「ピン・ザ・キャットの優美な叛乱」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|荻世いをら

「ピン・ザ・キャットの優美な叛乱」

著者:荻世いをら 2013年8月に河出書房新社から出版

ピン・ザ・キャットの優美な叛乱の主要登場人物

A(えー)
主人公。年金未納の在宅ワーカー。気持ちの浮き沈みが激しい。

B(びー)
Aの生涯のパートナー。地主階級の娘でお金に困っていないが事務バイトをこなす。

あじ(あじ)
Aたちの飼い猫。雑巾猫やさび猫などとも呼ばれる種類。人間不信に陥っていたが少しずつ懐いてくる。

平平(ぴん)
Aたちの2匹目の飼い猫。気性が激しく目立ちたがり屋。

ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 の簡単なあらすじ

AとBが1匹の傷ついた野良猫・あじの里親を引き受けることになったのは、地域猫を保護する大学内のサークル活動がきっかけです。

あじは体質的に出産には恵まれませんでしたが、新しく家族に加わった子猫のピンをわが子のようにかわいがります。

やがて夫婦となったAたちが子どもを無事に授かった後で、病を患っていたあじはこの世を去るのでした。

ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 の起承転結

【起】ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 のあらすじ①

恋人たちの猫愛が開眼

都内の大学に通っていたAはひどく落ち込んでいましたが、自分でも詳しい原因が分かりません。

秋の日の暮れた校舎を目的もなく歩き回っていると、階段を降りきった先の壁に「猫の里親募集中」と書かれた紙を見つけました。

名前はあじ、メスで生後2カ月、品種はダスターキャット、捕獲場所は高円寺の繁華街の裏道… 賃貸マンションで同せい中のBがさび柄の猫を前々から飼いたいと言っていたことを思い出したAは、すぐに貼り紙の主と連絡を取ってあじを引き取ります。

ひどく痩せこけていて左目は失明寸前で、もう一方の無事な目も人間に対する殺意と不信感でいっぱいです。

この日からAとBの生活は猫を中心にして回っていき、1日数回の点眼薬から猫用の高額なサイエンスダイエット食まで手間とお金を惜しみません。

気がつくとあじは立派に育っていて、敵意のまなざしもいつの間にか天使のような瞳に変わっています。

これまでは見解の相違や言い争いが多かったふたりですが、何とか乗り切ることができたのもあじのおかげでしょう。

【承】ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 のあらすじ②

ふくらみ始めた期待がしぼむ

あじは順調に5歳になり、交際期間が6年目に突入したAとBはこのタイミングで婚約をしました。

人生のターニングポイントにおいて、ふたりはあじに子どもを産ませることを思い付きます。

あじがいつか居なくなってしまうことを恐れているA、発情期になると鳴き声がうるさくて精神的に参っているB。

それぞれの思惑は微妙に異なりますが、Bの実家にはメインクーンのオスがいてお相手にはピッタリです。

あじがメインクーンとの対面を果たしたのがうだるような暑い夏で、おなかが信じられないくらい膨らみ始めたのがすっかり寒くなった頃です。

食欲は旺盛で体調もきわめて良好ですが、出産予定日を過ぎても音沙汰がありません。

目白の動物病院に連れていき獣医師 に念入りに触診・エコー診断をしてもらうと、腹部にガスが充満していただけだと判明しました。

その後も想像妊娠を繰り返すあじを見ているのはつらいために、地域猫の会から同じような模様がついた赤ちゃん猫をもらいます。

【転】ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 のあらすじ③

食うや食わずの大問題

新しい方の猫は平凡かつ幸福に生きてほしいという願いを込めて、平平(ピン)と名づけられました。

ダイニングテーブルの下で様子を伺っていたあじも、すぐに警戒心をといて毛づくろいをしてあげます。

無邪気にじゃれあっている2匹は、傍目には血のつながった親子にしか見えません。

区役所でアルバイトをしているBは日中は猫たちの面倒を見ることができないために、たいていは自宅にいて海外ドラマにウェブ配信用の字幕をつける仕事をしているAの役割です。

いち早くあじの異変に気がついたのもAで、ある日の晩に急に横になったままで動かなくなりました。

診察の結果は腎不全の末期、年齢的には6歳とまだまだ若いために生活習慣が原因ではなく遺伝でしょう。

ゼリー状のウェットフードが1つ100円、水に溶けやすいネフガード2週間分が1500円、腎不全用のドライフードが2キロで4000円。

収入が不安定なAにとってはかなりの負担で、弱っているあじの横からピンが割り込んできて食べてしまうのは死活問題です。

【結】ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 のあらすじ④

傍若無人なキャットシャウトでお見送り

間もなくBの妊娠が発覚しますが、もともと風しん抗体の数値が高いために胎児の臓器に不備が起こる可能性があります。

不安にさいなまれて泣いているBの側に静かに寄り添っているのはあじ、構ってほしくて走り回っているのはピン。

再検査の結果で問題がないとお墨付きをもらったBは親になることを決意し、早産でしたが適正体重で母子ともに健康です。

AとBがペット業者の闇に触れたのは、あじが死んで火葬場の手配をしている時のことでした。

ほとんどの業者は朝早くに遺体を回収、夕方に遺骨だけが戻ってくるというスタイルで飼い主の立ち会いが認められていません。

他のペットと一緒くたに焼いて、適当に分けた骨を返しているのは明白でしょう。

インターネットで見つけたのは、目の前で火葬して猫用のひつぎに収めてくれる良心的なペット葬儀屋です。

家族の景色に交じり込んできた黒い喪服姿のスタッフに、生まれたばかりの息子はおびえています。

相変わらずマイペースなピンはエサを要求するために叫んでいますが、AとBは不思議と自分たちがその声に救われているような気になるのでした。

ピン・ザ・キャットの優美な叛乱 を読んだ読書感想

プロレタリアートの出身で会社組織になじめないA、裕福な家庭で生まれ育ちながらも働き者のB。

まるっきり正反対のふたりがいかにしてお付き合いを始めたのか、多くは語られていないために想像を巡らせてしまいました。

若くしてけんたい期に突入したかのようなカップルの関係を修復する幸運の女神が、2匹の猫だというのが運命的ですね。

ペットが人間に与えてくれる癒やしや楽しみだけでなく、その命を引き受ける大変さについても考えさせられるストーリーです。

実の親子以上の絆で結ばれたあじとピンの別れには胸が痛みますが、新たな家族の誕生で美しく締めくくってくれました。

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