「支那米の袋」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|夢野久作

「支那米の袋」

著者:夢野久作 1929年12月に改造社から出版

支那米の袋の主要登場人物

ワーニャ(わーにゃ)
作中の語り手である妾(わたし)。ウラジオストックのレストラン・オブラーコの踊り子。

ヤング(やんぐ)
30歳。アメリカの軍艦の司令官の息子。お金持ちの学者。

あんた(あんた)
作中の話の聞き手。日本の軍人

支那米の袋 の簡単なあらすじ

ワーニャは、元は貴族の娘です。

家がおちぶれて、いまはウラジオストックのレストランの踊り子に身をやつしています。

そんな彼女をひいきにする青年客が現れました。

アメリカの軍艦に乗っている学者で、名をヤングといいます。

ヤングはアメリカ式の変態的な恋愛をワーニャに仕込みます。

ワーニャはヤングのとりこになり、やがてはいっしょにアメリカへ連れていってもらえると期待するのでした。

ところがある日、ヤングは、アメリカに帰国して戦争に参加しなければならない、と言って、別れを告げにきました。

泣いてすがるワーニャに、ヤングはひとつの提案をします。

それは、支那米の袋に入ってこっそりと軍艦に乗り込み、出航してから、艦長である父に乗船の許しをもらう、というものでした。

ヤングの提案に、ワーニャは一も二もなく飛びつくのですが……。

支那米の袋 の起承転結

【起】支那米の袋 のあらすじ①

ヤングとの出会い

〈妾(わたし)〉の名はワーニャ。

このウラジオストックのレストラン・オブラーコで、踊り子をしています。

もとは、おちぶれた男爵家の娘だったのですが、家が貧しくて売りとばされ、こんなことをしているのです。

〈妾〉は今、日本の軍人の〈あんた〉に、コニャックをおねだりしています。

〈妾〉は〈あんた〉を殺したくてしようがありません。

何度も殺したくなり、そのたびにお酒を呑んで、酔いつぶれて、寝てしまうのです。

〈あんた〉は〈妾〉を命がけの旅行に連れ出した男にそっくり。

その男は、アメリカの軍艦の司令官の息子で、ヤングという名前でした。

ヤングは軍艦で一番のお金持ちで、一番の学者でした。

ヤングはあるとき〈妾〉のひいき客になってくれ、〈妾〉の身の上話を聞き、お金もたくさんくれました。

ヤングは毎晩のようにやってきて、〈妾〉たちは親しくなりました。

ヤングはアメリカの恋愛について話してくれました。

男と女がSM的な変態プレイをするのです。

それに飽きると、男が女を殺してしまうといいます。

でも、どんな金持ちでもめったにできないすてきな遊びがあって、それは元もと日本派生のものだそうです。

それはアメリカの言葉でいいうと、「恋愛遊びの行き詰まり」という意味になる名前だといいます。

〈妾〉はその名前を失念してしまいました。

〈妾〉はヤングに、アメリカ流の恋愛を仕込まれました。

首を絞められたり、縛って宙づりにされたり。

初めは痛くて苦しかったのが、やがてよくなってきたのでした。

〈妾〉はヤングの奥さんになって、アメリカにつれていってもらうことを夢見て、一生懸命にアメリカの言葉をおぼえたのでした。

【承】支那米の袋 のあらすじ②

密航のたくらみ

そうして十月末のことです。

ヤングがしょげた様子でやってきました。

ハワイへ引き上げて、日本と戦争することになったというのです。

だから〈妾〉をアメリカにつれて帰ることはできない、と言い、大金をくれようとしました。

〈妾〉はお金をはらいのけ、絶対にあんたと離れない、と泣きわめきました。

するとヤングは、よいことを思いついた、と自分の考えを話します。

それは、〈妾〉を支那米の袋に入れ、船に積み込み、折を見て、父親である司令官に話をして、士官候補生として自分の化粧室に住まわせる、というものです。

〈妾〉はその話にとびつきました。

ヤングは袋を用意しに出かけて、すぐに戻ってきました。

それから〈妾〉にたくさん食べさせ、レストランの主人にチップをはずみました。

部屋のなかに二人きりになると、窓の鉄格子を外し、外に脱出しました。

〈妾〉は、隠してあった支那米の袋に入って、船に運び込まれました。

二人の男が、袋を船の底におろすのを手伝います。

男たちの持ち方が、中に人間がいるとわかっているようなので、少し変だなとは思いました。

袋を置くと、男たちはおしゃべりします。

ロシアの娘っ子がこんなに正直者とは思わなかった、革命からあと、どの店でもいいとこのお嬢さんを仕入れており、頭のいいヤングはそこに目をつけた、といった話をします。

当のヤングは司令官に談判しに行ったようです。

〈妾〉は眠りました。

船が出航すると、機械の振動が不快で目が覚めました。

かたわらに、三、四人の男がいて、しゃべっています。

それによると、船底に全部で十七個の支那米の袋が置かれているようです。

袋の中には、ヤングやほかの青年のたくらみでつれてこられたロシアの美少女たちが入っています。

ところが、司令官の許可が出なかったため、皆殺しにしなければならないようです。

男たちは、殺す前に美少女の身体を楽しみたいようですが、諦めるしかない、と嘆いています。

〈妾〉も、他の袋の少女たちも、びっくりして、小さくなっている様子です。

【転】支那米の袋 のあらすじ③

海に投げ込まれる少女たち

