著者:イ・ジン 2020年3月に新泉社から出版
ギター・ブギー・シャッフルの主要登場人物
キム・ヒョン(きむ・ひょん)
主人公。ラジオの極東放送で英語を習得。幼少期にはバイオリンを習っていてギターも独学で学んだ。
イ・ガンヨプ(い・がんよぷ)
ギタリスト。マーロン・ブランドに似た美男子。
パク・ジュンチョル(ぱく・じゅんちょる)
ドラマー。お酒が好きで金づかいが荒い。
パク・ジュンソク(ぱく・じゅんそく)
ジュンチョルの弟。ベーシスト。冷静な倹約家。
キキ・キム(きき・きむ)
ガンヨプの恋人。音楽家の父の血を受け継いだ天才少女歌手。
ギター・ブギー・シャッフル の簡単なあらすじ
軍事クーデターの影響で家族と離れ離れになったキム・ヒョンは、ソウルの在韓アメリカ軍の基地で働き始めます。
飛び入りでエアギターを披露したヒョンと、所属プロダクションから脱退した3人のミュージシャンによって結成したのが「クールキャッツ」です。
メンバーのスキャンダルによってバンドは解散に追い込まれますが、芸能界から離れたヒョンは平凡ながらも幸せな老後を迎えるのでした。
ギター・ブギー・シャッフル の起承転結
【起】ギター・ブギー・シャッフル のあらすじ①
ソウルの南で裕福に暮らしていたキム・ヒョンの人生が一変したのは、1960年に李承晩大統領が失脚した四月革命の頃からです。
父親が行方不明となり叔父に引き取られますが、経営していた製粉工場が傾きかけたために家を追い出されてしまいました。
ヒョンはソウル駅から1キロほど離れた龍山にあるアメリカ軍駐屯基地、キャンプ・ギャリソンで語学力をいかして働き始めます。
ヒョンに与えられた仕事は「ペルパー」と呼ばれる米軍専用クラブの雑用係で、バンドマンのお使いから楽器や照明の運搬までをひとりでこなさなければなりません。
このクラブで1番に人気を集めていたのは大手の芸能事務所「北斗興行」に所属する、ニュースターダストバンドというグループです。
リードギターとしてバンドを引っ張るイ・ガンヨプ、兄弟でドラムとベースを担当する兄のジュンチョルと弟・ジュンソク。
ある時にメンバーの中でも最年長のオ・チョルシクが本番直前に倒れてしまい、ヒョンが代役としてステージに立つことになりました。
【承】ギター・ブギー・シャッフル のあらすじ②
アメリカ兵たちの激しい声援に包まれた中で、ニュースターダストバンドが演奏する曲はザ・ベンチャーズの「ギター・ブギー・シャッフル」です。
チョルシクの体から脱がせた舞台衣装を身にまとったヒョンは素手で必死にギターをかき鳴らしますが、アンプのケーブルはスピーカーにつながっていません。
何とかその日を乗り切ったメンバーたちに、ヒョンはすっかり気に入られてしまいます。
あれこれ言い訳を付けては毎月の給料から差し引かれる手数料、コロコロと変わる公演スケジュールや演目。
前々から北斗興行に不満を抱いていたガンヨプとパク兄弟は、この機会に独立をするつもりでした。
本来であれば4人目のメンバーはチョルシクでしたが、リハビリ施設に入院することになり使い物になりません。
3人から才能を認められたヒョンは南大門のヤンキー市場でピックギターと教本を購入して、必死で練習に励みました。
何とかリズムギターとして付いていけるようになったヒョンは正式メンバーとして認められて、新バンド名は「ワイルドキャッツ」に決まります。
【転】ギター・ブギー・シャッフル のあらすじ③
ワイルドキャッツは10歳の頃から韓国全土を回っている女性アーティスト、キキ・キムの専属バックバンドとしてスタートしました。
キキのアンコールナンバーは「我が心のジョージア」で、この曲を熱唱すると米兵たちも一様に涙を流して武装解除するしかありません。
汗まみれの顔で楽屋裏に引き揚げてきたキキににっこりと笑いかけられて以来、ヒョンの夢の中には毎晩のように彼女が登場します。
そんな中で基地内に広まったのは、キキとガンヨプが交際しているというニュースです。
ガンヨプはキキの他にも何人かのショーガールと関係を持っていて、トラブルが絶えません。
さらには薬物中毒がひどくなり、練習をすっぽかしたりコンサートに穴を空けたりするほどです。
追い打ちをかけるように唯一の肉親である母親が1963年に流行したコレラで亡くなってしまい、すでにギターを持つことさえできません。
ガンヨプに見切りをつけたキキは「キムチシスターズ」というボーカルグループでアメリカ進出を目指し、必然的にワイルドキャッツの解散も決まります。
【結】ギター・ブギー・シャッフル のあらすじ④
アメリカに渡ったキキはラスベガスでのショーに出演して話題になり、ユダヤ系の大富豪と結婚して5人の子供にも恵まれます。
ガンヨプは薬物依存症患者の社会復帰施設に出入りを繰り返した末に、龍山基地の裏通りで目撃されたのを最後に彼の姿を見た者はいません。
パク・ジュンソクはベトナム戦争から帰還してからロサンゼルスに移住して、プルコギ屋の店主として成功しました。
兄のジュンチョルから音楽学院のギター講師の仕事を紹介されたヒョンは、結婚したのを期に音楽活動を引退して義理の父親のしょう油工場で醸造技術を学んでいきます。
長男は国立大学の医学部に合格して医師、次男は工学部を卒業した後にアメリカに留学して研究者、長女は薬剤師。
3人の子供たちの独立を見届けた今となっては、孫たちと遊ぶことが何よりもの楽しみです。
ストリートライブをやりたいという長男の孫のために、ヒョンは数10年ぶりにネックを握り弦に指を走らせて「ギター・ブギー・シャッフル」のコードを押さえるのでした。
ギター・ブギー・シャッフル を読んだ読書感想
第二次世界大戦下では日本軍に支配されて、戦後は資本主義と共産主義によって国土か真っ二つに引き裂かれて。
苦難と激動の20世紀後半の朝鮮半島を舞台に、ギター1本で夢を追う主人公キム・ヒョンの挑戦にワクワクしました。
この本のタイトルにもなっているベンチャーズからジェリー・リー・ルイスまで、1950年代から60年代にかけてのメイド・イン・アメリカのロックンロールの名曲の数々が懐かしいです。
占領軍であるアメリカに対する、ヒョンの愛憎が半ばするような気持ちも伝わってきます。
民主派と軍事派がせめぎ合う、当時の複雑な政治情勢についても思いを巡らせてしまいました。
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