著者:吉成タダシ 2013年4月に文芸社から出版
P・M ペットボトル・マジックの主要登場人物
杉山コウ(すぎやまこう)
主人公。高校3年生で進学コースに在籍。入学以来何となく3年間を過ごしてきた。
和泉澤由夏(いずみさわゆか)
コウとは同い年。初対面で打ち解けるが秘密主義なところもある。
一希(かずき)
コウのクラスメート。調子よく輪の中に入っていける。
舞(まい)
一希の彼女。前に出て仕切りたがるタイプ。
和泉澤浩一(いずみさわこういち)
結夏の兄で故人。生前は消防士を目指していた。
P・M ペットボトル・マジック の簡単なあらすじ
高校3年生になっても特に変わったことがなく退屈していた杉山コウが、偶然にも知り合ったのはよその土地からやって来た和泉澤由夏です。
彼女と過ごすことにすっきり夢中になってしまったコウは、クラスの友人たちとは疎遠になっていき受験にも身が入りません。
やがては結夏に出発の時が訪れて、季節が秋を迎えた頃にコウも平凡な日常生活へと帰っていくのでした。
P・M ペットボトル・マジック の起承転結
【起】P・M ペットボトル・マジック のあらすじ①
夏休みに入ってすぐの高校生活最後の総体で杉山コウは、レギュラーを取ることもできずに試合に出場するチャンスも巡ってきませんでした。
あとは大学受験に向けた毎朝の補習と、2学期半ばの文化祭の展示物の制作の他は取り立てて予定もありません。
いつもの月曜日、自転車に乗って学校へと向かう途中で川沿いの堤防の上に見慣れない女性が立っています。
長くて白っぽいフレアスカート、ひとつに束ねられた黒いストレートの髪の毛、すっきりとした顔立ち。
朝日に浮かび上がるその真っ白なシルエットが気になり、同じクラスの一希に聞いてみますが心当たりはないそうです。
お付き合いをしている舞とともに文化祭実行委員に選ばれた一希は、いかにして当日までにブースを埋めるのかで頭がいっぱいなのでしょう。
ようやく彼女に話しかけることができたのは2日後の水曜日、名前は和泉澤結夏でコウと同じく高校3年生。
次の日にも同じ時間、同じ場所で会ってほしいと向こうからアプローチがありました。
【承】P・M ペットボトル・マジック のあらすじ②
木曜日の朝早くに目覚めたコウは、昨日までとは違いエネルギーに満ちあふれて少しの緊張感も抱えながら家を出ました。
堤防へとつながる1本道を曲がると、すでに結夏は待っています。
メールアドレスか電話番号の交換を申し込みましたが、彼女は携帯電話を持っていないそうです。
住んでいるところも「ここよりも涼しい場所」と何となくかわされてしまい、はっきりとは教えてもらえません。
それでも金曜日にはこれまでのように朝ではなく、午後から会う約束を取り付けることができたので上々でしょう。
土日には思い切ってデートに誘ってみますが、行き先が海と聞いた途端に結夏は浮かない表情です。
郊外にある大型ショッピングセンターに併設されているシネコンに変更すると、すぐに気分を直してくれました。
映画のエンドクレジットが流れる頃に、結夏はこの街に10日だけ滞在していることを打ち明けてきます。
結夏と出会って8日目の月曜日、彼女と会えるのもいよいよ今日を入れて3日しかありません。
【転】P・M ペットボトル・マジック のあらすじ③
学校の課題にまったく手を付けていないために母親からは叱られたコウは、久しぶりに文化祭の準備に顔を出してみました。
打ち合わせの最中にも一希や舞の視線が冷ややかに感じられるように、ここにも居場所はありません。
台風が近づいてきているということで午前中で切り上げになり、気持ちが落ち込んだままで家路につきます。
火曜日の朝に雨風が窓をたたきつける音で目を覚ますとさすがに外出するのは無理そうで、いよいよ明日1日だけになってしまったのは痛いです。
水曜日に始まりの場所とも言える堤防で待ち続けますが、いつまでたっても結夏は姿を現しません。
月曜日、火曜日、水曜日… 指を折って数えてみると確かに今日で10日目のはずですが、結夏がコウと初めて会った月曜日は早朝の時間帯でした。
彼女がこの街に到着したのは前日の日曜日の夜遅く、つまり今日は11日目だったことにようやく気がつきます。
焦りの中で結夏の痕跡を見つけるために街中を駆け回ったコウが見つけたのは、街灯のくびれた部分に縛り付けられていた1本のペットボトルです。
【結】P・M ペットボトル・マジック のあらすじ④
空っぽのペットボトルを底の方からのぞいてみると、まるで自分が水の中にいる気持ちになり魔法のようでした。
キャップを外すとコウの手のひらに転がり込んできたのはUSB、すぐに自宅に帰ってパソコンの端子に挿し込みます。
ディスプレイに映し出されたのは音声ファイル、再生ボタンをクリックするとヘッドホンを通して聞こえてきたのは結夏の声です。
結夏には浩一という兄がいたこと、正式な訓練を受ける前に人命救助のため海に飛び込んだこと、兄を含めて多くの人がその海難事故で亡くなったこと。
あの堤防は兄が入学する予定だった消防学校が向こう岸に見える絶好のスポットで、初めてコウと自己紹介をした時にその名前を聞いて他人とは思えなかったそうです。
将来は誰かを助けられる仕事に就きたいという結夏のメッセージは、この夏にここに来られて本当に良かったという言葉で締めくくられています。
夏の思い出を詰め込んだペットボトルを秋のにおいがする海に投げ込んだコウは、明日から学校に行って行事にも勉強にも本腰を入れることを決意するのでした。
P・M ペットボトル・マジック を読んだ読書感想
主人公の杉山コウは18歳の夏という人生において最も輝かしい時間を迎えながらも、スポーツもテストの点数でもパッとしません。
そんなちょっぴり残念な男子高校生が、ある日の朝に見知らぬ女の子の人影を目撃するオープニングが鮮烈でした。
浪費してきた青春を一気に取り戻すかのようなコウがほほえましくもあり、家族や級友など大切な人の存在を見失ってしまう危うさも伝わってきます。
短くも濃密な夏休みを満喫したコウにも、やがては大人の階段を上っていく時が訪れるはずです。
あくまでも高校生らしい清らかな関係をラストまで貫き通していて、まさにペットボトルの中のキンキンに冷えた清涼飲料水を飲みほしたような読後感を味わえますよ。
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