「康二」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|真野ゆき子

康二 真野ゆき子

著者:真野ゆき子 2010年1月に文芸社から出版

康二の主要登場人物

柿沼久子(かきぬまひさこ)
ヒロイン。旧姓は大岩。家事をこなして内職に励み3人の子どもたちを育てる。人の話を聞かず愛情に片寄りがある。

柿沼重夫(かきぬましげお)
久子の夫。一介の事務員として定年まで勤め上げる。

柿沼礼一郎(かきぬまれいいちろう)
久子の長男。大人しく見た目も地味な公務員。

柿沼福美(かきぬまふくみ)
久子の長女。語学力があり自分の意志を貫く。

柿沼康二(かきぬまこうじ)
久子の次男。容姿が端麗でスポーツも万能。世界を飛び回る商社マンを目指すものの壁にぶつかる。

康二 の簡単なあらすじ

過酷な生い立ちから抜け出して結婚した柿沼久子にとって、唯一無二の心の支えは夫でも上のふたりの子供たちでもありません。

いちばん下の子・康二をただひたすらに溺愛していきますが、仕事でもプライベートでも少しずつ期待を裏切っていきます。

ついには病に侵されて医者に見放され本人も諦めかけていますが、久子だけは生還を信じて祈り続けるのでした。

康二 の起承転結

【起】康二 のあらすじ①

下町に舞い降りたギリシャの王子

8人きょうだいの末子として大岩家に生まれた久子でしたが、生後すぐに母親と死別しました。

3年後に父親が後を追うように亡くなると、久子は遠い親戚からも「親の命を食った子」と陰口をたたかれます。

家を継いだ兄から厄介払いのように紹介されたお見合い相手が、小さな染物会社で事務をしている柿沼重夫です。

新居は都内の民家と商家が密集した地帯にある古びたアパート「日の出荘」で、久子はカーディガンやチョッキを編んで販売していましたが家計の足しにしかなりません。

初めて授かったのが礼一郎で外見も中身も父親似、2番目は女の子の福美でやたらと頑固な性格。

3番目の康二は柔らかな髪の毛と長いまつ毛に縁どられた美しい目で、重夫にも久子にもまるで似ていません。

強いて言うならばレンブラントの名画「ダナエ」に描かれている、ペルセウスにそっくりでした。

近所の書店で見かけた西洋絵画全集によると、神々の王ゼウスとアルゴス国の王女とのあいだに生まれて全能の血を受け継いでいるそうです。

【承】康二 のあらすじ②

跳ねっ返り娘が海を渡る

地元の少年野球チームに入って活躍し始めた康二のために、久子は高価なユニフォームを買ってきました。

手編みのセーターやマフラーも康二が身につけるものは新品、礼一郎と福美のものは古い糸で編み直した中古品。

明らかに待遇の差を見せつけられている、兄の礼一郎や姉・福美からすると面白くありません。

就職先を市役所に決めて同僚を結婚相手に選んだ礼一郎は、早々と家を出て隣町に引っ越します。

高校の成績の良かった福美が大学の英文科に進学したいと言った時も、真っ先に反対をしたのは久子です。

「女に学歴は必要ない」という久子の時代遅れな考え方に反発した福美は、食品会社で働きながら自分で学費を稼いで英会話スクールに通い始めました。

このスクールで講師を務めていたのがアメリカ人のボブで、間もなく福美は彼の故郷であるシカゴへと移住します。

帰国する機会は数年に1回程度あるかないかで、たまに国際電話がかかってきますがふたりの孫たちは日本語が話せません。

【転】康二 のあらすじ③

道を踏み外した神童

チームメイトの中には甲子園の常連校からスカウトがきたメンバーもいましたが、康二は野球をやめて受験勉強に専念して地域でも1番の進学校に合格しました。

誰もが憧れるQ大学から世界中にネットワークのある巨大企業のL商事へ入社、配属されたのは国内部門。

エリートコースに乗った我が子に久子は大喜びですが、海外部門を希望していた康二はすっきりしない表情を浮かべています。

同じL商事の社員である理恵子を婚約者として紹介した時にも、何でもかんでも仕切りたがる久子のせいでうまくいきません。

康二の新婚生活が決定的に破綻したのは、本社から札幌への移動辞令を受けて単身赴任をすることになった頃です。

この年での地方支社への出向ということは出世コースから外されたことを意味していて、海外勤務も絶望的でしょう。

自暴自棄になった康二は北海道で知り合った年上の女性と浮気を続けた揚げ句に、様子を怪しんで訪ねてきた理恵子にまさにその場を目撃されてしまい言い逃れはできません。

【結】康二 のあらすじ④

死の淵に横たわる不死の英雄

高額の慰謝料を払って理恵子と離婚したために行くあてのなかった康二を、久子は埼玉県大宮市内にある一軒家へと招待しました。

これといったドラマも事件もなく定年を迎えた重夫の退職金と、長年に渡って生活費を切り詰めて貯金した久子のへそくりを合わせて購入した物件です。

食欲もなくやせ細っていき顔色も悪い康二のために、久子は手料理をごちそうしたり何くれとなく世話を焼きますがまるで効果はありません。

健康診断のために毎年お世話になっている病院で精密検査を受けてみると、末期の肝臓ガンだと診断されます。

担当医の話によるとその他の臓器にも転移が激しいために手術は不可能で、もってあと半年ほどでしょう。

来月には82歳の誕生日が迫っている久子にとっては、無菌テントの中にチューブにつながれた状態で寝ている息子だけがたったひとつの希望です。

その横顔に紛れもなく不死身のヒーロー・ペルセウスの輝きを見た久子は、「康二、康二」と必死に呼び掛けるのでした。

康二 を読んだ読書感想

男1女と子宝に恵まれながらも、3人の中のひとりだけを異様なほどかわいがる主人公・柿沼久子に感情を移入するのは難しいですね。

夫の重夫がいまいち影が薄くて頼りなく、長男の礼一郎もそれほどストーリーには絡んできません。

幼い頃は神話に登場する無敵の戦士かと見間違うほどの美しく、文武両道でパーフェクトな自慢の息子・康二。

大人になるにつれて理想と現実のギャップに傷つき、凡人に落ち着いていしまうのがほろ苦いです。

自分のやりたいことを見つけて好きな人と一緒になり、遠く離れた異国の地で幸せを見つけた福美の生き方にだけは共感できました。

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