「ロマンス」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|タナダユキ

「ロマンス」タナダユキ

著者:タナダユキ 2015年7月に文藝春秋から出版

ロマンスの主要登場人物

北條鉢子(ほうじょうはちこ)
ヒロイン。体力に自信がある車内販売員。普段は愛想がないが接客では笑顔を忘れない。

桜庭洋一(さくらばよういち)
落ち目の映画プロデューサー。人脈も資金もなく追い込まれている。

北條頼子(ほうじょうよりこ)
鉢子の母。住所と交際相手を転々としてきた。

直樹(なおき)
鉢子と同せい中。何をやっても飽きっぽく長続きしない。

久保美千代(くぼみちよ)
鉢子の同僚。上流家庭のお嬢様で世間知らず。

ロマンス の簡単なあらすじ

ロマンスカーのアテンダントとして順調に働いている北條鉢子でしたが、母親の頼子とは音信不通です。

ある日の勤務時間中に万引の瞬間を目撃したことがきっかけで、妻子に見捨てられて事業にも行き詰った桜庭洋一と箱根を観光することに。

思い出の地を巡っているうちにわだかまりが溶けてきた鉢子、次の日の車内で久しぶりに母と再会するのでした。

ロマンス の起承転結

【起】ロマンス のあらすじ①

男依存の母から逃げるも女依存の彼氏に捕まる

北條鉢子が7歳になった時に実の父親が家を出ていき、母親の頼子は入れ替わり立ち替わ恋人を作るようになりました。

早く自活したい鉢子は小田急電鉄で募集していたアルバイトに応募してみると、新宿駅発のワゴン販売部門に配属されます。

優秀だった鉢子はすぐに正社員に登用されて、教育係を任されたのが実家が裕福で1度も働いたことがないという久保美千代です。

秋の味覚まんじゅうはワゴンの下敷きになってぺしゃんこ、乗客のスーツはこぼしたホットコーヒーでびしょびしょ… 久保がやらかした失敗の尻ぬぐいをするのはいつも鉢子の役目でしたが、当の本人はのんきに「いい日旅立ち」を口ずさんでいてケロリとした様子。

この歌が大好きだった頼子とも高校を卒業してから8年近く会っていないために、町中ですれ違ってもお互いに顔も分からないでしょう。

一日中立ちっぱなしのハードな仕事を終えてマンションに帰ると、付き合って3年になる直樹が待っています。

好きなことを探しているという彼は定職に就くつもりはないようで、ここの家賃も払っていません。

【承】ロマンス のあらすじ②

大捕物から死出の旅立ち

起床して郵便受けを見た鉢子は1通の手紙が入っていることに気が付きましたが、ゆっくりと読んでいる時間はありません。

ポケットにねじ込んでそのまま出勤、例によって久保に振り回されながら業務をこなしていると見るからに不審そうな中年男性が。

ワゴンの中身を物色した揚げ句にジャガイモのお菓子をつかんで走り出しますが、中学3年生の時に100メートル13秒のタイムを記録した鉢子はすぐに追いつきました。

箱根湯本駅で登山鉄道の事務所に突き出された男性、鉢子の顔が怖かっただけでお金を払う意志はあったとのこと。

駅員としては長引かせて大ごとにしたくないために、謝罪と料金を受け取って今回は警察には通報しません。

例の手紙を丸めて駅のホームのゴミ箱に放り込んだ鉢子、桜庭洋一と名乗った男はお節介にも拾って手渡してきます。

差出人は頼子、思い出の場所から遠い旅に出ますという文面。

桜庭が言うには「思い出の場所」というのは幼い頃家族旅行でいった箱根、「遠い旅」というのは自殺を暗示しているそうです。

【転】ロマンス のあらすじ③

人生の途中下車をした人たち

駅前のファッションビルで制服から私服に着替えた鉢子は、桜庭が調達してきたレンタカーの助手席に乗り込みました。

小田原城から市街地を周回、相模湾越しに二子山を眺めつつ足柄方面へ、強羅でケーブルカーに乗り換えて終点の早雲山に到着。

人気の観光スポットや有名な名所を巡っていくふたりは、事情を知らない人が見れば年齢の離れたカップルに見えるでしょう。

映画の世界に身を置いていてロケハンでよく来る桜庭は、やたらと箱根の地理に詳しくて張り切っていました。

大河映画を制作した時に大幅な赤字を抱えてしまい、家庭を省みなかったために妻からは一方的に離婚を切り出されてしまいます。

それ以来9歳になる娘とは会っていないという桜庭、このまま鉢子の方からアクションを起こさない限り一生後悔する羽目になるそうです。

富士の裾野あたりまで探し回ったふたりでしたが、頼子の姿は見当たりません。

山の中で迷ってしまい1泊9000円のラブホテルにチェックイン、部屋に入った途端に眠りこけてしまったのでお互いに疲れていたようです。

【結】ロマンス のあらすじ④

新しい朝とロマンスが出発する

出資者から詐欺の容疑で訴えられた桜庭はここ数日ずっと逃げ回っていて、箱根まで乗っていたのも鉢子の母親を探したたのも現実から目を背けたかったかったからです。

1日だけでも嫌なことを忘れられたとすがすがしい表情の桜庭、朝いちばんで仕事に戻らなければならず憂うつな鉢子。

大勢の通勤客が行きかう改札口で別れたふたりは、それぞれが向かうべき場所へと歩き出しました。

最寄りの交番に出頭しにいった桜庭でしたが、直前で気が変わって人混みの中へと姿を消します。

昨日の万引騒動から連絡をしていなかった鉢子は上司からたっぷりとお説教をくらいましたが、日頃からペアを組んでいる久保がかばってくれたため謹慎処分はありません。

お弁当、サンドイッチ、温かいお茶に冷たいアイスクリーム… 車両から車両へと声をかけていると、懐かしい鼻歌が聞こえてきます。

座席のすき間からは「いい日旅立ち」のメロディ、少し白髪が混じっているものの相変わらず男好きのする顔。

深く息を吸い込んだ鉢子は最高のほほ笑みを浮かべながら、「おひとつ、いかがですか」と声をかけるのでした。

ロマンス を読んだ読書感想

美しくも奔放でいつまでたっても大人になれない北條頼子、そんな母親を反面教師にして真っ当な道を歩もうとする主人公の鉢子。

小田急から「ロマンスカー賞」なる社内表彰に選ばれるほど優秀な彼女が、プライベートではヒモ男の直樹に取りつかれているのが残念ですね。

ダメダメな後輩ちゃんの久保美千代を見捨てることもなく、誠意をもって指導にあたっていく忍耐強さは見習いたいです。

持ち前の健脚を生かしてお菓子泥棒逮捕のお手柄かと思いきや、予想外の脱線に。

過去へのタイムスリップのような箱根観光が不思議な味わいで、終着駅には粋なサプライズも用意されていますよ。

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