著者:西尾維新 2011年9月に講談社から出版
少女不十分の主要登場人物
僕(ぼく)
本作の語り部。三十路の小説家で、寿退職する担当編集のために自身のトラウマでもある十年前の事件のことを語る。
U・U(ゆう・ゆう)
十年前に一週間、僕を監禁した小学四年生の少女。
担当編集(たんとうへんしゅう)
現在の僕の担当編集者。この度めでたく寿退職をすることになった。
少女不十分 の簡単なあらすじ
十年前に交通事故を目撃した僕は、死んだ子の友人の少女・Uの奇行を目撃。
それによってUに誘拐、監禁される。
現状を把握しつつ僕はUのことが気になり脱出を見送る。
そして監禁中の数日で、Uが虐待児だと分かる。
僕の監禁が失敗したと悟ったUは、僕にお話しをしてとせがむ。
一晩中彼女にお話を聞かせ、Uと僕は次の日に家に来た警察に保護された。
それきり十年が経ち、僕は新編集に挨拶をする。
十年ぶりに「初めまして」と。
少女不十分 の起承転結
【起】少女不十分 のあらすじ①
僕は三十路になった小説家。
この度寿退職する担当編集のために、僕は十年前のある事件を語る。
事件の始まりは少女がバラバラになった交通事故だった。
ゲームをしながら歩いていて赤信号を見逃した少女は、トラックにひかれてバラバラの死体となった。
多くの人が死んだ少女に目を奪われる中、僕は彼女の友人だと思われる少女が轢かれた少女に駆け寄る前にゲームをきちんとセーブしているという異様さに目を奪われた。
その数日後、僕は自転車で転んで意識を失ってしまい目が覚めると生徒手帳がなくなっていた。
しかしそれに危機感を覚えなかった僕は、家に潜んでいた少女に小刀でふくらはぎを刺される。
そしてなお凶器をこちらに向ける少女・Uの言われるがまま、指示通りに部屋の外に連れていかれる。
しばらく外を歩いたのち、着いたのは普通の一軒家だった。
Uの家と思われる民家の中に入り、彼女の指示通りに階段下の物置に入れられる。
すると、外から鍵の掛かった音がした。
こうして謎の少女、Uとの七日間の監禁生活が始まった。
Uが僕を監禁した動機は、どうやら事故の時に自分のおかしな行動を見られたことだという。
本当の自分を誰かに話されないために、僕を「飼う」というU。
しかしながらその行動には、彼女の幼さゆえなのか穴しかなかった。
【承】少女不十分 のあらすじ②
携帯電話を取り上げることもせず、物置も力ずくで逃げられないわけでもない。
何より彼女はこんな状況でも、普段と変わらないように日中が小学校に行っていた。
逃げようと思えばいつでも逃げられる状況に、逆に冷静になった僕はUがどうしてこんなことをしたのかが気になってしまう。
そして、すぐに脱出せずに監禁生活の様子を見ることにした。
しかしすぐに彼女は思っていたよりもずっと迂闊なことを知る。
なぜならこの数日間の間、彼女は僕に一度も水も食料も差し入れることがなかったからだ。
危険だと思いながらも、彼女そのことを伝える僕。
その日の夕方に彼女から渡されたのは、明らかに昼の給食を袋に詰めて持って帰ってきたと思わしき食べ物だった。
さらにその次の日、久々に食料を食べた僕は生理的欲求が我慢できなくなってくる。
Uのいない日中ならば彼女にばれずにトイレを使っても大丈夫だろう。
脱出すればいいのに、なぜかそんなことを考えていた僕は、物置の扉を扉ごと外して脱出した。
そのままトイレを済ませ手持ち無沙汰になった僕は、空腹に耐えかねいったんこの家の食料を少し食べさせてもらおうと考えリビングに向かった。
なぜだかすごく散らかっているリビング、にもかかわらず使用形跡のないシンク。
それを不思議に思いつつもキッチンに入り冷蔵庫の中を見た僕は愕然とする。
その中には、ただの一つの食料もなかったのだ。
それでは昨日僕がUからもらった食料は何なのか、それは考えればすぐにわかることだった。
彼女が小学校に行っている以上、それは給食に他ならない。
