「リボンの男」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山崎ナオコーラ

リボンの男 山崎ナオコーラ

著者:山崎ナオコーラ 2019年12月に河出書房新社から出版

リボンの男の主要登場人物

小野常雄(おのつねお)
主人公。あだ名は妹子。アルバイトを転々として現在は主夫。ロスジェネ世代のため終身雇用よりもフリーランスに憧れる。

小野みどり(おのみどり)
常雄の妻で旧姓は大野。勤め先の給料の他に原稿料や印税の収入もたっぷり。愛想はないが堂々としている。

小野タロウ(おのたろう)
常雄の息子。幼稚園の年少組に通う。家では明るくおしゃべりだが外ではおとなしい。

リボンの男 の簡単なあらすじ

フリーターの小野常雄が結婚仲介サービスを通じて知り合ったのが、書店で正社員として働きながら文筆業も順調な大野みどりです。

初対面で気が合ったふたりはある程度の交際期間を重ねて、結婚してから長男のタロウを授かります。

みどりの年収の方が多いことに多少の引け目を感じながらも、常雄は家事をこなしつつタロウの子育てを頑張るのでした。

リボンの男 の起承転結

【起】リボンの男 のあらすじ①

転々男と無愛想女がマッチ

ファーストフード店、焼き肉屋、スーパーマーケット、回転すし、カラオケボックス… 就職氷河期に高校を卒業した小野常雄は、非正規雇用の職場を渡り歩いていましたがいずれも長続きはしません。

新古書店での仕事はそれなりに性に合っているようで、実家から電車で30分くらいの距離にあるアパートを借りて一人暮らしを楽しんでいました。

正社員にはそれほど執着心がない常雄も、結婚と育児には人いち倍の憧れがあります。

新宿の大きなビルにテナントとして入っている結婚相談所に登録したところ、担当の相談員から紹介されたのが大野みどりです。

プロフィール欄に掲載されている写真が真顔で笑っていなかったこと、年収650万円と包み隠さず書いていたこと。

このふたつに好印象をもった常雄はすぐに相談員にセッティングしてもらい、場所は無難にチェーン店の小奇麗で安価なカフェを選びました。

実際に会ってみるとコーヒーを片手に「小野と言えば妹子」などと冗談をいう一面もあり、その日のうちに継続希望を申請してくれたのでフィーリングがマッチしたのでしょう。

【承】リボンの男 のあらすじ②

川のほとりで新生活

みどりが店長をしているのは作家や出版社に利益が還元される新刊書店、常雄のアルバイト先はそんな新刊書店に打撃を与えている新古書店。

本来であれば商売敵である両者の共存共栄を目指したいというみどりは、書評やエッセイも書いていました。

プロポーズは15回目のデートの時で、ゆくゆくは子どもを持ちたいという点でもふたりの意見は一致します。

東京の田舎の方から流れてくる野川のほとりには自然が豊かで、公園や保育所などの施設にも恵まれているために新居にはピッタリです。

敷金・礼金を負担しているみどりが世帯主でしたが、「大野妹子」だと語呂が悪いとの理由でみどりが小野の姓に変更しました。

常雄が新古書店を退職したのはみどりが妊娠8カ月目を迎えた頃で、出産が無事に終わってからは電動搾乳器や粉ミルクの使い方をマスターします。

生まれてきた赤ちゃんはタロウと名付けられて、マンションの家賃や生活費を稼ぐためにもみどりはすぐに復職しなければなりません。

【転】リボンの男 のあらすじ③

1000からゼロへと落ち込む

3歳になったタロウを幼稚園へと連れていくのは、すっかり主夫業が板についてきた常雄の役割りです。

自宅にいるときは無邪気にはしゃいでいるタロウも、保育士や友だちでは極度に人見知りでうまくコミュニケーションが取れません。

そんなタロウのために常雄はインターネットで型紙をダウンロードして、手縫いの手提げ袋を作ってあげました。

上履きや弁当箱を詰め込んだタロウは、結びやすいように右と左で別々の色にしたヒモを何度も引っ張っていてうれしそうです。

「ヒモ」という言葉を聞いた途端に常雄は、自分が他の園児の保護者からみどりの「ヒモ」のように思われているのではないかと落ち込んでしまいます。

マンションから幼稚園までの距離は1・5キロ、大人の足であれば20分程度、園児だと40分程度。

目についた石や棒を拾ったり、花や虫を見るたびに立ち止まってしまうタロウと一緒だと1時間はかかるでしょう。

フリーター時代は1時間に1000円以上もらっていた常雄も、今では経済活動をしていない「時給0円の男」です。

【結】リボンの男 のあらすじ④

中を舞うリボンは未来のゴールライン

野川が5月の太陽の光を浴びて輝く季節、いつものように河川敷を歩いて帰る途中で常雄は財布から100円硬貨を落としてしまいました。

比較的に流れが穏やかで浅いエリアでしたが、タロウとふたりで20分以上も探していますが見つかりません。

近くで川遊びをしていたのはタロウよりも年下かと思われる野球帽の男の子で、手のひらに握りしめているのはピカピカの100円玉です。

男の子はこのお金で母親にクッキーを買ってあげるそうで、ニコニコ笑いながら手を振ってその場を去っていきます。

ついには「時給マイナス100円」へと突入した常雄でしたが、タロウが小学校に進学して手が掛からなくなれば外に働きに出られるでしょう。

この頃では図鑑で覚えた昆虫を追いかけることに夢中なタロウが指を差したのは、野川に生息する黒いリボンのような形をしたハグロトンボです。

「ヒモ」ではなく「リボンの男」を目指すことにした常雄は、家に帰るとタロウをお風呂に入れてカレーライスの準備をしながらみどりを待つのでした。

リボンの男 を読んだ読書感想

ぜいたくは苦手で好物は100円の菓子パン、気にいった本は中古店で買って何回も読む、カラオケで歌うのは小室ファミリーや渋谷系曲… 1980年代前後に生まれた皆さんであれば、主人公・小野常雄の生き方に共感できるでしょう。

そんな常雄が生涯のパートナーに選んだ大野みどりの、多様な書店文化を育むための活動も魅力的です。

前時代の男女の立ち位置にこだわらないふたりの生き方からは、これからの夫婦やパートナーの在り方が見えてきてきます。

本書の舞台となっている野川にも足を運んで、チョウチョのように漆黒の羽を開閉させながら飛ぶ珍しいトンボを見つけてみたいです。

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