「台風家族」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|市井点線

台風家族 市井点線

著者:市井点線 2019年5月にキノブックスから出版

台風家族の主要登場人物

鈴木小鉄(すずきこてつ)
主人公。居酒屋でアルバイト中にケガを負って今は働いていない。夢見がちでお金にがめつい。

鈴木麗奈(すずきれな)
小鉄の妹。スタイルはいいが無駄に男に貢ぐ。

鈴木ユズキ(すずきゆずき)
小鉄の娘。ピアノの才能があるが控えめで現実的。

鈴木京介(すずききょうすけ)
小鉄の弟。スマホアプリの開発で起業に成功。論理的に物事を進める。

鈴木一鉄(すずきいってつ)
小鉄の父。地元で手広く葬儀屋を経営しながら4人の子供を育てた。現在の消息は不明。

台風家族 の簡単なあらすじ

鈴木一鉄が銀行強盗を起こしてから10年後、4人の子供たちとそのパートナーたちが栃木県の実家に遺産目当てで集まりました。

末の息子がその模様をネットに流したために、10年前に一鉄から2000万円をだまし取ろうとした女が名乗り出てきます。

父が家族を守るために強盗を決行した末に亡くなったことを知り、バラバラだった鈴木家は心をひとつにしてそれぞれの日常へと戻っていくのでした。

台風家族 の起承転結

【起】台風家族 のあらすじ①

強盗一家が久しぶりに集合

鈴木一鉄と光子の夫婦が文化包丁を持って北関東の小さな銀行に駆け込んで、2000万円を強奪したのは2008年の8月18日のことです。

鈴木葬儀店の霊きゅう車に乗り込んで現場から逃走したの最後に、それ以降はふたりの姿を見た者はいません。

事件から10年後の2018年、4人の子供たちの住まいに両親の葬儀日程を知らせる手紙が舞い込んできました。

長男の小鉄は妻の美代子と娘・ユズキの3人で、長女の麗奈はお付き合いをしている佐藤登志雄と2人で、次男の京介は1人で。

三男の千尋だけが来ていませんが、代々お世話になっていた住職が原付きバイクに乗ってやってきたために形だけの葬儀を始めます。

葬儀の後に集まった一同は遺産の配分に取り掛かりますが、預金や保険は大した額ではありません。

更地にして土地だけ売ると1000万円、建物の解体料を差し引くとおよそ800万円でひとり当たりの取り分は200万円くらいでしょう。

事件から7年後に両親の失踪宣告が確定、10年後の今日には時効が成立。

この日を待ち望んでいた小鉄は、特別受給の制度を利用して何とか多めにせしめようとしていました。

【承】台風家族 のあらすじ②

鈴木家の恥を生配信

4年生の大学に行った京介や2年生の専門学校を卒業した麗奈と千尋と比べてみると、小鉄はほとんど学費がかかっていません。

生前贈与や遺贈を受けた妹や弟たちは法定相続分を差し引かれるために、法律上は小鉄にいちばん多く遺産をもらう権利があるそうです。

つい最近には配達の仕事をしている時に追突事故に巻き込まれた揚げ句にリストラされたと、コルセットに包帯姿で涙ながらに訴えてきました。

携帯アプリ会社の社長をしていて法律の知識も豊富な京介は、きょうだい4人の同意がなければ土地は売れないとたたでは引き下がりません。

祭壇の裏に隠れて父とおじ・おばたちの争いを見ていたユズキは、すっかり幻滅してしまいます。

最初に誰かの視線に気が付いたのもユズキで、葬儀用の白と黒の鯨幕の裏側からです。

幕にくるまっていたのは千尋で、この部屋の天井には隠しカメラが設置されていて一部始終が全世界に配信されていました。

「強盗一家」として一時期はワイドショーを騒がせた鈴木家の実況生中継の視聴者数は1万人をこえていて、千尋は有料チャンネル登録やアフィリエイトでひと稼ぎするつもりです。

【転】台風家族 のあらすじ③

招かれざる弔問客と過去へのドライブ

ネット中継をスマートフォンで見ていた富永月子は、勤め先の検品工場を飛び出して鈴木家へと向かいました。

祭壇の前に勢ぞろいしていた一家に、富永は10年前の8月18日に非合法のコールセンターで働いていたことを白状します。

リストに記載された番号に弁護士事務所の名をかたって電話をかけていた時にたまたま引っ掛かったのが「鈴木一鉄」、お宅の息子さんが車で起こした人身事故、任意保険に加入していなかったために被害者への賠償に必要な2000万円。

一鉄からはお金の用意ができたと1度だけ電話がありましたが、突然に応答がなくなりそれ以降の連絡はありません。

富永の告白を聞き終わった小鉄がふと手に取ったのは、祭壇の上に置かれていた家族の集合写真です。

28年前に家族で勝岳山にキャンプに行った時に撮影した写真で、若い両親と幼い自分たちが笑っています。

いま現在ではキャンプ場は廃業していて夕方頃には台風が関東地方に上陸する見込みですが、小鉄は全員を車に乗せてアクセルを踏み出しました。

【結】台風家族 のあらすじ④

台風一過で晴ればれと決着

小鉄たちが折り重なるようにして倒れている2体の白骨遺体とボストンバッグを発見した場所は、かつて家族でテントを張った川の対岸の岩場です。

いつの間にか台風が過ぎ去って雨風は止んでいて、小鉄は乗ってきた車のクラクションを出棺の時の霊きゅう車のようにけたたましく鳴らしました。

水平線の向こうに顔を出した太陽に向かってみんなで静かに手を合わせた後で、ボストンバッグに詰まった2000万円を警察を通じて銀行に帰します。

3カ月後、小鉄と美代子のもとにラインで送られてきたのは、プロのピアニストになるために海を渡ったユズキの写真です。

配信したドタバタ劇のおかげで有料登録者を獲得した千尋はコンビニの雇われ店長をしながら自称ユーチューバーに、麗奈と登志雄は平成が終わって新元号になったその日に結婚。

両親の遺体を発見した日にひそかに娘を授かっていた京介は、父と母の名前から1文字ずつ取って我が子に「一光(ひとみ)」と名付けるのでした。

台風家族 を読んだ読書感想

40歳を過ぎたのに人生の袋小路にはまり込んでいるような、何とも情けない中年男性の鈴木小鉄が主人公です。

一族の中ではいちばんの出世頭ながらもどこか情のない弟の京介、ナイスバディを持て余すかのようにダメダメな男に引っ掛かってしまう妹・麗奈、身内のドロドロを見せ物にしてしまう千尋。

ひと癖もふた癖もあるきょうだいたちによって、死者を忍ぶための厳粛なお葬式が骨肉のバトルへと発展していく様子には笑わされました。

思い出の地で亡き父親の思いを受け止めた4人が、愛する人たちと新たな道のりを歩んでいくクライマックスには心が温まります。

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