だとしたら、朝と夜は何を食べているのか。
その答えがこの散らかったリビングから読み取れた、Uは両親から虐待を受けている。
彼女は、昨日何も食べてはいないのだ。
虐待の可能性を見た僕は、一度何事もなかったかのように物置に戻った。
【転】少女不十分 のあらすじ③
僕は今後のことに危機感を募らせた。
なぜなら明日からは土日なのだ。
もしUが本当に給食しか食べていないのなら、彼女はこの二日間で死んでしまうかもしれない。
そんな時僕は、靴の中に忍ばせていた一万円のことを思い出した。
その日の夜、僕は一人で食べきれない嘘をついてUと給食を分け合う。
そして彼女が再び物置に鍵をかける直前、彼女の両親がどこに行ったのかを訪ねた。
彼女は「両親はいなくなった」と言って扉を閉めた。
土曜日、僕は一万円をUに手渡しそのお金で食料を買ってきてもらう。
監禁されている以上、それしか方法はない。
多少時間がたったのち、彼女は言われたとおりの数日分の食べ物を買ってきてくれた。
日曜日にはまた別の問題が浮上した、なにせ僕はもう数日風呂に入ってない。
Uに促されるまま、僕は彼女の家の風呂へ。
体を洗い、湯船につかる。
その時、Uが浴室に入ってきた。
幼い少女の裸体を直視してはならないと思いつつも、視界に入った彼女の体を見て僕の予想が確信に変わる。
彼女の体には、顔と見えるところを除いたほぼすべてに青痣と切り傷があった。
【結】少女不十分 のあらすじ④
次の日、小学校に向かう彼女を物置の隙間越しに見送った僕は再び物置から脱出する。
Uのものと思わしき子供部屋は不自然に片付いていて、学習机の上には一冊のノートがあった。
そこにはびっしりと、Uがしなければならないこと、してはいけないことが書かれている。
これは、彼女の親がUをしつけるために作ったものだった。
その理不尽に嫌悪を覚えつつ僕はUの両親の寝室に向かった。
そこには、彼女の両親がお互いの首を絞めあって死んでいる死体だけがあった。
その日、僕は物置に戻らず玄関で彼女を待った。
僕の姿を見たとたん、Uは監禁の失敗を悟り緊張の糸が切れて僕にもたれかかかる。
そして、かつての両親のように眠るまでお話をしていてくれと言った。
僕は彼女にお話をする。
一般的ではない人が一般的ではないまま幸せになる物語を。
間違っても、破綻しても、生きていていいんだと。
夜通し語った次の日、Uを不審に思った人が通報したのか、警察がやってきた。
僕とUは警察に連れていかれ、その後もうUに会うことはなかった。
その十年後、トラウマを語り、物語として無事出版した後のこと。
僕は退職した編集の後釜、次の担当編集との顔合わせに来ていた。
なんでも完全な新人だという彼女は、物語のような経歴を持ったエリートなのだという。
同席してくれるはずの先輩がいないことに緊張しつつ、新人編集「夕暮誘」は僕に挨拶をする。
そんな彼女に僕も十年ぶりとなる、久しぶりの挨拶を返した。
少女不十分 を読んだ読書感想
戯言シリーズや物語シリーズなど、人気作品の多い西尾維新先生の作品の一つです。
先生いわく、十年かかった物語というのもあながち嘘ではないのかもしれないという作品で、普段の先生が多用する言葉遊びなどの要素の一切を廃した意欲作です。
物語の動き自体は極端に少なく、ほとんどが一軒家の中で完結します。
主人公はヒーローではないし、Uもまた誰かが救ってくれるヒロインでは決してない。
しかしそれでも、普通ではないからと言って生きていてはいけないなんてことは決してない。
最後に主人公がUに語ったお話の中にも、そしてこの小説全体にもそんなメッセージがあると思います。
最後の新人編集が誰なのか、言及はないものの自分の想像があっていてほしいと願うばかりですね。
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