著者:朝井まかて 2018年2月に徳間書店から出版
雲上雲下の主要登場人物
草(くさ)
この作品の主人公。通称は草どん。深山の奥の草原に生える謎の大きな草。色んな昔話を何故か知っており、それを子狐らに話して聞かせる。
子狐(こぎつね)
ある時、草原に迷い込む。そこに生えていた草を勝手に「草どん」と呼び、懐き、昔話をせがむ。何故かしっぽが根元から無い。
山姥(やまうば または、やまんば)
草どんの昔馴染み。久方ぶりに草原に姿を現す。恩着せがましい性格。意外と美しいものや可愛い小物を好む。
小太郎(こたろう)
昔話の登場人物。ある日、草原に姿を現す。生みの母を求める旅をしている。
九尾の狐(きゅうびのきつね)
九つの尾を持つ伝説の妖狐。子狐の母親。玉藻前(たまものまえ)という名を持つ。
雲上雲下 の簡単なあらすじ
深山の奥の草原に謎の大きな草が生えていました。
その草の元に、ある日一匹の子狐がやって来ます。
草のことを「草どん」と呼んで懐く子狐は、草どんにお話をせがみます。
せがまれるまま、昔話を話して聞かせる草どん。
やがて、そんな彼らの目の前にお話世界の住民である小太郎が現れます。
草どんが語るどこかで聞いたことがあるような懐かしいお話の数々。
そして、それらを取り巻く環境の変化が描かれます。
雲上雲下 の起承転結
【起】雲上雲下 のあらすじ①
深山の奥深く、大きな樫の樹の洞を通ったところに開けた草原がありました。
そこにこのお話の主人公である名もなき大きな草(通称:草どん)は植わっています。
草どんは、自分がいつからこの草原にいるのか知りません。
それくらい長いことこの草原におりました。
そんな草どんのところにある日、一匹の子狐がやって来ます。
その子狐は少し変わっていて、しっぽがありませんでした。
子狐は、草どんに懐き、自分が寝る時に母狐がするようにお話をしてくれと草どんに頼みます。
子狐にせがまれるまま、草どんは昔話を聞かせます。
こさえた団子が転がって庭の穴に落ちたのを追って行った老夫婦の話。
子狐は、眠るどころか草どんの話に耳を傾け続けます。
そんな子狐に草どんは、色んな話を聞かせます。
そして、草どんは、自分が思いがけず沢山の物語を知っていることに初めて気付きます。
それは不思議な感覚でした。
まるで物語が泉から湧き出る水のように、己の底から次々と湧いて出て来るのです。
自分のことは何も知らないのに、どうしてこんなに沢山の物語を知っているのだろうと草どんは、疑問に思います。
【承】雲上雲下 のあらすじ②
聴き手が増えて続く草どんの昔語り
あんなに懐いていた子狐でしたが、ここしばらく姿を見ません。
草どんは、平気なふりをしていますが、正直言うと少し寂しさを感じていました。
そんな時に現れたのは、山姥。
草どんとは顔なじみで、彼女がこの草原に現れるのは久方ぶりでした。
その山姥が、背負っていた風呂敷を開けると、中には傷だらけになったあの子狐がいました。
どうも他の子狐たちと喧嘩になって、いじめられた末に負った傷だそうです。
その子狐を介抱したのが山姥でした。
山姥は、眠りから覚めた子狐に、母狐に会ったら山姥がそのケガを治したことをよくよく言い聞かせるようにと念を押します。
どうやら山姥は、子狐の母親を知っていて、その母親に恩を着せて、何か見返りに得ようと算段しているようです。
一方、子狐は草どんにまたお話をせがみます。
そして、草どんはまたお話をしてやるのです。
今度は、山姥も聴き手に加わり、草どんの昔語りが始まります。
竜宮城に仕える亀の話、拾われた寺の和尚を真似てお経を読んだ猫の話。
山姥は、その話にいちいち文句をつけます。
山姥は、恩がすぐに報われないお話があまり好きではないようです。
【転】雲上雲下 のあらすじ③
そんな風に子狐と山姥相手に昔語りをしていた草どんでしたが、ある日、彼らがいる草原に小太郎という少年が姿を現します。
この少年の出現に驚く草どん。
何故なら、小太郎は昔語りに出て来る人物だからです。
小太郎は、自分を産んだ母親を探す旅の途中のようでした。
その道を子狐が親切にも教えてあげると言い、草どんがいる草原の端の崖の中を通る細い獣道を案内します。
そんな子狐を見ながら、草どんは小太郎が出て来るお話を振り返ります。
