「必殺の三文判」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|深山亮

「必殺の三文判」

著者:深山亮 2016年3月に双葉社から出版

必殺の三文判の主要登場人物

乱橋衡平(らんばしこうへい)
主人公。常識をこえた活躍をするため「司法処士」を名乗る。趣味はガンプラを組み立てること。

川井葉苗(かわいはなえ)
乱橋の助手。柔らかい声と指圧で緊張感をほぐす。

米崎(よねざき)
乱橋の依頼人。変わりゆく時代の中でも変わらない品質を守るパン職人。

金村蓉子(かねむらようこ)
米崎の債権者。亡夫が成金だったために経済的には困っていない。

小磯(こいそ)
法務局のベテラン職員。仕事に前向きで人当たりも良い。

必殺の三文判 の簡単なあらすじ

下町の商店街でパン屋を営んでいる米崎ですが、父親の名義になっている抵当権を消さなければ建物と土地を差し押さえられてしまいます。

法務局でこっそりと紹介されたのは、法律的な立場の弱い人たちのために独自の流儀で戦っている乱橋衡平です。

乱橋の入れ知恵によって危機を脱した米崎は、お店を新装開店して恩返しをすることを誓うのでした。

必殺の三文判 の起承転結

【起】必殺の三文判 のあらすじ①

法の壁をすり抜けるための切り札

戦後の間もない頃からパンを焼いてきた「よねざき堂」が傾き始めたのは、商店街の外れに横文字のブーランジェリーができてからです。

先代の店主は怪しげな実業家の金村誠治から、店舗と敷地を担保にして600万円を借りて運転資金に当てました。

借金は2年足らずですべて返済しましたが、法務局で抹消登記の申請をする前に先代店主と誠治は亡くなってしまいます。

よねざき堂を受け継いだのは息子の米崎、抵当権を受け継いだのは誠治の妻・蓉子。

抵当権が残っている限りは蓉子はいつでも好きな時に店を競売にかけることができるために、米崎は気が気ではありません。

彼女の背後には腕利きでタチの悪い弁護士がいるために、正面を切っての裁判や調停の申し出は難しいでしょう。

多摩川法務局の無料相談所用のカウンターに足を運んでみた米崎は、「小磯」と名札を付けた人の良さそうな中年男性からコッソリと1枚の名刺を渡されます。

名前の欄には乱橋衡平、肩書は司法処士、役人とは違って柔軟な発想を持った先生だそうです。

【承】必殺の三文判 のあらすじ②

おもちゃ屋の裏から出撃

名刺に記載された電話番号にかけてみると、カ行の硬さや濁音の強さをまったく感じさせない女性の声が聞こえてきました。

乱橋との面会を取り次いでくれた川井葉苗の案内にしたがって矢口渡駅から川沿いを歩いていくと、古めかしく懐かしい「川井玩具」にたどり着きます。

店先にはプラスチックの刀剣やシンバルをたたく猿が並んでいて、店奥の6畳の和室には「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデルでいっぱいです。

水玉模様のパジャマで寝っ転がって模型を作るのに夢中なのが乱橋、そのお尻にえんじ色のジャージで腰掛けて肩や腰をマッサージしているのが葉苗。

乱橋は相手側に100パーセント非があると言い切れる場合でなければ、絶対に依頼を引き受けてはくれません。

「悪いのは金村ただひとり」と10回ほど口に出してみると、米崎の頭と心には不思議な自信がみなぎってきました。

まずは抵当権を何月何日に解除したという内容の書類、登記原因証明情報を作ることから取り掛かります。

【転】必殺の三文判 のあらすじ③

必殺技のひと押しで決着

金村誠治の息子・娘、子どがいなければ父親・母親、親もいなければ兄弟・姉妹… 相続権は上下左右に移っていくために、その人数によっては戸籍謄本を10数通も取り寄せる大仕事です。

いざ調べてみると一人娘はすでに死亡、父親が健在なだけでさほど苦労もせずに全ての必要な書類を集めることができました。

問題となるのは区役所へ提出する委任状ですが、実印でなくても済むために近所の文房具屋で売っているもので間に合います。

「金村」の三文判を恐る恐る押した瞬間、米崎は世間では偽造と呼ばれる行為に手を染めたことになりましたが後悔はありません。

数日後に法務局から郵送されてくる薄い緑色の紙には「登記完了証」、登記簿の乙区の欄に「1番抵当権抹消」と記載されているのは確かでしょう。

ただひとつだけ胸に引っ掛かっていたのは、わずか17歳の娘を亡くした直後に夫とも死別したという蓉子の不幸な境遇です。

彼女を憎む気持ちが薄れてきた米崎は、白い花束を持って金村家を訪れて霊前に備えます。

【結】必殺の三文判 のあらすじ④

涙のパンを一新して再起をかける

土地と建物の権利を取り上げられる心配は当面のあいだはなくなりましたが、相変わらず売上も客足は伸びていないままです。

かつてここのメロンパンを食べた蓉子は、「泣けてくるような味」と評していました。

思い切って設備投資をして何とか営業中の花屋、様子見と称して出し惜しみしたために消えていった和菓子屋。

同じ商店街の中でもその差は歴然としていて、客層を広げるためにはリフォームをしたり流行のメニューを取り入れたりする企業努力が欠かせません。

借金のカタになっているうちは相手にしてくれなかった地元の銀行や信用金庫も、改装資金の融資審査くらいは受け付けてくれるでしょう。

乱橋に支払った相談料は3万円という良心的な価格で済みましたが、よねざき堂がこの先を生き残っていけるかどうかはパンの味とアイデア次第だそうです。

リニューアルオープンした際にはふたりを招待して新発売の「三文パン」をごちそうすると聞いて、葉苗はうれしそうに両方の手のひらを合わせるのでした。

必殺の三文判 を読んだ読書感想

身近な相続争いやありがちな金銭トラブルを華麗に解決していくのは、司法書士ではなく司法「処」士の乱橋衡平。

事務所も持たずに時代の流れから取り残されたような下町の玩具店に居候、来客の前でもパジャマ姿というスタイルが型破りです。

自分の美学を貫き通し時にはグレーゾーンにまで踏み込んでいくところは、法曹界のサムライとも言えるでしょう。

乱橋の側に寄りそう川井葉苗も魅力的なキャラクターで、上下のジャージといいう色気のないファッションにも好感が持てます。

無愛想なパジャマと笑顔のジャージのコンビが、大繁盛のパン屋さんを訪れる様子が思い浮かんできました。

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