著者:宇佐見りん 2020年9月に河出書房新社から出版
推し、燃ゆの主要登場人物
山下あかり(やましたあかり)
主人公。高校2年生。内向的。アイドルのまさき推し
上野真幸(うえのまさき)
アイドルグループまざま座のメンバー。あかりの推し
成美(なるみ)
あかりの友達。地下アイドル推し
いもむしちゃん(いもむしちゃん)
まさき推しの仲間。SNS上の親友。
推し、燃ゆ の簡単なあらすじ
家庭も学校生活もうまくいかず、いつも生きづらさを感じていた高校生のあかり。
アイドルグループのいとうまさきくんとの画面越しの再会をがきっかけに、SNSに自分の居場所を見つけて、「推しを推す」人生を豊かに生きていく物語です。
推し、燃ゆ の起承転結
【起】推し、燃ゆ のあらすじ①
「推しが、燃えた」高校2年生のあかりは、寝苦しさからか、虫の知らせなのか、深夜に目が覚めました。
何時かな?と携帯電話を開くと、SNSがざわついています。
「ファンをなぐったらしい」詳しいことは何もわかっていないのに、それは、あっという間に炎上しました。
あかりは、拡散され燃え広がり続けるニュースをベッドの上でみながら推しの心配をしていました。
「無事?」なるみからのメッセージが届きました。
朝、学校行きの電車にかけこんできたなるみは、「無事?」とあかりに聞きます。
「だめ」あかりは、こたえます。
なるみの言葉はいつも、リアルもデジタルも同じです。
なるみの大きな目と、困り眉で、表情を豊かに悲しみを語る顔をみていると、そっくりな絵文字があるなと思いました。
「そうか、そうよね」そう言ってなるみが隣に座ると、柑橘系のさわやかな香りがしました。
あかりとのあいさつがおわると、なるみが10枚で1万円のチェキを見せてきました。
それは、なるみがハマっているメンズ地下アイドルの推しとの2ショット写真で、なるみと推しは、ほほをよせあったり、肩に手を回したりしていました。
去年、なるみは、推しの有名アイドルが芸能界を引退したときは、3日間学校を休みました。
「今はふれあえない地上よりふれあえる地下」となるみはいいました。
地下アイドルはふれあえるし、認知してもらえたり、もしかしたらつきあえるかも知れないし、といいます。
なるみは、推しが耳にかかった髪をはらって、耳元でいい匂いとささやいてくれてから、もうもどれなくなったといいます。
なるみは、「地下」をすすめてきますが、あかりは、現場に行って有象無象のファンと会うことが楽しくて、SNS上の拍手や匿名の書き込みの一部でいたいのです。
「病めるときも健やかなるときも」「推しを推す」そう書くと、あかりがブログの送信ボタンを押しました。
すぐに、となりからいいねが飛んできました。
【承】推し、燃ゆ のあらすじ②
あかりは、学校生活をうまく送れていません。
あかりにはいつも空虚感がつきまとい、生きづらさをいつも感じています、動物としての重責、生きることのしわよせ、お風呂も爪切りも機械的で、人と偽りのコミュニケーション、体が重くてしかたがない。
保健室の先生に病院の受診をすすめられ、2つ診断名がついています。
そんな苦しい毎日の中で、「推しを推す」ときだけは体が軽くなって、重さから逃れられます。
あかりが、推しを初めて見たのは、4歳のときでした。
その時、推しは12歳で、ピーターパンを演じて空を飛んでいました。
それから12年後、あかりは16歳の高校生1年生になりました。
体操服がみつからなくて、学校を休んでいた日、たまたま、ベッドの下からピーターパンのDVDを見つけました。
ピーターパンは、テレビの画面から抜け出して、あかりの部屋を飛び回っていました。
「ピーターパン、やばい、えぐい」あかりは思わず、声に出していました。
「ネバーランドに行ってみたいな。」
私が言うと、「大人になんかなりたくないよ。
ネバーランドに行こうよ」と、ピーターパンが私にいいます。
その少年の言葉は私のための言葉だ、そう思って涙があふれだしました。
彼とつながって、外ともつながりました。
4歳から私はずっと彼を待っていた気がしました。
ふとパッケージをみると、「うえのまさき」と書いてあります。
そうか、この人が、、、その瞬間から私の中で、色のなかった世界が色を持ち、止まっていたねじが動き出しました。
【転】推し、燃ゆ のあらすじ③
うえのまさきくんは、まざま座でアイドルグループをしています。
