いた味つけ、気前のいい盛りつけ、気取りすぎず庶民すぎず… 厳しくも親身になって基礎をたたき込んでくれる正造のおかげもあって、啓太のレパートリーはみるみるうちに増えていきました。
閉店後には真衣と一緒に次の日の下ごしらえをしたり、休みの日には有名店に足を運んで見聞を広めていきます。
ふたりの交際を認めてもらったのはファミーユで働き始めてから1年がたった頃、芳江は嬉しそうに正造は照れくさそうに。
雪生の誕生日には取って置きのシャンパンで乾杯をして、大好物だというフォカッチャをごちそうしました。
くどいくらいに「美味しい」を連発してくれた雪生、ドライトマトとチーズのフィリングは正造の直伝ですが隠し味に使ったローズマリーは雪生が趣味の菜園で育てたものです。
残された大きな問題は美奈子、会社を辞めた時にも料理人を目指すと宣言した際にも真っ先に反対していました。
下積みは長くて過酷で立場も収入も不安定、気が変わった時のつぶしもききにくいとのこと。
【転】うちのレシピ のあらすじ③
これまでに何度も転職を繰り返している美奈子、50代の半ばに差し掛かっていますがますます仕事にのめり込んでいました。
現在の勤め先は投資銀行で肩書はディレクター、具体的に何をしているのかは経済にうとい啓太には想像もつきません。
分かっているのはとてつもなく忙しい業界だということと、夫婦の時間よりも仕事の方を最優先にしているということ。
そんな美奈子がめずらしくファミーユに来店すると言い出したのは、息子の職場見学と交際相手の偵察も兼ねているのでしょう。
真衣と芳江は目を輝かせつつ大盛り上がりで準備をしていて、正造はいつもと変わりませんが定休日の日曜に特別な献立を考えてくれます。
前菜はフォアグラとトリュフのパイ包み焼き、コンソメスープを挟みつつメインディッシュはホロホロ鳥のロースト、デザートは美奈子の好きなモンブラン。
当日になって3時間もみんなを待たせた揚げ句に姿を現さなかった美奈子、この日を境にして正造はしばらく口をきいてくれません。
【結】うちのレシピ のあらすじ④
洗い物をしている時に手を切ってしまった雪生、連絡を受けた美奈子は仕事を放り出して駆け付けてきました。
黒いパンツスーツにジャケットで決めたスタイルはいつものようにスキがありませんが、髪をふり乱しメイクの崩れた顔は10歳ほど老け込んでいます。
雪生には早めに休んでもらって啓太は黙々と調理、美奈子は相変わらずの豪快な食べっぷり。
食後のチョコレートケーキも気にいったようですが、砂糖とバターをどっさりと入れたファミーユ仕立てでうちのレシピではありません。
今日の昼間にそのファミーユへひとりで行ってきたという美奈子、菓子折りを片手に先日のおわびも済ませています。
水面下で調査するのが得意だという美奈子、見た目が頑固そうな正造よりも常にニコニコとしている芳江の方が手ごわいそうです。
時刻はまもなく午前4時、ガラス戸を開けると部屋の中には冷たい空気が。
生まれて初めて母から腕をあげたとほめられた啓太は、なんと答えていいのか分からないためにソワソワとベランダに出るのでした。
うちのレシピ を読んだ読書感想
ノー残業を心掛けるマイホームパパな雪生、バリバリのキャリアウーマンで周囲を振り回していく美奈子。
世間的な男女の立ち位置にはまらない、新しいカップルの生き方に共感できます。
まるっきり正反対の両親に育てられた主人公の啓太が、安定した就職先を蹴って自分の好きなことをトコトン極めようとするのは必然的なのかもしれません。
ビルが建ち並んでいるオフィス街にひっそりとオープンする「ファミーユ」も、都会のオアシスのようで魅力的ですね。
武骨なシェフの手の込んだ美味しいメニューが、価値観の違うふたつの家族を引き合わせていく展開にも好感が持てました。
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