「鳥がぼくらは祈り、」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|島口大樹

鳥がぼくらは祈り、 島口大樹

著者:島口大樹 2021年7月に講談社から出版

鳥がぼくらは祈り、の主要登場人物

ぼく(ぼく)
物語の語り手。高校2年生だか進路は未定で何事にも精が出ない。夜の商売をしている母とふたり暮らしで生活環境は荒れている。

高島(たかしま)
ぼくの友人。四六時中カメラを回したり専門書を読んでいる。

山吉(やまよし)
ぼくのクラスメート。ガタイがよくラグビー部に勧誘されたこともある。

池井(いけい)
山吉とコンビを結成。実家は電気屋だが卒業後は養成所に入る予定。

鳥がぼくらは祈り、 の簡単なあらすじ

中学1年生の時に地元で意気投合した「ぼく」、高島、池井、山吉は高校に進学してからも仲良しです。

夏休みに入る前に池井がみんなと少しずつ疎遠になっていき、借金を苦に自らの命を絶った父の報復を計画していることを知ります。

祭りの当日に高島・山吉と協力して池井の凶行を止めたぼくは、うまくいっていなかった母親とも向き合い始めるのでした。

鳥がぼくらは祈り、 の起承転結

【起】鳥がぼくらは祈り、 のあらすじ①

暑い町で何かに熱中する少年たち

都市部のヒートアイランド現象の影響を受けた風と、群馬や秩父からのフェーン現象による重たい空気。

ふたつの熱風がぶつかる埼玉県でぼくは生まれて、日本一の暑さを争う熊谷市の高校に通っていました。

6月に入るとすでに真夏のような気温が続いていたために、放課後になると向かう先はクーラーが効いている「池井電器店」の2階です。

応接室兼作業室のようなスペースになっていて、店主の息子・池井とは同じクラスなため時間を気にする必要はありません。

最近になってお笑いタレントを目指すと言い出した池井は、山吉という相方を見つけてきここで漫才の練習をしています。

ふたりが台本を書いたら真っ先に見せる相手がぼく、ビデオカメラで録画するのは高島。

映画を作りたいという高島がいちばん最初にしたことがアルバイトで、このカメラを買うだけでも15万円はしたでしょう。

ぼくらと仲の良かった先輩たちは大抵が県北のどこかの工場に就職するか運送業に従事するかで、中には裏社会に足を踏み入れた人もいます。

もっと広い世界に行きたいという高島たちには共感できるものの、ぼくには特にやりたいことがありません。

【承】鳥がぼくらは祈り、 のあらすじ②

命がけの精算をした父と体を張る母

梅雨入りしてから何となく憂うつな日々が続いていると、池井の父親が亡くなったとグループラインから連絡がありました。

会社を立て直すために闇金にまでお金を借りた揚げ句に、ギャンブルにまで手を出していたので相当追い詰められていたのでしょう。

自らの死をもって借金は帳消しとなり、電気屋はすでに買い手がついていて土地と建物を明け渡すことが決定済みです。

お葬式は親族だけで執り行われたためにぼくたちが参列する必要はなく、たまり場になっていた2階の部屋も使えないためみんなで集まる機会がありません。

7月になると街全体が沈み込むような長雨が目立ち、日付が変わっても眠れないぼくは何も考えないように散歩をしていました。

体は自然と熊谷駅前に動いていましたが、この辺りには母親が働いている風俗店があるために嫌悪感が湧いてきます。

全国でも名の知られた組織の3次団体「枡田組」の息がかかっている店ですが、すべては女手ひとつでぼくを育てるためで文句は言えません。

【転】鳥がぼくらは祈り、 のあらすじ③

お祭りムードの裏で危険な出し物準備

ぼくらの高校の隣にある西高のOBと池井は顔見知りで、たまたま繁華街で鉢合わせをした時に枡田組とトラブルになっていることを聞き出しました。

西高では一部の不良が違法な薬物のルート販売に手を出していて、背後で糸を引いているのは群馬県に事務所を置く枡田組の敵対組織です。

襲われた仲間のかたきを取るというOBはターゲットの顔写真をスマホに保存していて、池井家にも何度か取り立てに来ていたために見覚えがあります。

生前の父親は10代かと思われるその若い組員に頭を下げていていて、無心や返済期限の引き延ばしをお願いしていたのでしょう。

決行日は7月21日〜23日までのあいだ、熊谷市屈指のイベント「うちわ祭り」の期間中。

1日目は出店が少なく盛り上がりに欠け、3日目は県外からの来場者が多いために危険が伴います。

中日が狙い目だということで、それまでに作戦会議や情報収集を行うというOBに池井は手助けを申し出ました。

うちわ祭りはここ3年ほど山吉たちと一緒に見物するのが恒例になっていましたが、今年は参加できそうにありません。

【結】鳥がぼくらは祈り、 のあらすじ④

雨降って友情と親子の絆が固まる

うちわ祭りまで1週間を切ってもぼく、高島、山吉だけが顔を合わせているだけで4人全員がそろうことはありません。

7月22日午後7時に駅北口のロータリーで待ち合わせをした3人よりも早くに、池井はメイン通りとなる国道17号線で待機していました。

屋台は主に「テキヤ」と呼ばれる専門業者が切り盛りしていましたが、売上金の一部がみかじめ料として枡田組に収められます。

巡回している若衆を襲撃するのが池井に与えられた役目、ポケットに忍ばせているのは小型のナイフ。

標的まであと2メートルに迫った瞬間、右手に握りしめたナイフを蹴り飛ばしたのは山吉です。

直後にゲリラ豪雨が降り注ぎ雨宿り場所を求めて走り回る人たちであふれかえり、狙っていた男の姿はありません。

ずぶぬれのまま高島家に駆け込んだぼくら、池井と山吉は久しぶりに新ネタを披露します。

暴力団員を本気で刺そうとした高校生の笑い話だそうで、一部始終を撮った高島がうまいこと編集してくれるそうです。

解散して帰宅したのは午前4時、明かりの消えた室内で眠らずに待っていた母にぼくは「ねえ、母さん」と話しかけるのでした。

鳥がぼくらは祈り、 を読んだ読書感想

真夏になると気温が40度近くにまで跳ね上がることで有名な、あの地方都市がストーリーの舞台になっています。

荒川の流れと関東平野の広がりに挟まれた独特な地形からは、どこにも行けない閉塞感も伝わってきました。

高卒で肉体労働に明け暮れる若者たちの無力感や、主人公の男子高校生が将来を見出だせないこととも無関係ではありません。

シングルマザーや家庭崩壊などの切実なテーマも取り上げつつ、反社会的勢力の暗躍にも鋭くメスが入れられていて考えさせられるでしょう。

全編を覆っていた重苦しいムードが一気に晴れ渡っていく、終盤の祭りのシーンが爽快です。

コメント