著者:西崎憲 2020年10月にKADOKAWAから出版
ヘディングはおもに頭での主要登場人物
松永おん(まつながおん)
主人公。惰性で浪人を続けている。不正に加担することはないが積極的に間違いを正すのは苦手。
治部隆正(おさべたかまさ)
おんとは中学・高校と付き合いがある。深く考えずに何でもやってみる主義。
広川あかるい(ひろかわ あかるい)
おんの高校の後輩。裏表がなく他人からの批判を恐れない。
大田(おおた)
治部の同人誌仲間。初対面から距離を縮めてくる。
ヘディングはおもに頭で の簡単なあらすじ
浪人生活が3年目に突入した松永おんは、受験勉強にもアルバイトにもいまいち身が入りません。
高校生の時の部活仲間に誘われたのがきっかけで始めたフットボールは、思いの外に楽しく気分転換としてもちょうどいい具合になっていきます。
読書会などにも参加して自分の視野を広げていくおんでしたが、家庭の事情から進学をあきらめるのでした。
ヘディングはおもに頭で の起承転結
【起】ヘディングはおもに頭で のあらすじ①
希望する国立大学に2回落ちた松永おんは、父方のおじが北千住に所有するアパートの部屋を月4万円で借りました。
壁際には参考書が何冊も並んでいますが、マンガを読んだりインターネットを見たりしている時間の方が多いです。
いつものように寝っ転がっていると高校生の時に同じ写真部だった治部隆正から電話が、イベント会社で働いてるとか作家を目指しているとか。
その治部と京浜東北線の与野駅で待ち合わせをして向かう先はフットサルコート、1チーム5人で1ゲームは6分。
早生まれで大多数のクラスメートよりも体力が劣っていたおんは、学校の球技大会で活躍した記憶がありません。
案の定最初のゲームはあっという間に終わってしまい何もできませんでしたが、4ゲーム目に突然なにかが変わります。
プレーヤーとボールの流れが見えるようになり、その変化の中心には常にボールが。
宇宙の秩序のような神秘的なものを感じたおんは、走っているうちに自然と笑みがこぼれてきました。
【承】ヘディングはおもに頭で のあらすじ②
センター試験の申し込みを済ませてすこしは気合いを入れてみましたが、生活の中心は半年ほど前から働いているチェーンの弁当屋です。
作業自体は単調で面白いものではなく、シフトに入るメンバーが女性ばかりだという居心地の悪さもありました。
同じことを何度も注意されるおんは、自分の物覚えが明らかに周りよりも劣っていることを自覚しています。
一卵性双生児の出生率は地域や民族に関わりなく0.4パーセント、1000組のカップルのうち4組、250人のうちの1人… ウィキペディアでこのようなのデータを調べてみたのは、自身に双子の弟がいたからです。
生後1カ月で亡くなったために顔も名前も覚えていませんが、その片割れに記憶力や才能を持っていかれてしまったような気持ちになることがありました。
「才能」といえば先日に行われた写真部の同窓会で、ひとつ年下の広川あかるいが賞を獲得したことが話題に。
自撮りのヌードを投稿したりととにかく枠にはまらない彼女は、来年にはイギリスのドーセットに留学するそうです。
ロンドンから車で2時間ほど、プレミアリーグのフットボールチームでも有名だそうですがおんには想像もつきません。
【転】ヘディングはおもに頭で のあらすじ③
小説を書くために足立区の文芸同人誌「まなざし」の会員になったという治部、そこの読書会の開催地が北千住駅の東口の喫茶店。
フットサルの時と同じように断るのが苦手なおんは、乗り気ではないものの誘われるままに11月の会に参加してみました。
取り上げる本はヘミングウェイの「移動祝祭日」、あらかじめ中央図書館で借りて読んでみましたが当日には小学生の感想文のようなことしか言えません。
2時間ほどで終わって飲み会というのが通例で、おんは居酒屋「鳥良」で隣には大田という30代らしき女性が座っています。
お酒が入ると顔を近づけてきたり膝に手を置いてきたり、薄い色のセーターを高く盛り上げている胸が軽く当たったり。
少し困惑してしまいましたがこれまで会ったことのないタイプの人と話をして、面白い本を教えてもらえるのは大歓迎です。
終電のギリギリで解散して歩いて自宅に戻ったおん、スマートフォンを確認すると妹からの着信が。
母親の具合が悪いそうで、年末には様子を見に実家に帰ることを約束します。
【結】ヘディングはおもに頭で のあらすじ④
久しぶりに会った母は首筋の皮ふがたるんで顔のシワも増えていて、家の中の整理整頓が行き届いていません。
妹の話だとメンタル面での停滞が目立つようになっていて、倒れたり入院でもしたらすぐにまとまったお金が必要になるでしょう。
食事は日光街道沿いにあるファミリーレストランで済ませることにした一向、ハンバーグとケーキを注文した母は食欲だけはあります。
例の双子には「がく」という名前を考えていたと打ち明ける母、おんと合わせると「音楽。」
その場で大学へ行くのを辞めると宣言したおん、当面は治部の会社で音楽用アプリのキャンペーンイベントを手伝うつもりです。
センター試験当日、おんが立っていたのは試験会場ではなく個人で予約をした原宿のフットサル場。
敵の位置、相手の速度、自分の足、シュート、ボールが描く軌道… 現在という時間の一瞬先にある未来がかすかに見えたおんは、約束された場所にダイレクトに届くように浮き球のパスを繰り出すのでした。
ヘディングはおもに頭で を読んだ読書感想
学力判定よりもワンランク上の大学を目指しているという主人公の松永おん、そのわりには趣味やバイトの方に夢中で集中できていません。
大切な模試の前になると寝不足になるか風邪をひいてしまうかと、ここ1番の勝負に弱すぎるのでしょう。
友人たちには次々と先を越されつつ、将来への漠然とした不安を拭えないのがほろ苦いですね。
そんなおんのに付いて回るのが血をわけた双子のきょうだい、自らを「0・5の存在」などと客観視するところは詩人や小説家に向いているのかもしれません。
フットサルという競技に出会った彼の日常が動き出し、思わぬ着地点へと向かう後半もドラマチックでした。
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