著者:渡辺優 2016年2月に集英社から出版
ラメルノエリキサの主要登場人物
小峰りな(こみねりな)
十六歳。高校二年生。復讐傾向を持つ少女。
ママ(まま)
りなの母親。四十代。作中に名前は出てこない。
姉(あね)
りなの姉。大学生。作中に名前は出てこない。
久世美咲(くぜみさき)
りなの事件を担当する女性刑事。三十歳前後。美人。
篠田健吾(しのだけんご)
りなの別れた元カレ。高校二年生。
ラメルノエリキサ の簡単なあらすじ
小峰りなは、やられたらやり返すという、復讐傾向のある女子高生です。
ある夜、学校からの帰るときに、りなは後ろからナイフで刺されました。
犯人は「ラメルノエリキサのため」という謎の言葉を残します。
りなは犯人に復讐するため、「ラメルノエリキサ」がなにを意味するのか、調べはじめるのですが……。
ラメルノエリキサ の起承転結
【起】ラメルノエリキサ のあらすじ①
小峰りなは、幼いころから復讐癖がありました。
やられたらやり返さないと気がすまないのです。
二歳年上の姉は、ハムラビ法典を引用して、復讐するにしても、限度をわきまえなさい、と教えます。
さて、そんなりなも、いまや高校生。
六月のある日、りなは学校の委員会を終えて、帰路につきました。
八時ごろバスをおりて、家へ向かう途中、背後から刃物で腰を切りつけられます。
犯人は「ラメルノエキサのため」と言って去っていきました。
病院に運ばれたりなのところに、刑事がやってきますが、りなは、犯人の言った言葉を教えません。
自分で復讐するためです。
退院し、十日ぶりに学校へ行きました。
先月別れた元カレの篠田が、りなの体を心配してくれます。
りなは篠田に復讐していたため、一時期、篠田がりなを刺したのではないか、という噂がありました。
篠田は全力で否定したそうです。
りなは、文学少女の立川に、「ラメルノエキサ」という言葉について尋ねます。
フランス語かイタリア語ではないか、という返事でした。
りなは、迎えにくる、というパパに嘘をついて、バスで帰ります。
刺されたのと同じ時刻のバスに乗って、同じようにおりました。
乗客には、怪しそうな者は見つからず、再び襲われることもありませんでした。
帰宅すると、姉に小言を言われました。
その姉が言うには、「ラメル」がフランス語だとすると「海」のほかに「お母さん」の意味もあるということでした。
【承】ラメルノエリキサ のあらすじ②
りなは、完璧なママにコンプレックスを抱いています。
そのママは、大学教授、吉野の秘書をしています。
もしかすると、ママに想いを寄せる大学のだれかが、ママにとって汚点になっているりなを消そうとしたのでは、と疑います。
でも、調べようがないので、放っておきます。
翌日、りなは篠田をつかまえて、話を聞きました。
篠田は、りなと付き合っていたときに、人妻と浮気したのです。
りなは復讐として、篠田と人妻とのエロいやりとりを、クラス中にメールでばらまいたのでした。
その篠田ですが、事件当時はアルバイトをしていたので、アリバイ成立です。
翌日、りなは、抜糸のために病院へ行く予定になっていました。
学校で立川がやってきて、いっしょに病院へ行くと言いだします。
りなの姉から、見張りを頼まれたそうです。
病院へ行くと、篠田とその弟が来ていました。
入院している母親の見舞いだそうです。
抜糸が終わって、帰宅したりなは、姉に文句を言いました。
姉は、立川に見張ってもらうのを諦めました。
そんなとき、久世刑事が来て、また女の子が切りつけられる事件が発生、と教えてくれました。
被害者は、別の高校の一年生、佐久間美月です。
佐久間は、泉北中学校出身の女の子です。
篠田と立川が同じ中学を出ています。
立川に話を聞くと、陸上部の有名な選手だとわかりました。
【転】ラメルノエリキサ のあらすじ③
りなは、第二の被害者、佐久間美月を見舞いに行きました。
