「森の彼方に」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|早坂真紀

森の彼方に

著者:早坂真紀 2013年4月に徳間書店から出版

森の彼方にの主要登場人物

中澤映美(なかざわえみ)
ヒロイン。東京都心の大学に通う21歳。同性との付き合いが面倒で異性ともケンカをする。

エイミー・エジャートン(えいみー・えじゃーとん)
男爵家の血を引く令嬢。身分・男女の分け隔てなく接する。

ロザリー・エジャートン(ろざりー・えじゃーとん)
エイミーの母。血筋と家名を守ることに使命感を抱く。

土屋修(つちやおさむ)
中澤家お抱えの庭師。子どもの頃は映美とわんぱくに遊んだ。

石井靖代(いしいやすよ)
知性にあふれたツアーガイド。海外生活が長くクイーンズイングリッシュも完璧。

森の彼方に の簡単なあらすじ

エイミー・エジャートンが20世紀初頭の夏休みを過ごしているのは、ロンドン北西部に位置するナッツフォードです。

豊かな自然に恵まれたこの地を愛するエイミーは、旧家の慣習にとらわれずに新しい生き方を模索していきます。

軽井沢へ避暑にやって来た大学3年生の中澤映美は、古い本をきっかけに自分とエイミーとの不思議な縁を知るのでした。

森の彼方に の起承転結

【起】森の彼方に のあらすじ①

絵本の中の自由なウサギをうらやむ

1902年7月10日の夏学期最後の授業のチャイムが鳴った瞬間に、エイミー・エジャートンは一目散にロンドンの街並みを抜けて家に向かっていました。

9月の新学期が始まるまでは、チェシャー州ナッツフォードのマナーハウスに滞在します。

来年からは貴族や上流家庭の女子を受け入れている、チェルトナム・レディースカレッジに入る予定です。

レベルの高い勉強や活発なスポーツ、幅広い課外活動に社会的なボランティア、訓練のための全寮制… 男性と対等に自分の意見を述べる女子生徒が多く、単なる花嫁修業のための学校ではありません。

この頃ではエイミーはイギリス中で話題になっているベストセラー、「ピーター・ラビット」を愛読していました。

著者のビアトリクス・ポッターは親が決めた婚約に抵抗して、あちこちの出版社に自分の原稿を売り込みにいったそうです。

エイミーはポッターの生き方に憧れていましたが、母親のロザリーは結婚もせずに仕事をしている女性にあまりいい顔をしていません。

バーミンガム州のハビシャム伯爵とお近づきになるために、18歳で縁組みをさせられてしまいました。

【承】森の彼方に のあらすじ②

森の先に広がる東洋の神秘

わずか5年で離婚をしてナッツフォードに戻ったエイミーは、自分の部屋の窓からフラワーガーデンを眺めていました。

生い茂った森の中には曲がりくねった小道が続いていて、そのはるか先は東側に向いています。

「東」と聞いてエイミーが思い浮かべるのは、レディース・カレッジの図書室に展示されていた1枚の手紙です。

女子教育の向上のためにこの学校を訪れた津田梅子、「自分で学び、考え、行動せよ」のメッセージ。

森の彼方にある東洋の島国に親しみが湧いてきたエイミーは、イギリスの伝統的なガーデンに日本様式を取り入れることを思い付きました。

土にまみれながら真っ黒に日焼けをして庭仕事に精力を注ぐ姿を見て、使用人たちも最大限に協力してくれます。

池や川を利用して岩にコケが生え始める頃には日本庭園らしくなってきましたが、サクラだけは咲かせることができません。

日英同盟の失効、両国の国交断絶、第2次世界大戦の勃発… 時代の流れを案じつつエイミーがこの世を去ったのは48歳、1940年のことです。

【転】森の彼方に のあらすじ③

息苦しいキャンパスを脱出しリゾートへ

有名な教授のゼミに入って頑張っていた中澤映美でしたが、男子には煙たがられ女子からは足を引っ張られてうまくいきません。

1学期最期の講義が終わってすぐに教室を飛び出した中澤映美は、地下鉄に乗って赤坂駅で乗り換えて自宅マンションに急ぎました。

明日からは軽井沢へ両親と4歳違いの兄と行く予定で、気分転換には最適です。

中澤家の別荘のメンテナンスを任されているのは家業の土屋緑園を手伝う修で、「イギリスの薔薇と庭園」という実用書を貸してくれます。

出版されたのは今から70年以上も前、著者はエイミー・エジャートン、表紙はクラシックな貴族の館の写真。

「エイミー」という名前と彼女が少女時代を過ごしたベージュ色の建物を見た時、映美は胸を締め付けられるような懐かしさを感じました。

卒業旅行を1年前倒しして行き先をイギリスに決めた映美は、ロンドン在住の日本人ガイド、石井靖代と現地で合流しナッツフォードへ向かいます。

服装やメイクこそ地味な彼女ですが、留学・不倫・離婚と波乱にとんだ人生を送っているようです。

【結】森の彼方に のあらすじ④

ふたつの国を結ぶ花の架け橋

ヒースロー空港からグリーンパーク通りを抜けて、自動車専用道路のM1に入ってリバプール・マンチェスター方面へ。

石井の運転するMiniでナッツフォードまできた映美は、いよいよエイミーの本の中に出てきたお屋敷との対面を果たしました。

初めてきた場所とは思えない映美は、何かに導かれるように生前のエイミーが使っていたという机の引き出しを開けます。

出てきたのはセピア色に変色した封筒、中に入っていたのはサクラの花びらと「私を、日本に連れていって」と書かれた便せん。

エイミーの兄に当たる最後の当主も独身で生涯を終えたために、エジャートン家には跡継ぎがいません。

現在ここを管理しているナショナルトラストの学芸員の許可を得て、映美は花びらと便せんを持って帰国します。

日本にハーブ・ソサエティという組織があることを知った映美が声をかけたのは、農業高校を卒業して本格的に造園業を始めた修です。

修はガーデナーとして、映美は研究者としていつかイギリスに日本のサクラを咲かせることを誓うのでした。

森の彼方に を読んだ読書感想

21世紀を生きる今どきの女子大学生の中澤映美、戦前の階級社会が根強く息づく英国のお嬢さま・エイミー・エジャートン。

時代とお国柄は違えども、ふたりのヒロインが「女の子らしさ」を押し付けられていることが伝わってきます。

前世紀に男女雇用機会均等法が施行されて共学率がアップするものの、進学・就職と思わぬ壁にぶつかってしまう映美がほろ苦いです。

10代にして望まぬ結婚によって運命をかき乱されていく、エイミーの苦悩とも重ねてしまいました。

1冊の本とひとひらの花が時空をこえて両者の夢を結び付けていく、終盤の開放感は格別ですよ。

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