著者:倉井眉介 2019年1月に宝島社から出版
怪物の木こりの主要登場人物
二宮彰
本作の主人公。敏腕弁護士。裏の顔はサイコパスで、意に反する人間は冷酷に殺す。
戸城嵐子
刑事。実直な性格。「脳泥棒」事件担当の1人。まだ経験が浅く、諸先輩に助けられることも多い。
杉谷九朗
大病院の後継ぎ息子。サイコパス。二宮の本性を知る唯一の人物で協力者
怪物の木こり の簡単なあらすじ
殺した相手の脳を持ち去る事件が世間を騒がせています。
サイコパスの弁護士二宮彰は、見知らぬ男に斧で襲われ、入院先で破損した脳チップが埋められていることを知りました。
男を「脳泥棒」と疑う二宮らは、それぞれ捜査を続けます。
人間らしい感情の芽生えに苦しみながら、すべての元凶となる事件、「脳泥棒」はその事件最初の男性被害者であることを突き止めます。
二宮は男性を殺し、再びサイコパスの道を歩みました。
怪物の木こり の起承転結
【起】怪物の木こり のあらすじ①
葉樹の森の先にある洋館。
静岡県警刑事の北島は、数十人の部下とともに捜査に繰り出し、出てきた男に令状を突きつけました。
ん 突如とした立ち入りに慌てふためく男を尻目に館内を進むと、そこには髪の短い白衣姿の中年女の姿が。
「東間翠だな。
子供はどこにいる。」
「生きている子供と死んでいる子供どっちのことよ」北島の問いに女は平然と答えました。
北島らが館内を探すと、点滴につながれ、包帯をぐるぐる巻きにされた複数の子供を発見。
館の敷地内には別の子供たちのものと思われる無数の骨。
「この子に何をした」「頭の蓋の中をいじった」笑う女。
北島は女がしたことを悟り、激昂。
またがって殴りつけました。
悲痛な叫びが館内に幾重にも響き渡りました。
逮捕された夫婦に下された判決は死刑。
やがて執行されました。
事件は全て解決したように思えました。
しかしこれは新たな事件の始まりに過ぎなかったのです。
人々の記憶が風化された26年後まで物語は進みます。
【承】怪物の木こり のあらすじ②
二宮彰は辣腕弁護士です。
紳士的で、クライアントからの評価も上々。
一方で他人への共感能力が乏しいサイコパスです。
自分の意見に合わない人間は、拷問の末躊躇なく殺してきました。
この日も仕事を終え、帰宅した二宮。
駐車場に降り立つと、怪物マスクを被った男が、斧を手に立ちずさんでいます。
「お前ら怪物は死ぬべき。」
襲撃を受けましたが、脳への直撃は何とかかわしました。
偶然女子大生が居合わせ、怪物マスクは逃走。
一命は取り留めたものの二宮は、親友で同じくサイコパス、杉谷の親が経営する病院に入院しました。
杉谷は二宮の脳内に身に覚えがない「脳チップ」が埋め込まれており、さらに怪物マスクの襲撃で破損していることを伝えます。
二宮は身に覚えのない脳チップに戸惑いながらも怪物マスクへの復讐を第一に誓うのでした。
その頃殺した相手の脳を持ち去る「脳泥棒」事件が世間を賑わせており、若き女性刑事戸城嵐子も諸先輩と捜査に関わることになりました。
【転】怪物の木こり のあらすじ③
二宮は「脳泥棒」を怪物マスクと関連づけ、杉谷と一緒に独自捜査を始めます。
脳泥棒候補である杉谷のいとこは、拷問にかけようとしましたが、息子の名前を呟く姿に心が痛み、ナイフを持つ手が緩んでしまいました。
二宮は自らの心境の変化を感じずにはいられなくなってしまったのです。
結局杉谷が自ら手を下しました。
映画付きな交際相手映美と一緒に訪れたレンタルビデオ屋では、子供を怒鳴りつける親にやり場のない怒りを覚え、庇うべく喧嘩になる場面も。
生まれて初めて芽生える感情に戸惑いを隠せません。
一方警察側は新たにプロファイリングのプロ栗田が加入しました。
しかし犠牲者は増え続け、関係者の苛立ちは募るばかりです。
捜査を続けるうち、被害者の頭には脳チップが埋め込まれていたことが判明。
皆、性格に難があり、まるで二宮のようです。
嵐子は先輩刑事の乾、栗田らとともに捜査を続け、脳泥棒の犠牲者が、東間事件の犠牲者であることを突き止めます。
東間は人工的にサイコパスを生み出すため、脳の信号を邪魔する脳チップの実験をさらった子供たちに施していたのでした。
【結】怪物の木こり のあらすじ④
二宮も脳泥棒と東間事件を関連に気づいた頃、携帯に着信が。
画面には怪物マスクと拉致されて猿轡をかまされた映美が映っていました。
怪物マスクは二宮に「ここにこい」と要求してきました。
杉谷とともに指定場所へ向かい、犯人と対峙する二宮。
脳泥棒は、東間事件の最初の被害者である剣持武士でした。
彼も何らかの原因で脳チップが破損し、良心の呵責に悩まされた挙句、同じサイコパスな被害者を探し出し殺害を繰り返していたようです。
二宮は剣持との心理戦に勝利。
剣持を捕らえました。
椅子に縛られた剣持は、これまで自身が調べた東間事件のデータのありかを吐き、他の脳泥棒事件の被害者同様に殺し、まだ自身が殺しきれていない被害者の殺害も依頼しました。
「おやすみ。」
二宮は最期の願いを聞き入れ、いつも通りに殺害。
映美は無事に救出できました。
その後、杉谷から、脳チップの交換が出来ることを知りますが辞退。
「人の心」を手にした、怪物として道を再び歩むのでした。
怪物の木こり を読んだ読書感想
第17回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。
サイコパスな弁護士二宮と「脳泥棒」を追う警察側の2サイドから物語が描かれています。
東間事件、怪物マスクの襲撃、人間らしい感情の芽生えと、とにかくストーリー展開が早く、飽きませんでした。
外道な実験の被害者で20数年間心の傷みを知らなかった二宮。
「心」を取り戻しても結局「サイコパス」としての道を歩む姿に、「感情」とは何かを深く考えさせられました。
頭蓋骨を割り、脳を持ち去るというインパクトに惹かれて読み始めましたが、ダークで読み応えのある良い作品だったと思います。
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