彼女は犯人の顔を見ておらず、「ラメルノエキサ」という言葉も聞いていませんでした。
翌日、学校で、立川とそのことについて話していると、偶然にも、バカな男子生徒の島崎が、「エリキサ」と言っているのを耳にします。
島崎に問いただすと、それはゲームのアイテム「フラメルのエリキサ」だと言います。
意味は、錬金術師、ニコラス・フラメルが精製した賢者の石のことだそうです。
そこで思いだしたのは、ママの上司である吉野教授が、自分のことを「錬金術師」と言っていたことです。
りなは、翌週の土曜日に、大学へ行こうと思います。
その夜、自分の部屋で、スタンガンを用意していると、久世刑事が来ました。
三人目の被害者が出たそうです。
大山彩乃、高校二年生。
りなには見覚えのない子でした。
りなは、翌日、学校をずる休みして、大山が襲われたという図書館に行ってみました。
現場に足を踏み入れると、背後から怪しい人物が近づいてきます。
目出し帽をかぶって、顔がわからないそいつに、スタンガンで立ち向かいます。
そいつのナイフを奪いとりました。
でも、りなの体はもう言うこと聞きません。
そこへ姉が助けに来てくれて、不審者は逃げていきました。
姉は言います、あなたが加害者にならなくてよかった、わたしは加害者の姉になるのは嫌、そのくらいなら被害者の姉の方がまし、バカなことをするくらいなら死んでほしい、と。
りなは、姉に愛されていると思っていましたが、そうではないのでした。
また、ママも、りなを愛しているのではなく、自分の娘を愛しているだけなのでした。
【結】ラメルノエリキサ のあらすじ④
土曜日になり、りなは大学へ行って、吉野教授の公開講義を聞きました。
テーマは中世の科学と魔術です。
講義が終わると、りなは教授に、賢者の石について質問しました。
教授の返答により、賢者の石の材料のひとつとして処女の血がある、とわかりました。
また、前回の講義に、篠田という男の子が来ていたことも教えてもらいました。
りなは学友たちには経験者ぶっていますが、実は処女です。
そのことを知っているのは、元カレの篠田だけ。
これにより、りなは真犯人がわかったのです。
りなは、スタンガンとナイフを持って、篠田の家に乗りこみました。
家には、篠田の弟がひとりでいました。
怪しげな実験道具が部屋に置いてあります。
弟が、処女の血を求めて、三人の女の子を刺したのです。
彼は、賢者の石を作って、お母さんの病気を治そうとしていたのです。
マザコンなのです。
同じマザコンである上に、「ごめんなさい」と謝られて、りなの気持ちはスッキリしたのでした。
外へ出ると、姉が車で迎えにきていました。
妹が人を殺すと決めつけ、死体が見つからないように、捨てるための支度までしていました。
姉もりなも、自己愛が強く、自分が一番好き。
でも、二番目には、お互いが好きなのです。
ママも似たようなもの。
りなはいま、とてもスッキリしています。
ラメルノエリキサ を読んだ読書感想
第28回小説すばる新人賞受賞作です。
分類すると青春ミステリということになります。
非常に印象的だったのは、主人公のキャラクタがとがっていることです。
復讐傾向を持つ女子高生というのは、ちょっと類を見ないのではないでしょうか。
現実世界でとなりにいたら、ヤバイ、コワイ、というキャラクタですが、フィクションとして読んでいる限りは、とても引きつけられます。
ピカレスクロマンと呼ばれる小説のような魅力ですね。
私たちは、現実の世界で、協調して、仲良く生きていくために、けっこうな部分で自分を殺しているのだと思います。
つまり「もんもんとしている」わけです。
そのため、フィクションで、自分の生きたいように生きている悪人キャラクタに魅せられるのだろう、と個人的には思っています。
とにかく、なかなかに爽快な作品でした。
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