「ひまわり変奏曲」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小島史

「ひまわり変奏曲」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小島史

著者:小島史 2021年5月に幻冬舎メディアコンサルティングから出版

ひまわり変奏曲の主要登場人物

田中亜紀(たなかあき)
ヒロイン。幼少期からピアノを習っているが医師にも憧れがある。集中力がある反面に何事にものめり込みすぎる。

田中大三(たいぞう)
亜紀の兄。跡取り息子として甘やかされる。

山下真一(やましたしんいち)
亜紀の高校時代のクラスメイト。快活でロックミュージックに夢中。

佐藤絵美(さとうえみ)
亜紀の師匠。指導は厳しいが温かみのある性格。

ひまわり変奏曲 の簡単なあらすじ

ピアニストを目指しつつ心療内科の分野にも興味があった田中亜紀でしたが、生まれ育った土地の閉鎖的な雰囲気にはなじめません。

家族との関係から学業でもドロップアウトを繰り返し、少しずつメンタル面でのバランスを崩していきます。

既存の医療制度に違和感を覚えた亜紀は、自らがアートとメンタルヘルスを融合した新しい治療法を模索していくのでした。

ひまわり変奏曲 の起承転結

【起】ひまわり変奏曲 のあらすじ①

旧弊な家と町に反旗をひるがえす

八百屋を経営していた田中亜紀の祖母はゆくゆくは家業を継がせるために、孫の中でも1番上の大三ばかりをひいきしていました。

あからさまな男尊女卑に反発した亜紀は、6歳の頃からピアノを習い熱中していきます。

富山県内でもトップ級の泉中央高校を受験できる成績を取っていましたが、母親や担任が勧めてきたのはワンランク下の桜が丘高校。

隣の席に座っていてやたらと放しかけてくるのが山下真一、今度の日曜日にライブハウスでエレキギターを演奏するそうですが亜紀はクラシックしか興味がありません。

富山駅前のデパート「ユニー」で待ち合わせをして、ホットケーキを食べたりコーヒーを飲んだりといった付き合いです。

真一から進路を聞かれた際に、亜紀は理系に進んで医学を学びたいと打ち明けました。

音楽には人間の心を癒やす力があると信じている亜紀の目標は、既存の精神医学では治療できない治療を患者に施すことです。

真一には理解してもらえましたが、代々が文系であるという理由で両親には賛成てもらえません。

3年生になるとずる休みが多くなった亜紀は、学校を中退して独学すると宣言します。

【承】ひまわり変奏曲 のあらすじ②

外れたレールから軌道を修正

亜紀の父親が言うには退学は文部科学省が定めた教育課程に付いていけないのが原因だそうで、社会に敷かれているレールからの脱線とのこと。

そんな父は次第にお酒を飲んで暴れるようになり、家庭内の環境は荒れていく一方です。

孤独と戦いながら受験勉強に励んでいた亜紀は、大阪の公立女子大学から合格通知書を受け取ります。

人文社会学部に入学しましたが、1回生の前期は大学病院に入院することになりほとんど講義に出ていません。

レポートを書いてできる限りの「優」を取得すると、ピアノ部に入ってサークル活動を始めました。

定期演奏会でベートーベン作曲のピアノソナタ第8番を弾き切ったことによって、副部長を任されるほどに。

卒業式までは大講堂でピアノを弾いたり、サークルの追い出しコンパでは仲の良かった部員や教授たちと大騒ぎです。

一方では実家の商売は祖母が亡くなってから傾き始めていき、奇行が目立つようになった父と糖尿病を患う母がいるため大三は家から出られません。

大学を卒業して行き場がなくなった亜紀は、再び心の病になってしまいます。

【転】ひまわり変奏曲 のあらすじ③

渇ききった彼女の心を潤すのは

措置入院から保護室送り、看護師によるベッドの縛り付けに拘束、大量の薬物の投与に注射… 20〜30年も遅れた院内で外の空気さえ吸えない日々が続いていましたが、ようやく解放病棟へ移ることを認められます。

社会復帰の第1歩として堺市三国ヶ丘にある音楽病院で、声楽を教えている先生に師事するようになりました。

息が口から1本の線を描くように歌うことは想像以上に難しく、複式呼吸を使うベルカント唱法もマスターできません。

間借りしているアパートに帰っても夜遅くまで練習しているために、隣人や大家から苦情が舞い込んでくるほどです。

正規雇用の形態でフリースクールの講師として就職が決まり、担当するのは英語とカウンセリング。

不登校の児童から慕われるようになったのは、亜紀自身が苦労まみれの人生を送ってきたからでしょう。

このスクールの中においては年上と年下、男と女、先生と生徒の垣根はありません。

仕事にも慣れてきた亜紀は大学卒業以来遠ざかっていたピアノと向き合うために、大阪市内にあるミュージックスクールへ通いつめます。

乾燥した砂漠にいるようだった亜紀の日々に、鍵盤や楽譜はオアシスのようなときめきを与えてくれました。

【結】ひまわり変奏曲 のあらすじ④

明るい未来への序曲

このスクールで亜紀を担当することになった佐藤絵美は、愛情があるからこそスパルタ式の教え方を貫いています。

笑って泣いて、くじけ折れて立ち直って、出会って別れて… 偉大な作曲家たちの遺作には生きるために必要な要素が秘められていて、その曲に耳を傾けることで彼らの思い出を追体験できるのだそうです。

毎週の診察では相変わらずクリニックの旧態依然は続いているために、亜紀が決意したのは自らのカウンセリングルームを設立すること。

行政が動いてくれないために自費で購入した空き家を事務所にして、全国各地を巡って病棟を開放的にするよう訴えかけていました。

一般社団法人「精神医学センター」では芸術療法が取り入れられ、他の施設では治らないとされてきたクライアントも積極的に受け入れていきます。

来月には55歳の誕生日を迎えることになる亜紀でしたが、特にほしいものはありません。

これからもピアノを奏でて歌をうたうこと、ひまわりのように明るく日差しを浴びて日々を楽しんで過ごすことだけです。

ひまわり変奏曲 を読んだ読書感想

物語のスタート地点は歴史と情緒があふれる城下町、日本海に面した街並みが美しくもこの土地地に縛られた人たちの暮らしぶりも伝わってきました。

自分の感受性を信じて自由を愛する主人公の田中亜紀が、地元でおとなしくしていられないのも無理はありません。

進学もライフワークにしているピアノも決して順風満帆とは言えないものの、挫折を知ってるからこそ周りの人たちに優しくなれるのでしょう。

内科や外科など他の分野と比べるとまだまだ保守的だという、精神医療の現場についても一石を投じています。

医薬品に頼らないアートセラピーやオープンカウンセラーなど、ストレス社会にひと筋の光が射し込むようなラストが感動的です。

コメント