「痴人の愛」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|谷崎潤一郎

「痴人の愛」

著者:谷崎潤一郎 2016年3月にKADOKAWAから出版

痴人の愛の主要登場人物

河合譲治(かわい じょうじ)
主人公、28歳の電力会社の電気技師。生真面目なサラリーマン。婚約者を探している。

ナオミ(正確には奈緒美)
15歳。混血児のような日本人離れした顔立ちの少女。カフェで奉公しているところを譲治に声を掛けられ引き取られる。

ハリソン嬢
ナオミの英語の教師。

シュレムスカヤ婦人
ロシア人ダンス講師。

杉崎春枝女史
ナオミの音楽の先生。シュレムスカヤ婦人のダンスクラブを組織する。

浜田
ナオミと親しい慶應義塾の学生。ダンスクラブの幹事を務め、ナオミをダンスクラブに勧誘する。後にナオミと真剣に交際を考えていた。

熊谷
ナオミと親しい慶應義塾の学生。まあちゃんと呼ばれている。


熊谷の友人。鎌倉で出会う。

中村
熊谷の友人。鎌倉で出会う。

痴人の愛 の簡単なあらすじ

大正時代、主人公 河合譲治は宇都宮の田舎から上京し、電力会社で電気技師として働いています。

そんな仕事熱心な彼にも理想の相手と結婚したいという夢がありました。

ある日、カフェで知り合った日本人離れした顔立ちの美少女ナオミに恋をします。

彼はナオミを引き取り、自分の理想の妻にするべく英語や音楽などの西洋的な教育を習わせました。

しかし、一緒に暮らすにつれ、カフェ奉公をしていた顔色が悪くおとなしかった少女(ナオミ)は徐々に自由奔放な女へと豹変していくのでした。

痴人の愛 の起承転結

【起】痴人の愛 のあらすじ①

ナオミとの出会い

東京の電力会社に勤める主人公・河合譲治は堅実で仕事熱心な働きぶりゆえに、周りから「君子」と呼ばれるほど生真面目でした。

しかし、譲治は結婚の夢はあるものの、型にはまった家庭的な日本人女性との結婚は望んでおらず、年頃の娘を引き取って、教育・作法を施し、どこへ出ても恥ずかしくない女性として育て上げた後、結婚したいと考えていました。

そんな時、浅草・雷門近くのカフェで奉公している美しい少女ナオミを見つけます。

ナオミは顔色が悪く、元気がなさそうに見えましたが、譲治はその西洋風の顔立ちと名前の響きに惹かれ、ナオミの成長を見届け気に入ったら妻にしようと考え、ナオミとの交際を始めました。

二人は休日になると映画やお芝居を見に行き交流を深めました。

ナオミには父親はおらず、母と大勢の兄弟がいます。

しかしナオミは家族についてあまり話したがらず、その家庭環境を気の毒に思った譲治は学問を習わせることをナオミに提案しました。

譲治はナオミに奉公をやめさせ、大森駅の近くにある小さな洋館を借り、ナオミと同居を始めました。

譲治がナオミを引き取り、洋館へ引っ越してから2か月が過ぎました。

仲のいい友達がままごと遊びをするかのように2人で仲良く暮らしていました。

寝室も別にし、譲治は約束していた稽古事をナオミに習わせました。

毎日、譲治は会社へ通い、ナオミは英語や音楽の稽古へ出かけます。

同棲以前は悪かった顔色も日に日に良くなり、健康で活発な少女へと変わっていきました。

【承】痴人の愛 のあらすじ②

ナオミとの生活と変貌

ナオミが16歳になる年、二人は関係を結び、籍を入れます。

ナオミは活動写真に出てくる女優の真似をするのが好きで、譲治はナオミのため膨大な衣装を買い与えました。

ところが、彼の期待は次第に裏切られていきます。

ナオミは英語の発音はいいものの、文法はさっぱりできず、それに納得がいかない譲治はナオミを厳しく叱りました。

また、頭も行儀も悪く、浪費家であるナオミの欠点を正そうとすると、ナオミは泣き、すねて強情に沈黙し反抗するため、最終的には譲治がナオミに謝る形になるのでした。

学問では全く見込みのないと分かりましたが、譲治はますますナオミの肉体の虜になっていきます。

ナオミが18歳になったある日、ナオミと同い年の学生・浜田が、ダンスクラブを作るのでナオミもどうか、と誘ってきました。

浜田は慶應義塾の学生でそのクラブの幹事を務めています。

クラブを組織するのはナオミの音楽の先生・杉崎春枝女史、ダンスの講師はロシア人のシュレムスカヤ婦人です。

ナオミがダンスをしたいと言うので、譲治は渋々ダンスクラブへ入会し、レッスンを続けました。

そして、ナオミと共に銀座のカフェ・エルドラドオで踊ることにしました。

この頃からナオミの贅沢は度を増し、譲治は月収では追い付かず、故郷の家族に金銭的援助を無心していました。

一方、ナオミは家中に服を散らかし掃除もせず、女中を雇っても皆呆れて辞めるため、小さな洋館は今ではすっかり廃墟のようになっていました。

カフェ・エルドラドオで踊る日、現地には熊谷と浜田もいました。

ナオミはそこへ集う女性たちを汚い口調で罵り、譲治はその空間を不愉快に思いながらナオミと踊りましたが、譲治の踊りがあまりに下手だったため、ナオミは途中で踊地を拒否し、西洋人と踊り始めました。