あかりは、1年前から「うえのまさきくん推し」です。
12歳だった男の子が、今はおちついた男性に成長しています。
あかりは、ライブ、テレビ番組、映画まで全部見ました。
まさきくんの目は、奥底からエネルギーが放出されて、あかりが生きているということを、思い出させてくれました。
昼の一時から、推しの取材が始まりました。
あかりは、昼休みの教室でイヤホンをして聞きました。
「ファンの女性に手を挙げた?」記者の質問に、「当事者間で解決することとおもっています。
もうしわけありません」と、不機嫌そうにこたえるとすぐに車で去っていきました。
すると、すぐにSNSでは、「何?この態度」「反省して戻ってきてほしい」「いつまでもまってるよ」「金輪際みません」いろいろなコメントで盛り上がっている中、あかりはルーズリーフにやり取りを書き起こしていきます。
推しの不機嫌な態度は演出だろう。
私は今までずっとあらゆるメディアでの、推しの言葉を書き留めて20冊のファイルになった。
推しのDVD、CD、写真集は、3冊ずつ買う。
番組は録画して何回も見直す。
推しの見る世界がみたかったのです。
そのどれも全てが推しを理解し解釈するためです。
それをまとめたものをブログにして公開していくうちに、閲覧が増えました。
お気に入りやコメントも増えてブログのファンもついた。
まさきを推し始めて1年。
推しの20年の情報をできるだけ集めていったら、ファンミーティングなどの、質問にどうこたえるか、ほぼわかるようになっていた。
あかりは、まさきくんのガチ勢として有名になっていきました。
あかりは、どうしても推しがファンを殴るとは思えませんでした。
無力な私はどうしたらいいのかわからないけど、これからも推しを推し続けることは変りないです。
チャイムがなって授業が始まった。
【結】推し、燃ゆ のあらすじ④
「みなさんお久しぶりです。
あらぬうわさが飛び出して、炎上は本当に手に負えません。
メンバーの不仲説、過去にいじめをしていた、ある掲示板では、燃えるゴミの扱い、指をくわえて、みていることしかできないけれど、まさきくん推しのみなさん、一緒にがんばりましょう。」
祖母を見舞いにいく車の中で、あかりは、ブログを投稿しました。
推しは、映画「ステンレスラブ」で人気に火がつきました。
その後に出した曲「水平線に八重歯を食い込ませて」がヒットすると、八重歯の女の子探しに、ネットが盛り上がりました。
病院から帰宅すると、元気で勢いのある大好きな「いもむしちゃん」から、「あかりん待ってたよ」とコメントが届いていました。
いもむしちゃんは、いつも一番長くコメントをくれます。
SNSで仲良くなって、朝起きて寝るまでSNSで会話します。
みんなで推しに愛を叫び推しでつながって、推しがいなくなったらみんなもいなくなる。
そういう関係。
でもあかりの推しは未来永劫うえのまさきです。
なぜなら、あかりの生活は、普通すらままなりません。
推すを推すことだけが、あかりの生活の中心で絶対なのです。
背骨なのです。
普通はきっと、学校に行って、部活をして、友達と遊んだりしています。
でも、あかりは、みんなと逆です。
推しのグッズを全部買うためにバイトして、「推しを推すだけ」の、夏休みがこれから始まります。
あかりは、それだけが幸せだという気がしています。
推し、燃ゆ を読んだ読書感想
現在の高校2年生のあかりは、推し活動に忙しく、いきいきした毎日を送っています。
SNSで発言力もあり、ブログは人気になり、推し仲間たちと、朝から晩までSNSでつながっています。
ですが、1年前のあかりは、色のない世界で、誰にも理解されず、生きづらさを感じて、苦しい毎日でした。
そんなあかりを変えてくれたのが、「推し」の存在です。
その頃のあかりと、同じ気持ちを抱いている若者が現実社会にいて、あかりに共感できます。
大人が読んでも、高校時代のあの頃を思い出させます。
現在は、SNSが普及して、外より家に、外見より内面に人の目が向いています。
人はだれでも存在意義に悩みんだり苦しんだり、心には嵐が吹き荒れています。
人は誰しも、夢や目標、大切な人や事の中に、生きる意味を見つけます。
この作品は、「推し」のために生きる主人公あかりと、何かのために頑張る自分を重ねた物語です。
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