「殺人出産」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|村田沙耶香

殺人出産 村田沙耶香

著者:村田沙耶香 2016年8月に講談社から出版

殺人出産の主要登場人物

育子(いくこ)
主人公。姉が産み人であることを隠しながら都内でOLをしている。

佐藤 早紀子(さとう さきこ)
主人公の同僚。ルドベキア会の会員。

ミサキ(みさき)
主人公の従妹。小学5年生

環(たまき)
主人公の姉。現在産み人として入院している。

チカちゃん(ちかちゃん)
主人公の同僚。死に人として指名されてしまう。

殺人出産 の簡単なあらすじ

舞台は近未来の日本。

医療が進み、女性は生まれた時から子宮に避妊具をつけ、望まれない出産はほぼゼロになっていました。

少子化が加速する中で、新しい法律ができます。

それは、10人産んだら、誰でも1人殺してよいというもの。

育子の姉環は、その選択をして自ら産み人となります。

10人目を出産し終えた育子は、誰を殺すのか、育子に伝えます。

殺人出産 の起承転結

【起】殺人出産 のあらすじ①

日本のシステムの変化と早紀子との出会い

100年ほど未来の日本、産み人となれば10人の出産後、誰でも1人殺してよいことになっています。

避妊の技術が進んで少子化が加速したためです。

子どもは避妊具を外して人工授精でつくられるもの、セックスは快楽のためだけのものとなり、偶発的な出産はほぼなくなりました。

そのため、恋愛や結婚とは別に命を生み出すシステムが必要とされ、またそれは人々に尊いものと認識されるようになりました。

主人公育子の同僚が産み人となることを選択して退職したため、引継ぎで佐藤早紀子が入社してきます。

育子は最初は彼女を好ましく思い、ランチに誘ったり名前で呼び合ったりして友人として距離を縮めていきます。

しかし、ある日早紀子から姉環のことを聞かれて育子は狼狽します。

環が産み人であることを、育子は誰にも知られないよう隠していたからです。

早紀子はルドベキア会の会員で、10人産んだら1人殺してよいというこのシステムを撤廃させようと活動しており、環のことを知ったうえで育子に近付いたのです。

従妹のミサキが夏休みの間東京に来たいということで、育子は預かることになります。

環は仕事で海外にいると説明する育子。

昔から環に懐いていたミサキは残念がりますが、東京でのショッピングや観光などを毎日楽しんでいる様子です。

【承】殺人出産 のあらすじ②

育子と環の姉妹の過去、チカちゃんの死

育子は過去を回顧します。

姉に殺人衝動があることを知ったのは、育子が幼稚園、環が小学3年生の時です。

環が度々自分の腕を切っていることに気付いた育子は心を痛めます。

育子は母から生まれた実の子でしたが、環は産み人から産まれ、引き取られた子だったからです。

自傷行為を止めたい育子は、環のために虫をとってきて、環はそれを殺すようになりました。

しかし、ある時それがクラスメイトにバレてしまい、二人はいじめられ、転校することになります。

現在に戻ります。

夏になって同僚のチカちゃんの訃報が届き、チカちゃんが死に人だったことが判明します。

死に人とは、10人目の出産を終えた産み人に殺される人のことです。

産み人が役所に殺人届を提出すると、死に人にも通知が届きます。

死に人には1ヶ月の猶予が与えられ、どうしても殺されたくない人は自殺を選択します。

1ヶ月が経過すると、死に人は全身に麻酔をかけられて窓のない部屋に産み人と二人きりにされ、それから半日ほどは産み人の自由です。

どんな方法で殺すこともできます。

チカちゃんを指名した産み人は、父親の元婚約者でした。

二股をしていた父親は赤ちゃんができたチカちゃんの母親と結婚することに決め、そのせいでチカちゃんは生まれた時からその元婚約者から恨まれていたのです。