その夜以降、譲治とナオミの家には浜田、熊谷、舞踏会で親しくなった男が出入りするようになりました。

ある日、譲治は職場で自分が混血児を連れダンス場へ出入りしている、ナオミが慶應の学生を荒らしまわっているという噂を耳にしました。

譲治はナオミを失う恐ろしさを感じ、その場を後にしました。

家に帰り、職場での噂をナオミに伝えると自分の性格や交友関係を認め、少しずつ態度を改めるようになり、再び譲治には楽しい生活が戻ってきました。

【転】痴人の愛 のあらすじ③

ナオミの豹変

しかし夏のある日、ナオミの提案で鎌倉へ行った際、譲治はナオミに裏切られます。

ナオミは酒を飲み、浜田や熊谷、関、中村と下品な話をしながら浜辺を歩いていたのです。

翌日、譲治はナオミを宿に残し、大森の洋館へ戻ります。

ナオミの持ち物から証拠を見つけるためです。

するとそこには浜田がおり、全て譲治に白状しました。

浜田はナオミと真剣に交際を考えており、譲治とは従兄弟だと聞かされていたのです。

それを気の毒に思った譲治は浜田を許し、同情しました。

譲治はナオミに大森の家で浜田に会ったことを話し、表面上は和解しましたが、わだかまりが残る形となりました。

ナオミは譲治に冷淡に接するようになり、愛情はなく、譲治はただナオミの肉体に執着するだけの存在になってしまいました。

譲治はナオミを更生させるため、子供を作ることや日本家屋へ引っ越すことを提案しましたが、全て却下されました。

二か月あまりしてナオミが熊谷と会っているのを見て、譲治はそのままナオミを家から追い出しました。

譲治は一度せいせいした気持ちになりましたが、直後に後悔の念に駆られ始めました。

昔のナオミの写真を眺め、眠れない夜を過ごし、酒を飲んで忘れようとしますが一向に忘れられず、譲治は浜田や熊谷などに頼みナオミを探しました。

また、譲治はナオミのことでしばらく会社を欠勤していたため、社内での信用を失ってしまいました。

譲治は辞職後、ナオミが寄り付かないような場所で一人ひっそりと暮らそうと決めました。

【結】痴人の愛 のあらすじ④

愛と服従

12月中旬の寒いある日、大森の家にナオミが突然、荷物を取りに来たと訪ねてきました。

ナオミは香水をつけ、化粧も髪型も変え、譲治はその高貴さに目を奪われるのでした。

その後、ナオミは毎晩のように訪れ、馴れ馴れしく口を利き、その度に譲治はヒステリーを起こすようになりました。

しかしナオミは体どころか髪一本も触らせることはしません。

ある夜、12時を過ぎたため、ナオミは家に泊まってくと言い出しました。

ナオミは譲治の寝室の隣の部屋に入り寝静まりました。

翌朝、ナオミは朝湯をすませ、譲治に顔と全身の除毛を頼みました。

譲治はその誘惑に気が狂い、ナオミにお金をいくらでも出す、一切の干渉をしない、何でも言うことを聞く、と約束をしてしまいます。

それから3、4年、譲治はナオミの意向で田舎の財産を全て整理し、その半分をナオミに与え、残り半分を今後の仕事へ投資しました。

家もナオミが見つけた横浜の洋館へ引っ越し、譲治は学生時代の同期に声をかけ会社を起業しました。

一方、ナオミは朝遅く起き、湯に入った後、食事をとり、夜には化粧をして客に呼ばれ出かけたり、ダンス場へ出向いたりします。

浜田や熊谷との縁は切れましたが、代わりに西洋人との交流が増えました。

譲治は一度ナオミに逃げられた経験から、大人しく服従しています。

ナオミの英語は達者になり、今では何を言っているか譲治に理解では追い付かなくなってしまいました。

もう譲治はナオミに従うしかできなくなってしまいました

痴人の愛 を読んだ読書感想

官能小説として有名な谷崎潤一郎の代表作、「痴人の愛。」

家が貧しく奉公に出されていた娘・ナオミをサラリーマンの河合譲治が引き取るところから話は始まります。

始めは顔色が悪い少女が元気になっていくなど、少女の健やかな成長を見守る他愛もない物語ですが、次第に体と心が変化していくナオミに譲治は振り回されていきます。

その変貌ぶりと傲慢さは読む人の心を虜にし、ついには最終ページまで読むことを誘惑します。

この小説はとても奇妙で主人公・譲治目線で書かれているため、譲治に感情移入をする描写が多くあります。

しかし、何度もナオミを捨てる機会があっても譲治はナオミを捨てることができず、最終的にはナオミの奴隷として金銭、人脈、人生を捧げるようになってしまいます。

恋愛小説に求めるようなハッピーエンドとは、また違った形の結果がとても印象的な作品です。

この作品は大正時代に書かれたものですが、現代でも通用する普遍的な内容なのではないでしょうか。

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