「残り者」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|朝井まかて

「残り者」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|朝井まかて

著者:朝井まかて 2016年5月に双葉社から出版

残り者の主要登場人物

りつ (りつ)
徳川十三代将軍家定の御台所篤姫(天璋院)の呉服之間に奉公している。幼い頃から母の内職の縫物の手伝いをしていたため、裁縫が得意。

お蛸(おたこ)
天璋院篤姫の御膳所に奉公している中年女性。

ちか(ちか)
天璋院篤姫の御三之間に奉公している。勝気な性格。

ふき (ふき)
天璋院篤姫に仕える御中臈。天璋院付き御中臈の7人の中で一番若い。

もみぢ (もみじ)
和宮(静寛院宮)の呉服之間に奉公している。京育ちのため、京訛りで話す。

残り者 の簡単なあらすじ

時は、慶応四年の四月。

天璋院篤姫がまさに江戸城を去ろうとしていました。

彼女が去った後、奥女中たちも慌てて城を出ていきますが、何故か五人だけ残った者たちがいます。

彼女たちが残ったそれぞれの理由は一体何なのでしょうか。

 

残り者 の起承転結

【起】残り者 のあらすじ①

江戸城大奥を去る天璋院。

呉服之間仕えのりつは、大奥に残る。

慶応四年(1868年)四月十日。

徳川十三代将軍家定の正室天璋院篤姫が、大奥を出る日がやってきました。

前日には、十四代将軍家茂の正室静寛院宮(和宮)も田安邸へと移っていて、天璋院が去ればいよいよ、城が新政府軍へと明け渡されることになっているのです。

大奥を去る前に天璋院は自分に仕えた奥女中たちへの今までの労をねぎらいます。

そして、彼女が去った後、立ち退くことになっている奥女中たちに、冷静に、けれどなるべく急いで支度を整え、大奥を出るよう天璋院は告げるのでした。

御駕籠に乗り、大奥を後にする天璋院。

しかし、彼女が去ると、奥女中はパニック状態になり、我先に立ち去ろうと荷物を手に右往左往。

呉服之間仕えのりつは、その中で柱に肩を打ち付けてしまいます。

ふと辺りが静かになったと思うと、もう全ての女中が立ち去った後でした。

自分も早くしなければと思ったりつでしたが、ふと、呉服之間の状態が気になり、それを確かめてから出ても遅くはないと考えたりつは、自分の仕事場にもう一度立ち入り、針の本数が揃っているかなどを確かめることにしました。

