著者:乗代雄介 2015年8月に講談社から出版
十七八よりの主要登場人物
阿佐美景子(あさみけいこ)
ヒロイン。読書家で無口な女子高生。友人は少ないが孤独に強い。
ゆき江(ゆきえ)
景子のおば。父親が開業した眼科病院を手伝う。誰とでも話ができて聞き上手。
津間希美(つまのぞみ)
景子のクラスメイト。ムードメーカーで交遊関係も派手。
朝霞(あさがすみ)
景子の1年の時の担任。進路指導よりも文学の面白さを生徒に伝えたい。
阿佐美洋一郎(あさみよういちろう)
景子の弟。趣味は海外のスポーツ中継を見ること。
十七八より の簡単なあらすじ
家庭にも教室にも話し相手のいなかった17歳の阿佐美景子は、叔母のゆき江と一緒に過ごすことが多くなっていきます。
国語の先生・朝霞とは大好きな本の話で心が交流を深めていましたが、悪質なデマのせいでふたりの健全な関係は破綻します。
ただひとり心の支えとなって励ましてくれたゆき江も、やがては病が原因でこの世を去るのでした。
十七八より の起承転結
【起】十七八より のあらすじ①
阿佐美景子は築年数は相当ですが良く管理されたマンションの、最上階にあたる7階で家族4人で暮らしていました。
自宅から徒歩で15分ほどの中高一貫校に通っていて、この春に高校2年生になったばかりです。
休み時間には津間希望を中心にマー君とハンカチ王子のどちらが好みかで盛り上がっていますが、景子は輪の中に入りません。
授業が終わるとすぐに下校して向かう先は「あざみクリニック」と掲げられたペパーミント色の建物で、月に1〜2回ほど治療を受けています。
眼科医の祖父が営んでいるこのクリニックで働いているのが父の妹に当たるゆき江ですが、彼女は医師免許を持っていません。
長らく看護助手や医療事務をこなしてきために、逆さまつげを抜くくらいの治療はできました。
両親は仕事が忙しくて弟の洋一郎は夜遅くまで学習塾で自習をしているために、景子はゆき江と一緒に夕食を取ることが多くなっていきます。
20歳以上年が離れていますが「ゆき江ちゃん」と呼び掛けていて、景子にとって唯一心を許せる相手です。
【承】十七八より のあらすじ②
6月も下旬に突入した数日のあいだ景子は予習・復習よりも、古典担当の朝霞に提出するための読書ノートに掛かりっきりです。
もともとは1年生の時に彼のクラスだけで始めた朝の読書習慣でしたが、2年に進級してからは自主学習になったために強制ではありません。
教師にしてはテストの点数にも志望校のランクにもうるさくない朝霞は、どこかゆき江に似ているものがありました。
本のタイトル、著者名、発表された年月、刊行して出版社、読んでみての感想… キャンパスノートにはこれまでの読書歴がぎっしりと書き連ねてあります。
「カチカチ山」を読んだだけで泣いてしまう景子の文章には迫力と説得力があり、義務もないのに熱心に提出してくる女子生徒の存在は自然と朝霞の目に止まります。
ある日の放課後に景子が招待されたのは、図書室に併設された自習室で月に1〜2回ほど開催されている「読書会」です。
生きた人間と意見や言葉を交換して傷ついてしまった時、そんな時には死者と語り合ってみること、本を読むことがこの世を離れるただひとつの方法。
会の終わりに古典の名作をリストアップしたプリントを手渡してきた朝霞は、ひそかに小説を執筆していることも打ち明けてきました。
【転】十七八より のあらすじ③
期末試験が終了して1学期が形だけの行事を残すばかりとなった頃、いつものように図書室へ向かう途中で大内と合流しました。
景子が自分から声をかける数少ない男子生徒でもあり、読書会の中では優秀かつ積極的なメンバーでもあります。
このところ会に顔を見せていないためにその理由をそれとなく探ってみたところ、朝霞と景子とが男女の仲になっていると誰かが言いふらしているそうです。
自分だけは根も葉もないうそだと信じていること、読書会の時に課題の図書のことではなく景子のことを考えていたこと。
気をつかってくれた大内には「ありがとう」という感謝の気持ちだけを伝えるとその場を立ち去り、この日を最後に景子は会に参加しません。
大内は本も読まずにただひたすら受験勉強に打ち込むようになり、日本でもトップクラスの国立大学に合格して学校関係者を喜ばせたそうです。
景子は以前のようにあさみクリニックへ足しげく通うようになり、まつげの処理が済んだあとは決まって泣いていました。
【結】十七八より のあらすじ④
3代をさかのぼってもガンで亡くなった親族がいない阿佐美家だけに、夏休みに入った矢先にゆき江が末期ガンだと診断されたときは相当なショックでした。
特別病室で入院することになりましたが手術はすでに不可能なため、緩和ケアや精神的なサポートくらいしかできません。
みるみるうちに体がやせ細っていき、顔からは生気が抜け落ちていたためにいよいよ余命はあとわずかでしょう。
お見舞いにきた兄夫婦とおいの洋一郎を冷え冷えとした廊下に追い出してしまいましたが、景子だけは病室で寄り添うことを許されます。
ゆき江の顔は一重まぶたに厚ぼったい鼻で下膨れ、景子の顔は鼻筋が通っていて全体的に美観。
ベッドの上でほおとほおを寄せ合うとふたりが他人であることは一目瞭然ですが、それでも景子の中に宿っている希望を愛しているそうです。
愛するめいでもあり17歳の女の子でもある景子にだけ預けた最期の言葉が、いつか身の上話のような物語で世に送り出されることを祈るのでした。
十七八より を読んだ読書感想
子供でもなく大人でもない微妙なお年頃、そんな17〜18歳の揺れ動く胸のうちが繊細なタッチで描かれています。
阿佐美景子は飛びっきりクールで、時には思いきった行動に打ってでる潔さも兼ね備えていて魅力的な主人公。
クラスの中でもちょっぴり浮いていて知的でミステリアスなムードを漂わせた、制服姿の少女を想像してしまいます。
景子と同じくゆき江のキャラクターも際立っていて、おば・めいというよりは女友だちのような関係性が心地よいですね。
いつかは誰もがティーンエイジャーを卒業して、大切な人に別れを告げなければならないことを痛感するラストでした。
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