著者:木崎みつ子 2021年1月に集英社から出版
コンジュジの主要登場人物
正木せれな(まさきせれな)
不幸な家族のもとで育った女性。
父(ちち)
せれなの父親。作中に名前は出てこない。
ベラ(べら)
ブラジル人の女性。せれなの父親の恋人。
トーマス・リアン・ノートン(とーますりあんのーとん)
「The Cups」という四人組ロックバンドのボーカリスト。
パトリシア・ロボ(ぱとりしあろぼ)
リアンの妻。イギリスの女優。
コンジュジ の簡単なあらすじ
せれなの父は弱い人でした。
二度リストカットしました。
一度目は失業したとき。
二度目は、妻が男をつくって家出した日です。
その日はせれなの誕生日でした。
その後、父娘ふたりで暮らすうち、父はブラジル人の女性、ベラさんを家につれてきます。
しかし、ベラも家を出ていくと、父は、まだ小学生のせれなに襲いかかってくるのでした……。
コンジュジ の起承転結
【起】コンジュジ のあらすじ①
せれなの父は、二度リストカットしています。
一度目は失業したときで、二度目は、妻が男をつくって家出した日です。
父の妻、つまり、せれなの母親は浮気症で、せれなが九歳の誕生日をむかえた朝、姿を消したのでした。
父は伯母に援助してもらい、なんとか就職しました。
やがて父は、スナックで働いていたブラジル人のベラさんを、新しいお母さんとして家につれてきます。
そうしたなか、十一歳になったせれなは、テレビでロックバンド「The Cups」のボーカリスト、リアン・ノートンに出会うのです。
リアンは十年前に亡くなっており、十周年の追悼として、各局で特集されていたのでした。
リアンに夢中になったせれなは、なけなしの貯金をはたいて、The CupsのCDを買いました。
また、小学校の図書館で、リアン・ノートンの伝記本を読みました。
表紙の写真がセクシーなので借りるのが恥ずかしくて、何度も図書館に行って、その場で読んだのです。
伝記本には、貧しい家に生まれたリアンが、ピアノの練習をし、兄とともに仲間を探して、バンドを組むにいたった過程が書かれていました。
また、死に別れた恋人のことや、後に妻となる女優と出会って、交際を始めるにいたったことも書かれていました。
【承】コンジュジ のあらすじ②
せれなは胸が大きくなり、ブラジャーをつける必要が出てきました。
父とベラさんが、今度の日曜日に買いに行く約束をします。
しかし、約束の日、ベラさんは家にいませんでした。
それ以来、ベラさんは妊婦の身でありながら、家を不在にすることが増えました。
そうするうちに、里帰り出産のため、ブラジルに帰国したのでした。
十か月後、ベラさんは赤ん坊をつれて、父の職場に来ました。
でも、もう父とは暮らさないようです。
それ以来、父が偶然をよそおってせれなの身体にタッチすることが増えてきます。
せれなはリアンと脳内デートするようになっていきました。
ある日、父の不在中、ベラさんが突然やってきて、シチューを作ってくれました。
でも、帰ってきた父は、そのシチューを捨てたのでした。
数日後、せれなはリアンの好物のカレーライスを作ります。
帰宅した父は、自分のために好物のカレーライスを作ってくれたと感激し、せれなを押し倒して、レイプするのでした。
その後、せれなは仮病を使って父を避けようとしますが、じきに見破られて、またレイプされるのでした。
せれなの頭のなかで、リアンとの空想デートが増えていきます。
彼らのバンドといっしょに各国を巡回していきます。
せれなが高校生になったとき、帰宅した父が、カップスの音楽を聞いて、懐かしがります。
ファンなのか、と訊かれたせれなは、曲が好きなだけ、と嘘をつくのでした。
【転】コンジュジ のあらすじ③
せれながリアンに夢中であることが、父にバレてしまいました。
怒って、またレイプしようとする父に、せれなは初めて逆らい、怒鳴りつけます。
部屋を出ていった父は、あとで、玄関で死んでいるのがわかりました。
父は、その夜やってきたベラさんと喧嘩になり、彼女をレイプしたあと、仕返しに殺されたのです。
ベラさんは、その直後に交通事故で亡くなっていました。
せれなは伯母に引きとられました。
せれなは高校を中退してまじめにアルバイトをし、高校を卒業する年齢になると、上京しました。
2DKのアパートで、脳内リアンと同棲生活を始めます。
せれなは、仕事で稼いだお金で、好きなだけ甘いものを食べ、どんどん太っていきました。
脳内リアンは、生活感がにじみ出て、みすぼらしくなっていきます。
ある日せれなは、リアンの伝記本を古本屋で買ってきました。
リアンが、浮気、ドラッグ、未成年との淫行、少年愛、などで破滅へ向かっていく過程が書かれた後半部を読みます。
リアンはあこがれの王子などではなく、ただのクズでした。
せれなは脳内リアンを責めます。
リアンもまた、せれなを責めます、父親にされているとき、感じてたんじゃなかったのか、と。
せれなも負けていません。
リアンの心にいたのは、初めての恋人だった女だけで、あとの女たちは、皆その代理だったのだ、と指摘します。
ふっと気がつくと、リアンは消えていました。
【結】コンジュジ のあらすじ④
せれなは、物音がうるさいと苦情を言われ、アパートを追い出されました。
引っ越したのは隣の町。
リアンとの思い出を吹っ切るのにちょうどよかったのです。
でも、脳内リアンがいなくなって、代わりに現れたのは父でした。
怖いです。
父の幻影によって、子供の頃、脳内リアンといっしょに暮らす、という幻想をいだいていたとき、現実には父にレイプされ続けていたことがわかります。
脳内リアンはせれなの現実逃避の幻だったのです。
せれなはどんどん痩せていき、ガリガリになりました。
しかし、職場でちょっといいことがあり、気をとりなおしたせれなは、リアンの代わりに、その兄のジムのことに興味を持ちます。
ジムは、カップスの四人のなかでは、唯一女遊びをせず、家庭を大事にした人です。
脳内ジムが現れ、せれなに教えます、リアンは少年時代、父から性的虐待をうけていたのだ、と。
伝記を読み直すと、それを暗示させる記述が確かにあるのでした。
再び脳内リアンが現れ、「君が生きていてよかった」とせれなに言います。
なぜ、と訊くと、「僕のソウルメイトだから」と答えて、消えました。
せれなはリアンのお墓を訪ねます。
土を掘り、棺のふたをはぐって、リアンのとなりに身体を横たえます。
ふたを閉めると、真っ暗。
安心して眠れそうです。
その一方で、明日もまた五時半に起きて、仕事に行くのだとわかっているのです。
コンジュジ を読んだ読書感想
第44回すばる文学賞受賞作にして、第164回芥川賞候補作です。
非常に悲惨な育ち方をした少女の物語です。
そんななかで、今は亡きロックスターのトマス・リアン・ノートンだけが彼女の心のよりどころ、となっています。
さて、読んでいて感じたのは、意外な軽さです。
悲惨な物語でありながら、どこか戯画化されたような、非現実的な作風で、軽いのです。
その軽さのおかげで、読んでいるこちらが、主人公といっしょに闇の底まで落ち込んでいかずにすむのです。
著者がそこを計算して、意図的に軽さを感じられるように書いたのか、それとも、これが作者の「地」の作風なのか、そこまではわかりませんが、とにかく結果としてうまくできていると思いました。
あと、物語のラストは、とても切ないです。
いくばくかの救いはあるのですが、なんとも切なくて、長く余韻を残すのでした。
コメント