それを終え、城を出ようとすると、誰かの気配を廊下に感じます。

もしかして薩長の軍勢がもう来たのかと思い、近くの部屋に隠れるりつ。

しかし、その部屋に入って来たのは中年の女中、お蛸でした。

【承】残り者 のあらすじ②

りつ、お蛸とちかに遭遇し、共に猫を探す。

お蛸は、天璋院の愛猫サト姫がこの部屋に入って行くのを目撃したので、捕まえて、ちゃんと天璋院の元へと連れて行こうと思って、それで大奥に残っていたのでした。

彼女は、天璋院の三度の飯の他に、サト姫のエサの給餌も担当していたのです。

自分よりも下位の者を置いて城を去ることは出来ないので、りつはお蛸とサト姫をがらんとした大奥内を探して歩きます。

その途中に出会ったのが、御三之間仕えの女中ちか。

ちかは、なんと無謀にも一人で籠城し、やって来た官軍を迎え討とうとして、大奥に残っていたのです。

そんなちかも加わって、サト姫を探し、やっとの思いで捕まえた三人。

そして、どうせサト姫を連れていくならいつもサト姫を入れている籠に入れて行こうと、ちかが提案します。

それに賛成したお蛸とりつ。

三人は、籠がいつも置いてある天璋院の部屋へと急ぎます。

しかし、そこには二人の女中がいました。

御中臈のふきと静寛院宮の呉服之間仕えのもみぢです。

【転】残り者 のあらすじ③

りつともみぢの裁縫の腕比べ。

五人で共に過ごす大奥最後の夜。

ふきは、三人が、何故、大奥に残っていたのかそれぞれ事情を聴き出します。

しかし、自身が残った理由は口にしません。

それは、もみぢも同じでした。

やがて、話の流れで、もみぢとりつは裁縫の腕を競うことになります。

一方、ふきは、お蛸とちかに一足先に城を出て、天璋院の元へ猫を連れていくよう申し付けます。

ちかは、その言いつけに不服そうでしたが、身分が上の御中臈のふきの言いつけなので、逆らえません。

そして、和宮の呉服之間にて腕比べが行われることになりました。

その準備の最中、もみぢが何故、大奥に残ったのかが判明します。

理由は、りつのそれと変わらず、自分の仕事場であった呉服之間の整理整頓のためでした。

もみぢに親近感を抱くりつでしたが、腕比べでは手を抜きません。

しかし、結果はもみぢの勝ちでした。

彼女の裁縫の技術に恐れ入ったりつは、素直にそれを褒め称えます。

しかし、褒められることに慣れていないもみぢはひどく戸惑い、しばらく一人になるため部屋を出ます。

もみぢがいなくなると、ふきは、御中臈としての慄然とした態度を崩し、江戸っ子口調で話し出します。

それがふきの本当の姿なのでした。

彼女は男と会う約束があり、そのために残ったと言いますが、真意は分かりません。

夜になり、一度一橋邸へサト姫を届けに行ったはずのお蛸とちかも戻って来ます。

また、気持ちが落ち着いたもみぢも戻って来ました。

こうして五人の女たちは大奥最後の夜を共に過ごすことになります。

【結】残り者 のあらすじ④

大奥の最後、明け渡しの時。

そして、訪れる新時代。

明朝、りつは、大奥が官軍に明け渡されるのを見届けてから、この城を出るのはどうかと皆に提案します。

それを見届けたら、この場所に未練が残っている気持ちを断ち切れるような気がしたからです。

それは、己の仕事に誇りを持って働いていた他の女中たちも感じていたことでした。

そこで、天璋院の部屋の奥の隠し部屋からその様子を見届けることになります。

やがて、足音荒く押し入って来た官軍は、天璋院の部屋の調度品を乱暴に奪っていきます。

その様子をこみ上げる憤りを抑えつつ、見つめる五人の女たち。

やがて、官軍が出て行くと、隠し部屋の奥の床下の地下の隠し通路から脱出を試みます。

そうして、地下通路を進んで行くと出口に人影がありました。

それは、番医師をしている村田という者。

ふきは、村田とここでこの日に会う約束をしていたそうです。

実は、ふきは天璋院に今回の城の明け渡しに納得がいかず、この大奥に残ろうという者がいるかもしれないから、そういう者を見つけたら、無事に城の外に出してやって欲しいと頼まれていて、その手引きを知り合いの村田に頼んでいたのでした。

地下通路から無事に城の外へと出た五人の女たち。

彼女たちの新たな人生が始まろうとしています。

それから、17年後、五人は浅草の料亭で久しぶりに再会します。

りつは、律子、もみぢは、親が付けた名前のらく、ちかは、千賀子、お蛸は、竹代、ふきは、蕗子と名を改めて、それぞれの人生を歩んでいました。

律子とらくは、共同で仕立て屋を開業し、繁盛している様子。

千賀子は、新政府の官吏と結婚し、四人の子供の子育て中。

竹代も縁に恵まれて、今は亭主と仲良く料理屋を営んでいます。

そして、蕗子はあの村田と結婚し、医者になっていたのです。

食卓を囲み、楽しく会話を交わす五人。

新しい時代になっても、彼女たちはたくましく生き続けていました。

残り者 を読んだ読書感想

大奥を舞台にした作品は、他にもあるが、その主人公は御台所や側室がほとんどです。

しかし、この作品は、その大奥をそれぞれの持ち場で働き支えた奥女中たちが主役になっています。

彼女たちがいかに、自分の仕事に誇りを持ち、大奥で生きていたのか。

その居場所を、不条理な情勢の流れで、出て行かなくてはいかなくなった憤りと不安。

そんな奥女中たちの胸の内が読みやすく描かれていて、楽しく、時には切ない気持ちにさせられます。

最後の方の、官軍に天璋院の部屋がめちゃめちゃにされるシーンは、象徴的であり、苦しいです。

それでも、自分の心に区切りをつけ、新しい時代へと歩き出す彼女たちがたくましく、爽快感を感じます。

 

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