そのうちに、男たちのひとりが、女たちを片付けるまえに、彼女たちに教えてやろう、と仏心を出します。

男は、ロシア語で説明しはじめました。

——お前たちは、恋人といっしょになりたいために、袋に入ってここに来た。

そこには悪気はなかった。

ヤングは司令官に、「女たちをアメリカまでつれていってほしい」と頼んだ。

しかし、司令官は規則をたてに、それを拒否した。

そのため、お前たちを袋ごと海へ投げ込むことになった。

——という内容でした。

とたんに、あちこちの袋から女たちの金切り声があがり、暴れる音がします。

〈妾〉だけは、声を出さず、なんとか袋を破れないものかとあがいていました。

男たちは、袋を四つか五つづつ持って、階段を上がっていきます。

しばらくして、おりてきた男たちは「女にさんざん暴れられた」と笑いながら話しているではありませんか。

男たちは次々に袋を持っては階段をのぼり、おりてくる、ということを繰り返しました。

ついには、〈妾〉のまわりには何の物音もしなくなりました。

〈妾〉は袋に入ったまま転がり、できるだけ隅のほうへと転がっていきました。

やがて、ひとりの男がおりてきて、「おかしいな。

ひとつ足りないな」とつぶやきます。

それはヤングといっしょに店にやってきたことのある、〈妾〉のきらいな黒人の声でした。

〈妾〉がじっとしていると、黒人はあきらめて去っていこうとします。

が、そこでとうとう〈妾〉の袋を見つけたのでした。

黒人は〈妾〉の袋をかつぎます。

〈妾〉も黒人も無言です。

〈妾〉はほかの男に聞かれまいとしていますし、黒人は黒人で、〈妾〉をどこかへつれていって、どうにかしようというつもりなのでしょう。

暴れているうちに、袋の口が解けて、両脚が出ました。

〈妾〉が暴れると、黒人は、針金で〈妾〉の足首から胸のところまで、がんじがらめに縛りあげたのでした。

〈妾〉は苦しくて、気絶してしまいました。

【結】支那米の袋 のあらすじ④

助かった〈妾〉

それからどのくらいたったのか。

〈妾〉は意識を取りもどしました。

男たちが、袋の外に出た〈妾〉の脚を見て、いろいろおしゃべりしています。

そこへ、きどった足取りで階段をおりてくる足音が聞こえました。

ヤングです。

ヤングは上品なロシア語でわたしにお説教を聞かせます、「ワーニャさん、おとなしくして頂戴。

わたしはあなたが憎くてこんなことをするのではありません。

わたしは戦争で死にます。

だから、あなたといっしょに天国に行きたいのです。

おとなしく死んで頂戴」と。

そうして、いったん針金をほどくと、〈妾〉の身体を再び袋に詰めて、袋の口を閉じたのでした。

〈妾〉は甘い夢でも見ているような心持で泣いていました。

ヤングは袋の上から〈妾〉の頭をなでて、また去っていきました。

男たちがおとなしくなった〈妾〉の袋を持って階段をのぼり、海へ投げ込んでしまいました。

……気がつくと、〈妾〉はレストランの地下室で寝かされていました。

海に投げ込まれたとき、軍艦とすれちがったジャンクに拾われ、介抱されて息を吹き返したのでした。

他にも船に拾われた袋がありましたが、みな助からなかったそうです。

ウラジオストックの警察が来て、取り調べを受けました。

ヤングは麻薬の密売をしていたそうで、女たちをつかまえ、上海かどこかで売るつもりだった、と言います。

けれど、〈妾〉は信じられませんでした。

〈妾〉はなにも言わず、また、実際しゃべることができず、黙っていました。

そんな〈妾〉が、〈あんた〉を見たとたん、元通りしゃべることができるようになったというわけです。

さて、〈妾〉は〈あんた〉とアメリカ式の恋愛をしました。

絞めるだのなんだのといった、軽いのはもういいの。

いきなり殺したいわ。

あら、〈あんた〉、酔ったのね。

〈妾〉は〈あんた〉の心臓を一突きにするわ。

そうそう、思いだした、こういうのを日本ではシンヂュウと言うのでしたわね。

支那米の袋 を読んだ読書感想

一読した印象は、B級ラブ・サスペンスといったものです。

ワーニャのひとり語りで話が進められ、大変読みやすいですし、おもしろかったです。

冒頭でいきなり「あんたを殺したい」などというセリフが出てくるので、「え? なんだろう? 殺したいってどういうことなんだろう?」と、引きつけられます。

そうして読み進んでいくと、ワーニャがかつて好きになった男との恋愛に話が及びます。

そこでも、単なるのろけではなく、SM的な変態趣味の恋愛関係が暴露されるものですから、読んでいるこちらとしては、通俗的な興味がわき、ひきつけられていくのです。

ことほどさように、次々と「なるほど。

で、次はどうなるんだろう?」と、目が離せないのでした。

さて、作中、一番すごいと感じたのは、ワーニャが海に投げ込まれるか、まぬがれるか、という場面です。

つまり、袋に詰め込まれた少女たちが次々に海に投げ込まれていきますが、ワーニャだけは隅に隠れて助かりそうになる、そこへひとりの黒人が来て、ワーニャを探す、という場面です。

そこの恐怖感の盛り上げ方がすごいです。

映画的でもあります。

そう、この作品は全体的にヒッチコックのようなサスペンス映画の雰囲気を漂わせているのです。

1920年代の時点で、このような作品が書かれていた、ということに驚くばかりです。

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