「かすがい食堂」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|伽古屋圭市

「かすがい食堂」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|伽古屋圭市

著者:伽古屋圭市 2021年3月に小学館から出版

かすがい食堂の主要登場人物

春日井楓子(かすがいふうこ)
ヒロイン。地域密着を売りにした駄菓子屋の店員。AD時代は激務が続いて食生活も不規則だった。

春日井朝日(かすがいあさひ)
楓子の祖母。高齢だがまだまだ隠居は考えていない。

翔琉(かける)
楓子の店のお得意さん。9歳だが同世代と比べて体が小さく血色も悪い。

江平凜(えひらりん)
翔琉のクラスメート。好奇心が強く小鳥やハムスターなどが大好き。

荒木田(あらきた)
楓子の元上司。陽気で彫りが深い顔立ち。

かすがい食堂 の簡単なあらすじ

60年に渡って地元で駄菓子屋を続けてきた春日井朝日の後を継いだのは、オーバーワークで体調を崩した孫の楓子です。

さまざまな事情を抱えてやってくるお客さんと触れ合っているうちに、食堂経営にまで乗り出します。

以前の職場への復帰も舞い込んできた楓子でしたが、当面のあいだは家業を守るために地元に残ることを選ぶのでした。

かすがい食堂 の起承転結

【起】かすがい食堂 のあらすじ①

お疲れクリエーターから下町のおばちゃんに

3年間働いた映像系の制作会社を過労で辞めた春日井楓子は、80歳になる祖母の朝日が切り盛りしてきた「駄菓子屋かすがい」を手伝い始めました。

立地は東京の昔ながらの住宅街、書き入れ時は近所の小学校が下校時刻を迎える頃。

押し寄せてくる子供たちから「おばちゃん」などと呼びかけられるのは、25歳になったばかりの楓子にはまだまだ慣れません。

春先になって気になっているのは翔琉という小学4年生の男の子、夕暮れ時に現れては毎回300円分のお菓子をきっちり買っていきます。

それとなく事情を聴いている聞いてみると、母親は夜勤で介護の仕事をしていて父親はいないとのこと。

栄養状態を心配した楓子は、夕食代として渡されている300円で食事を作ってあげることを提案してみました。

最初のうちこそ警戒していた翔琉も、楓子の鉄板ハンバーグを食べてからは少しずつ心を開いているようです。

以前はもんじゃ焼きなどを提供していて、食品衛生責任者の資格を持っている朝日も協力してくれます。

【承】かすがい食堂 のあらすじ②

はぐれダヌキがお得意様に化ける

セミの声がにぎやかになってきた頃、かすがい食堂は火曜日と金曜日の夜に限定して営業していました。

すっかり常連客になった翔琉でしたが、給食をビニール袋に入れて持ち帰っている同じクラスの江平凜のことを心配しているようです。

何度かこのお店にも買い物に来ていましたが、両親ともに健在で食べるものに困っている様子はありません。

毎週土曜日に英会話教室に通っていると聞いた楓子は、授業が終わるのを待ち伏せしてコッソリと後を付けてみることにします。

凜が向かったのはビルの谷あいにぽっかりと存在する空き地、排水溝に挟まって動けなくなっていたのは1匹の子タヌキです。

野生の動物の場合は勝手に捕まえると鳥獣保護法に違反、エサを与えるのも禁止。

楓子の説明に納得した凛、ふたりは木の板を使って溝からタヌキを救い出し安全な場所に逃がしてやりました。

この一件がきっかけで凜もかすがい食堂に顔を出すようになり、買い出しや調理の準備を小まめに手伝ってくれます。

【転】かすがい食堂 のあらすじ③

幸せのスパイスで心も体も空っぽに

かすがい食堂の奥の帳場に秋の日差しが射し込み始めた頃、以前に勤めていた制作会社の荒木田が訪ねてきました。

日本人とは思えない濃い顔と、イタリア人のようなフレンドリーさは相変わらずです。

相談というのは子役の上村夏蓮、企業のサービス紹介やPR映像などを撮る際に一緒に仕事をしています。

彼女が拒食症に悩んだ末に、事務所を辞めてしまったと知っては放っておけません。

ひとつ隣の最寄り駅で待ち合わせをした夏蓮は、病的なほどにげっそりとやせ細っていました。

1日30品目、糖質制限、グルテン・フリー、バナナダイエット、菜食主義、ヴィーガン… 食に対するさまざまな考え方に触れているうちに、何が正解なのか分からなくなってしまったとのこと。

そんな夏蓮にごちそうしたのは、香辛料の風味が口の中に広がるシンプルなカレーライス。

食事をしながら多くの人と話をするのが楽しみだという夏蓮は、少しずつ食欲を取り戻していきます。

茨城で農業をやっている夏蓮の実家からは、野菜を送ってくれるようになりコストの面でも大助かりです。

【結】かすがい食堂 のあらすじ④

それぞれの大好物と夢を囲んで

年末年始がすぎて冬休みが終わった頃、かすがい食堂に新しいメンバーが加わりました。

井上亜香音、翔琉とは同じ学校でしたがふたつ年上で転校してきたばかりのために詳しいプロフィールまでは分かりません。

それぞれが具材を持ち寄って煮込む寄せ鍋の準備をしている時に、亜香音はアルバイトがしたいと打ち明けてきます。

朝食はなし、昼は給食、夜はたまにうどんだけという井上家では食べたいものも食べられないのでしょう。

心の病気を患っていて夜の仕事も長続きをしないという亜香音の母親のために、楓子は紹学校カウンセラーやソーシャルワーカーを紹介することにします。

将来は世界中を回るカメラマンになりたいという亜香音、かつては自分でドラマを作りたいという夢があった楓子。

先日再会した荒木田によると働き方改革も幾分か浸透してきて、やる気さえあればいつでも受け入れ体制は整っているそうです。

再びあの業界に戻るのかは未定でしたが、とりあえずは鍋が冷めないうちにみんなで「いただきます」と手を合わせるのでした。

かすがい食堂 を読んだ読書感想

集合時間は午前4時、30キロの機材を背負ってロケ地に山登り、撮影終了は日付が変わる頃… 人権などないというアシスタントディレクターの過酷さが伝わってきました。

そんなブラックな職場から転がり落ちるように、主人公の春日井楓子がたどり着いたのはノスタルジックな駄菓子屋さん。

平々凡々とした日々が続いてリフレッシュ期間を満喫できるのかと思いきや、困っている人を見捨てられないのは彼女の性分なのでしょう。

家庭の貧困から都会のペット事情、芸能界で横行する過剰なダイエットなど扱うテーマも多種多様です。

年齢も立場もバラバラな彼ら彼女たちを満足させるために、楓子が腕を振るうメニューの数々が美味しそうでした。

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