ミサキは夏休みの自由研究を産み人にすることに決め、葬儀場に連れていってくれるようねだり、育子は連れて行くことにします。

【転】殺人出産 のあらすじ③

育子の中にもある殺意

育子の回想シーンが入ります。

育子自身も人を殺したいと思うことが度々ありました。

最初は17歳のころ。

高校の教師にセクハラをされて拒んだところ、その教師からあからさまに嫌がらせをされるようになりました。

自殺を考えるほどに悩んだ挙句、育子は殺せばいいのだと考えるようになります。

姉もこうして産み人になったのだろうかと考えながら、実行には移せずに卒業し、次第に殺意は薄れていきました。

ちなみにこの世界では産み人とならずにただ殺人を犯してしまうともちろん処罰されます。

しかし、その処刑は産刑というもので、刑務所で一生子どもを産まされ続けるという過酷なもの。

男性の場合も人工子宮をつけられ、同様の刑になります。

人工子宮をつければ、男性でも産み人になれるのです。

育子はそれから何度か同じような衝動を感じます。

アルバイト先のマネージャー、今の会社の上司。

でも結局いつも産み人になる決心はつかないまま、環境が変わって殺意は薄れます。

産み人になると決意するほどの本当の殺意とはなんだろうと育子は思い、また姉が死に人として指名するのは母、もしくは自分かもしれないと考えます。

【結】殺人出産 のあらすじ④

10人目の出産と殺人

育子は早紀子に頼まれ、環の元に早紀子を連れて行くことにします。

目ざとくそれを察知したミサキにも連れて行ってくれと頼まれて、3人は環の病院に向かいます。

環と対面した早紀子は、早速環を救いたい、この世界は間違っている、と熱弁します。

環をこの世界の犠牲者と表現し、生の声を聞かせて貰えたら世界は再び元の正しい方向へ導けると説明する早紀子。

しかし、環は穏やかに仰る意味が分からないと伝えます。

環は、昔から自分の中にある殺人衝動は忌むべきものだったが、それを今の世界は肯定してくれる。

私の殺意は世界に命を生み出す養分となり、そのことを本当に幸福に思っていると説明します。

また、感銘を受けた様子のミサキにも優しく、あなたも産み人になれる、と語りかけるのを見ると早紀子は結局病院を出て行ってしまうのでした。

そして、10人目の出産を終えた環は、死に人として早紀子を指名します。

早紀子は逃げ出そうとしますが、指名された時点で監視の目がついているので空港で捕まってしまい、麻酔をかけられてしまいます。

環も出産後体が弱ってしまい車椅子に乗った状態だったので、育子は付き添いとして窓のない部屋まで一緒に入ります。

そのまま見ているだけのつもりでしたが、環に誘われて二人で早紀子の体にナイフを刺していきます。

育子はこの殺人に感動し、正しいことだと感じます。

そのうち、胎児が出て来たことで環は早紀子が妊娠していたことに気付きます。

育子はその時に、この赤ちゃんの命を奪った分として、自分も産み人になることを決意するのでした。

殺人出産 を読んだ読書感想

話自体は長くはありませんが、読み始めてすぐ世界観に引き込まれました。

気分が悪くなるような描写も少なからず出て来ますが、それ以上に続きが気になります。

命の重さとは一体何なのかを考えさせられます。

10人産んで1人殺すなら、確かにプラスの方が大きいのでシステムとしては間違ってないのでしょう。

産刑の人は死ぬまで生み続けるのですし、産み人も10人に到達するまでに亡くなってしまうことが多いようです。

特に高齢の人や、男性が人工子宮をつけてまで達成するには難しいからです。

とはいえ、実際達成して殺されてしまうチカちゃんや早紀子のような人もいて、残される遺族や友人がいる。

結局のところ、命をひとつふたつと数えることは出来ないのだと思います。

ただ、この狂気としか思えない世界に惹きつけられる自分も確かにいるのです。

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