「私はあなたの瞳の林檎」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|舞城王太郎

「私はあなたの瞳の林檎」

著者:舞城王太郎 2018年10月に講談社から出版

私はあなたの瞳の林檎の主要登場人物

戸ケ崎直紀(とがさきなおき)
主人公。調布市内で生まれ育ち外の世界を知らない。進路よりも自分の気持ちを優先する。

鹿野林檎(かのりんご)
直紀の学校の転校生。真面目に授業を受けていて話しかけてくる相手にもにこやか。

鹿野満美子(かのまみこ)
林檎の母。母性愛がうすく家庭に縛られるのが嫌い。

藤井潤(ふじいじゅん)
直紀の友人。初対面でもすぐに仲良くなり集団に溶け込むのも得意。

藤井優(ふじいゆう)
潤の姉。海外で腕を磨いたシェフで恋愛にも情熱的。

私はあなたの瞳の林檎 の簡単なあらすじ

戸ケ崎直紀が小学生の時に転校してきたのは鹿野林檎、偶然にも彼女が実の母親から暴力を受ける現場に遭遇して助けます。

春休みには初デートに成功して中学生になると思いきって告白してみましたが、友だちとしての関係のままで進展しません。

高校に進学した直紀は年上の女性から熱烈なアプローチを受けますが、林檎と恋人同士となることを選ぶのでした。

私はあなたの瞳の林檎 の起承転結

【起】私はあなたの瞳の林檎 のあらすじ①

転がるリンゴをナイスキャッチ

戸ケ崎直紀が小学4年生になった時、鹿野林檎は茨城県から引っ越してきましたが母親の姉の家で居候をしていて父親はいません。

直紀が鹿野一家の詳しい事情を知ることになったのは、冬休みが近く調布駅前にイルミネーションが飾られ出していた時です。

地上1階から北口改札を入ったホームの先で大声で言い争いをしているのが鹿野姉妹、あいだに挟まれて泣いている女の子が林檎。

妹の満美子が興奮して林檎を階段の上から蹴り飛ばしたために、たまたまクリスマスプレゼントを買いにきていた直紀はすばやく滑り込みました。

落下の寸前で受け止めたためにケガはなく、直紀が「大丈夫」と声をかけている間に満美子は警察に連れていかれます。

自分の不倫のせいで離婚に追い込まれた満美子でしたが、養育費がほしいために姉の家に預けられていた林檎を誘拐しようとしたとのこと。

クラスで悪いうわさが広まらなかったのは、直紀がこの日の出来事を固く心の中に留めておいたからでしょう。

卒業式の日に廊下のいちばん奥で待ち合わせをしたふたりは、新学期までの間にどこかへ遊びに行くことを約束します。

【承】私はあなたの瞳の林檎 のあらすじ②

アップルしか目に入らない

野川公園、神代植物公園、二子玉川、羽田空港、新宿御苑、葛西臨海公園… 自転車で日帰りできるエリアに限定していましたが、日を追うごとに目的地は調布から離れていきました。

入学式を迎えて直紀と林檎は同じ中学校に通い始めましたが、ふたりっきりになれるチャンスがなかなか訪れません。

他の男子と女子をまじえてワイワイと騒ぐくらいで、あの春先の濃密な2週間は夢のように霞んでいきます。

いつものようにボンヤリと英語の授業を受けていた直紀、黒板に書かれているイディオムは「You are the apple of my eye。」

直訳すれば「あなたは私の瞳のりんご」ですが、日本語の慣用句に置き換えると「目の中に入れても痛くない」でしょう。

林檎のことがずっと好きだったことに気がついた直紀は、授業の後に呼び出して気持ちを伝えましたが「ごめん」と笑ってごまかされてしまいました。

勉強に集中した直紀は全国模試で100位以内にランクインしましたが、林檎と同じ調布中央高校を選びます。

【転】私はあなたの瞳の林檎 のあらすじ③

青春時代を浪費しないためには

中学まではキャッチャーをやっていて都大会にまで出場した直紀でしたが、高校野球はお金がかかる上に時間を取られてしまいます。

直紀がアルバイトをしてみたくなったのは、自分の空き時間を貴重な経験に変えてみたかったからです。

林檎に声をかけてみましたが部活動が忙しいようで興味はなし、藤井潤に相談してみると美味しいまかないが出るところがいいとのこと。

潤は入学してから最初にできた友だちで、いつも直紀と一緒にいる割に他のクラスメートともうまくやっていました。

仙川にあるイタリア料理屋「パリアッチョ」に面接に行くとすぐに採用してもらえたのは、店長の次くらいに偉い潤の姉・優の口添えでしょう。

潤とふたりで講習を受けた後に同じ制服を渡されましたが、調理はおろか皿洗いも任せてもらえません。

メニューの名前と内容を覚えて、客席までお酒と一緒に運ぶだけで精いっぱいですが何とかこなしていきます。

このお店でもあっという間に人気者になって、お客さんや女性スタッフの視線を集めているのは潤の方です。

【結】私はあなたの瞳の林檎 のあらすじ④

初恋の果実が実る時

潤の影に隠れて正当に評価されていない直紀のことを、立ち姿がキレイだとほめてくれたのが優です。

まともなイタリアンを食べたことがない直紀のために、休日になると有名店のランチへと連れていってくれます。

高校を1年もたたずに中退、本場で学ぶためにイタリアに渡って3年間、スペインでも1年修行してから帰ってきたのが去年。

おそらく5つは年齢が離れているだろう彼女から付き合ってほしいと頼まれると、急な話でうまく整理できません。

とりあえずのところは優から時間をもらい、真っ先に林檎に報告に行きます。

11歳の時に起きた満美子の暴行事件から16歳になる今日まで、林檎にとって直紀は特別な存在で他の人には取られたくありません。

ついには林檎から交際を申し込まれた直紀でしたが、優にお断りの電話を入れなければならずパリアッチョにも出勤しずらくなるでしょう。

最初の一歩さえ踏み出していないふたりでしたが、「大丈夫」とうなずき合うのでした。

私はあなたの瞳の林檎 を読んだ読書感想

聖夜のライトアップが街をにぎわす中で、母親が我が子を駅の階段から突き落とそうとする衝撃的なオープニングでした。

このピンチにさっそうと登場する少年、戸ケ崎直紀はこの物語におけるヒーローとして申し分はありません。

腕の中で抱き止めた少女に励ましのメッセージをかけつつも、ちゃっかりひとめぼれしてしまう純情さも好ましいですね。

小中高とただただストレートな思いを貫き通す直紀、自分の気持ちが分からずに繊細に揺れ動く鹿野林檎。

不器用なふたりが結ばれるまでを見守っているうちに、誰しもが自身の甘酸っぱい思春期を思い出してしまうでしょう。

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