「雪と心臓」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|生馬直樹

「雪と心臓」

著者:生馬直樹 2020年4月に集英社から出版

雪と心臓の主要登場人物

里居勇帆(さといゆうほ)
主人公。勉強も運動も人並み。作詞家や和菓子職人を志すがいずれも成し遂げてない。

里居帆名(さといはんな)
勇帆の双子の姉。すべてにおいて弟に優っている。勝ち気で好戦的。趣味は蛇を飼うこと。

父(ちち)
勇帆たちの父親。世間体を第一にする公務員。

母(はは)
勇帆たちの母親。専業主婦だが夢見がち。

深間恵(ふかまめぐみ)
両親と父方の祖父母と暮らす小学生。ぬいぐるみやロボットを集めていて好物はいちごタルト。

雪と心臓 の簡単なあらすじ

火事現場から見ず知らずの少女・深間恵を救い出した里居勇帆は、母親に引き渡さずに自分の車に乗せて走り出します。

誘拐犯と誤解されて警察とカーチェイスを繰り広げますが、過去の経験から恵が一酸化炭素中毒で危険な状態だったことを見抜いていたからです。

車は事故を起こしますが恵は無事に救出されて、勇帆も亡くなった双子の片割れの声を聞いて息を吹き返すのでした。

雪と心臓 の起承転結

【起】雪と心臓 のあらすじ①

似てない双子と仮面夫婦

里居勇帆と帆名は日本海から自転車で2時間ほど離れた閑静な町で生まれた双子のきょうだいでしたが、二卵性のために顔はそれほど似ていません。

父親は市役所に勤めていて痩せて背が高く端正な顔立ち、母親はつねに夫の機嫌をうかかがう物静かで世間知らずな性格。

小学生の頃からどの教科でも高い評価を得てスポーツでも男子に負けない姉・帆名に対して、弟の勇帆は何をやっても敵いません。

勇帆と帆名が中学校を卒業する2002年、父は母に暴力を振るい始めて里居家のムードも険悪になっていました。

夫婦ケンカの発端は大学生の頃に付き合っていた男性と再び深い仲になった母が、突然に離婚を言い出したからです。

安定タイプを結婚相手に選んだ母ですが、ミュージカル俳優の夢をかなえてたまたま地方公演のために新潟にやってきた昔の恋人と再燃してしまいます。

職場での自分の立場や親戚やご近所の評判を気にしてばかりの父は、勇帆と帆名が成人式を挙げるまでは表向きは普通の夫婦を演じるつもりです。

【承】雪と心臓 のあらすじ②

さよなら家族

勇帆は入試倍率も低く毎年定員に達しない滑り止めのB高校へ、帆名は県内でも指折りの名門校のA高校へ。

中学の文化祭でバンドを組んで演奏した勇帆は作詞に興味があってクリエイターコンテストに応募して入賞しましたが、父が勝手に受賞を辞退してしまいました。

高校生になってからも相変わらずパッとしない勇帆は、アルバイトをしたり女子生徒とデートをしたりと平凡な日々を過ごしています。

帆名は高校でも単独行動を好んでいて生物研究部というマイナーなクラブに入り、家でも蛇の図鑑を読んだり希少種を集めてばかりです。

大学には進学せずに奄美大島と沖縄の離島を行き来しながら、蛇の毒を採取するスネークミルカーという職業につくつもりでした。

帆名に続いて勇帆も家を出て和菓子の職人に弟子入りすることを宣言したために、もはや父と母も離婚を我慢する必要はありません。

家に残る父と再婚するまで上越の実家で暮らす母のために、帆名が家族の「さよなら会」を開いたのは2004年の初冬のことです。

【転】雪と心臓 のあらすじ③

激震が走り炎上

さよなら会の準備は万端でしたが帆名がクラッカーを買いに行ったきり帰ってこないために、勇帆は様子を見に行きました。

下から突き上げるような強い揺れを感じたのは、勇帆と帆名がホームセンターで合流した時です。

嫌な予感がしてきょうだいは自宅まで引き返しますが、里居家は父の喫煙の不始末が原因で燃え上がっています。

いち早く火事の中に飛び込んでいった帆名の背中を勇帆も追いかけますが、火元に近かった父はすでに息がありません。

帆名の部屋から逃げ出した蛇に驚いて母も気絶している上に、2階から抜き落ちてきた床板に挟まれていて手遅れです。

慌ててふたりは引き返しますが、出入口は焼け落ちたガレキで完全に埋もれていました。

ガレキに体当たりをした帆名はそのまま下敷きになり、わずかにできたすき間から外に逃れた勇帆だけが助かりますが大量の煙を吸い込んだために記憶障害を負います。

それからの8年間は勇帆にとってはつらいもので、アルコールに溺れたり暴れて警察の世話になることも少なくありません。

勇帆が再び火災現場に遭遇したのは、26歳のクリスマスの夜にひとりでドライブをしていた時です。

【結】雪と心臓 のあらすじ④

死の淵で芽生えた姉と弟の絆

2012年の12月25日、深間家の石油ファンヒーターが発火して2階の部屋で眠っていた10歳の娘・恵は窓から泣き叫んでいました。

軽自動車で通りかかった勇帆は火の手の上がる家から恵を抱きかかえて脱出しましたが、8年前の自分と同じように煙で低酸素脳症になりかけています。

彼女の脳に取り返しのつかないダメージが残り大切な思い出が失われてしまう可能性もあり、救急車を待っていられません。

自分で病院に連れていくために助手席に乗せて走り出しましたが、誘拐だと勘違いして通報してしまったのは恵の母です。

2台のパトカーに猛追されるはめになった勇帆の車は、反対車線から来た大型トラックを避けようとして横転してしまいました。

恵は助手席の足元のスペースに潜り込んでいて、シートが緩衝材になったためにケガはありません。

割れたガラスが背中に刺さって一度は息が絶えた勇帆は、夢の中で帆名と会話を交わします。

いざという時に自分の命よりも信念を優先した姉がうらやましかったと勇帆、いつも真っ当に生きていた弟がまぶしかったと帆名。

現場に駆け付けた警察官は勇帆の心臓の鼓動が復活したのを確認して、降りしきる雪から守るために体に防水シートをかけてあげるのでした。

雪と心臓 を読んだ読書感想

男女の二卵性双生児としてこの世に生を受けながら、良いところはすべてお姉ちゃんに持ってかれてしまった残念な弟くんが主人公です。

平々凡々とした毎日を繰り返しても退屈しない里居勇帆に対して、帆名はとにかく何かと戦っていなければ気が済まないのでしょう。

南の島に移住して毒蛇から血清を作るという、誰も考えつかないようや目標を抱いてしまうぶっ飛んだ性格も憎めません。

バラバラになっていく家族と、2004年に実際に中越地方で発生した地震を絡めていてドラマチックでした。

少女を救ったヒーローが犯罪者へと暴走していくのかと思いきや、どんでん返しが待っているラストにも息をのみます。

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