【ネタバレ有り】難民調査官 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:下村敦史 2016年5月に光文社から出版
難民調査官の主要登場人物
西嶋耕作(にしじまこうさく)
工場で働いていたが、勤め先が不法滞在者を雇い首を切られた。それ以来、『不法滞在者撲滅委員会』のメンバーとして活動している。
如月玲奈(きさらぎれいな)
難民調査官。やや厳しめだが仕事熱心。
ムスタファ・ユルドゥズ
難民認定を申請しているクルド人。妻子とともに日本へ来た。
ハッサン・オズカン
クルド人難民支援団体に所属。クルド人の難民認定が降りるよう協力している。
難民調査官 の簡単なあらすじ
「不法滞在者撲滅委員会」の一人として、不法滞在者の通報をする西嶋。難民調査官として難民申請のための不法滞在者や難民申請者と出会う玲奈。二人が出会ったムスタファ・ユルドゥズというクルド人。彼は本当に難民なのでしょうか。はたまた何かを企てているのでしょうか。
難民調査官 の起承転結
【起】難民調査官 のあらすじ①
難民調査官である玲奈は、後輩の高杉と、難民認定のため申請者たちの聞き取りを行ったり書類作成を行ったりしています。
そんなある日、玲奈はムスタファ・ユルドゥズと言うイラク国籍のクルド人男性の申請を担当することになります。
家族で日本へ船で密入国してきたムスタファは、母国での迫害を主張します。
しかし質問をするとしどろもどろになるムスタファに玲奈は不信感を抱くのでした。
玲奈が詳しく調べるとムスタファは密入国などしておらず飛行機で合法的に入国していたことがわかります。
一方有志の会である「不法滞在者撲滅委員会」のメンバー西嶋は、ムスタファの妻子アイシャとファトマ、そしてムスタファ一家を助けるハッサンに出会います。
西嶋は自分が不法滞在者によって仕事を奪われたと感じていました。
しかし実際に活動してみると、不法滞在者が一概に悪いとも言い切れないように思うようになっていたのです。
日本でクルド人の難民申請を手助けする活動をしているハッサンを通じ、西嶋はアイシャとファトマの手伝いをするようになりました。
嘘をついていたムスタファは二度目の聞き取り調査で、密入国の方が難民として認められやすいと思ったと証言します。
玲奈にパスポートの存在を聞かれると、今度はパスポートが盗まれたと言い出すのでした。
二転三転するムスタファに厳しい追及をする玲奈。
厳しい玲奈に情けを持った方がいいという高杉。
しかし玲奈は高杉を論破します。
どことなく不信感漂うムスタファでしたが、局長の松井からムスタファはトルコ国籍のクルド人だと知らされます。
玲奈はその一言で理由を理解しますが高杉はわかりません。
親日国であるトルコからの難民認定は外交摩擦懸念のため出来ないことになっているのです。
それに高杉は激しく反発します。
【承】難民調査官 のあらすじ②
玲奈は上から指示だけで難民認定を取りやめるのは良くないと考えます。
現場で聞き取りや調査をした上で判断と報告をあげ、それを元に上が判断を下すべきなのです。
ムスタファの聞き取り調査を続けていると松井から、「エルトゥールル号」のイベントが終わるまではおとなしくしてほしいと言われます。
しかりトルコ大使から玲奈たちに面会要請が入るのでした。
圧力をかけられると懸念する玲奈ですが、トルコ大使の話を聞き、長い歴史があれば争いは避けられず、どちらが絶対的な正義であると判断することは難しいと思うのでした。
玲奈は再びムスタファから話を聞きたいと思いますが、ムスタファは難民支援団体の人間が身元保証人となり仮放免されていたのでした。
しかし玲奈が調べたところ、その身元保証人になった男は実在しないことがわかります。
不安を感じていると、玲奈は公安から接触を受けます。
公安の男たちはムスタファをクルド労働者党の一人であり、テロリストの懸念があると見ているのでした。
公安の男たちから硬く口止めされ、玲奈は再びムスタファと面会します。
ムスタファは、ハッサン、それから弁護士を同伴しており、そんな中での聞き取り調査が始まりました。
公安の話もあり、玲奈はさりげなくムスタファの思想を探るため、まずはハッサンにクルド労働党者党をどう思うか聞きます。
ハッサンはどんな主張でも暴力や爆破事件を起こす以上支持はできないと言います。
しかしムスタファはクルド労働者党の理念は間違っていない、正義の戦いだと発言します。
民族の迫害を主張し、そのためトルコで拷問を受けたと主張するムスタファ。
玲奈はその主張を正当なものにするには、証拠を出せとムスタファに言います。
しかし実際にそんなことをすることはとても難しいことを彼女は知っているのでした。
【転】難民調査官 のあらすじ③