それは、まさしく小太郎の本当の母親探しの旅の話でした。
貧しい農村に住む女性に拾われた小太郎が、自分の出自を知るために育った村を後にして、一人、自分が流れて来たという川の水源にいる母を求めて旅する話。
しかし、そんなお話の中の登場人物の小太郎がどうして自分たちの目の前に現れたのか草どんは不思議でなりませんでした。
更に驚くことには、小太郎の道案内を終えて帰って来た子狐にしっぽが生えていたのです。
一体、何が起こっているのか、草どんはますます不思議がります。
しっぽが生えた子狐は嬉しそうにしています。
そして話題は、いつしか山姥の過去の話へ。
その話ももちろん、草どんは知っていました。
山姥は語るのが下手なので、草どんが山姥の話の出だしを引き継いで、その話を語ります。
その話を終えた後、山姥は泣き出してしまいました。
それを慰める、子狐。
そして、次の朝、山姥の姿は消えていました。
山姥の姿を求めて草原を歩き回る子狐。
草どんは、その子狐のしっぽが更に伸びて更に色が変わっていることに気付きます。
【結】雲上雲下 のあらすじ④
そんな時、突如草原に九尾の狐が現れました。
この妖狐こそ、子狐の母親でした。
九尾の狐は、草どんに礼を言い、それからふと草どんに自身のことを思い出すようにと願い出ます。
更には、草どんの名前を口にします。
「福耳彦命」と。
その名に驚愕する草どん。
しかし、九尾の狐が知るのはその名前だけ。
後は、自分で自分の物語を思い出さなければならないというのです。
そして、そうしなければ、この世界から草どんが消えてしまうとも言います。
実は、昔話が人間たちの間からあまり語られなくなった今、昔話の登場人物たちに存在の危機が迫っているというのです。
彼らは、人間たちがお話を語って初めて存在し得るので、それが語られなくなると消えてしまうらしいのです。
そこで彼らは、物語の世界の住民たちが安心して暮らせる別の次元の世界へ旅立とうとするのですが、その旅に草どんも同行して欲しいと言います。
しかし、草どんは自分のことを思い出さないとそこから動けません。
しかしなかなか自分を思い出せない草どんは、とりあえず、彼らを先にその世界へと旅立たせました。
そして、崩れゆく世界の中、草どんはようやく自分の正体とそれにまつわる物語を思い出すのです。
全てを思い出した草どんでしたが、彼の存在はまだ草のままでした。
そこに消えたはずの山姥が再び姿を現します。
ふと、見ると草原と山の森の中を繋ぐ樫の樹の洞から外の世界が見えます。
そこには四角い箱のような建物(おそらくマンションかと思われます)が見えました。
その中から一人の女性が出てきて空を仰ぎ見ます。
空は晴れているのに雨が降っていて、それを見て「狐の嫁入りだ」と声を上げる女性。
それを聞いていた彼女の子供が不思議がるので、女性は今夜寝る前にそのお話をしてあげようと約束します。
そうです。
人間は、どれほど時代の変化を遂げても、物語を必要とするのでした。
だから、草どんも山姥もまだ存在し続けられるのです。
雲上雲下 を読んだ読書感想
朝井まかてさんの直木賞受賞作「恋歌」を読んでから、彼女の作品の虜になり、幾つか彼女の作品を読んできました。
そんな時、彼女がファンタジー小説を発表したと知り、ファンタジーが大好きな私は喜んでその作品が読める日を待ちに待っていました。
しかし、「雲上雲下」は、ただのファンタジーではありませんでした。
様々な娯楽が溢れる現代では、昔話の需要が減っていて、お年寄りに昔話を語ってもらう企画を学校側が立ち上げるも残酷なお話は無しの方向でお願いされたりする現状があるそうです。
そうした現状を踏まえて、朝井さんは当初予定していたのとは違う方向へ物語を展開させることにしました。
私は、昔話とか子供の頃から大好きなので、それが無くなってしまったり、時代のニーズに合わせて内容が書き換えられるのは嫌です。
昔話が生まれた背景には、必ずその時代を生きた無名の人たちの想いがあるからです。
でも、私のような聴き手(或いは読者)がいるなら大丈夫ですよね。
私も、草どんのように色んなお話を語れるよう年を重ねたいと思いました。
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