ムスタファはアイシャにトルコ大使館の前でデモを起こすよう頼み、ハッサンや西嶋と意見が食い違いまさう。
ハッサンもアイシャも政治的な活動に乗り気ではありません。
西嶋やハッサン、妻からの言葉にも耳を傾けず、その上夜中に一人で出かけるなど様子がおかしいのでした。
西嶋はムスタファのことをこっそりつけ、中東系の男と会っていることを突き止めます。
ハッサンがその男のところへ行ってみるともぬけの殻でした。
西嶋はハッサンからムスタファがなぜかトルコ大使館の看取り図を持っていたことを相談されます。
ムスタファが持っているのは心配だった西嶋が、自分で持つことにしました。
玲奈はムスタファの調査をするにあたり、彼の妻子の聞き取りをしたいと考えるようになります。
ムスタファに会うため牛久の入館収容所へ向かおうとする玲奈。
身元保証人が実在しないことから、ムスタファの仮放免は取り消されたと思い込んでいたのでした。
それどころかムスタファの仮放免は延長されているようです。
疑問に思った玲奈が主任審査官に問い合わせると、松井が仮放免を延長しろと言ったということがわかります。
玲奈はその件を誰にも相談できないまま、ムスタファの妻子、アイシャとファトマの聞き取り調査を行うことになります。
ムスタファの前回の主張から厳しい質問をされると考えたのだろうハッサンが、彼の主張はクルド人なら良くあることだと口を挟みます。
玲奈はアイシャに聞きますが、テロリストだと思えるような発言はありませんでした。
アイシャとファトマを迎えにきていた西嶋は、入管前で過激なデモ活動をしている連中とトラブルになりました。
タコ殴りにされる西嶋を警察官が助けてくれますが、その際トルコ大使館の見取り図を持っていることがわかってしまうのでした。
【結】難民調査官 のあらすじ④
玲奈はアイシャたちを迎えに来ていた日本人の男がトルコ大使館の図面を持っていたことを知ります。
公安からムスタファはジャマールという男とやりとりがあったため疑いを持たれていると聞いた玲奈は、その男を探しに都内のモスクへ赴きます。
玲奈の予想は的中し、ジャマールとムスタファの間で確かにやりとりがあったことが確認できました。
玲奈はムスタファの聞き取り調査で、トルコ大使館の見取り図を持っていた日本人男性のこと、ジャマールのことを問い詰めます、ムスタファは観念したのか、難民申請を通すためトルコ政府に過激な反発を抱いているふりをし、そのアドバイスをジャマールにしてもらっていたと言います。
玲奈はジャマール確認を取ろうと動きますが、彼はすでに入管に捕まっていました。
そしてムスタファも身元保証人でっちあげのため不法滞在で収容されることになります。
二人はすぐにトルコに送還されてしまいます。
納得のいかない玲奈はトルコへ向かいます。
ジャマールはすでに捕まり、ムスタファは当局から追われていて、現在の居場所は不明でした。
玲奈はハッサンの協力を得てムスタファへ会いに行きます。
再会したムスタファは、自分が玲奈たちだけに話した内容がトルコの警察にバレていたことから彼女たちを信頼できないと言います。
しかし玲奈はそこから松井が一枚噛んでいると気がつきます。
玲奈は帰国後、ムスタファ一家が第三国で暮らすための手配を松井に約束させます。
そして日本でクルド人が捕まったニュースが流れます。
テロの疑いで捕まったのは聞き取り調査にも参加していた通訳の男でした。
玲奈も知っている男でした。
公安は彼を油断させるためにムスタファをダミーとしていたのです。
日本からアイシャたちを西嶋は見送りにきていました。
彼らによって西嶋の不法滞在者への価値観は変わりました。
そして西嶋自身も、もっと自分の人生を見つめ直そうと考えるのでした。
難民調査官 を読んだ読書感想
難民調査官という聞いたことはあるけれど、仕事の細部までは想像し得ない職業を主人公にしたミステリーです。
丁寧で難しい題材ややや専門性のある事柄をわかりやすく落とし込む著者ならではの作品です。
取材の丁寧さからも小説に真摯に取り組む著者の姿勢、職人気質さが伝わってきます。
難しいと感じる難民についても、さまざまな問題点や難民調査官たちの難しさを説明でなく物語の中でわかりやすく伝えてくれます。
登場人物たちは主義主張がニュートラルではありませんが、そのさじ加減で嫌味なく問題点が浮き彫りになる作りになっています。
小難しい主張なくシンプルに、かといって問題を矮小化したりすることもありません。
知識がなくても最後まで読めば、最低限の理解もできるようになります。
ミステリーの部分もあり、結末がどのようになるか気になるので、ページをめくる手も止まらないと思います。
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