「今日もひとり、ディズニーランドで」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|ワクサカソウヘイ

今日もひとり、ディズニーランドで ワクサカソウヘイ

著者:ワクサカソウヘイ 2014年4月にイースト・プレスから出版

今日もひとり、ディズニーランドでの主要登場人物

僕(ぼく)
物語の語り手。昼夜逆転の生活を送るニート。何もしなくてもそこそこ生きていける状態が理想。

父(ちち)
僕の父親。小言が多いが面と向かって叱るのが苦手。

母(はは)
僕の母親。家事の合間にパート勤務をこなす働き者。

弟(おとうと)
僕とは年が離れている。充実したスクールライフを満喫中。

彼女(かのじょ)
僕の高校時代のクラスメイト。SNSで積極的に意見を発信しつつリア充を目指す。

今日もひとり、ディズニーランドで の簡単なあらすじ

自宅に閉じ込もっていた「僕」が、ある日ひとりで訪れた場所は東京と千葉の境目にある国民的テーマパークです。

無職の息子が遊び歩いていることを知った父からは家を追い出されますが、それでも軍資金が続く限りは通いつめます。

高校生の時にひそかに思いを寄せていた彼女がスタッフとして働く姿に感激しつつ、父の許しを得て帰宅するのでした。

今日もひとり、ディズニーランドで の起承転結

【起】今日もひとり、ディズニーランドで のあらすじ①

夢と魔法の楽園をさ迷う亡霊

定時制の大学を卒業した僕でしたが就職活動を一切せずに、23歳になった春先でも実家で暮らしていました。

学生の頃にはアルバイトをしてかなりの額を貯金をしていて、特にやりたいこともなく当分は親に依存できるでしょう。

ここ数年で急激に会話を交わす機会が少なくなってい父は、「何か行動しろ」と忠告するだけです。

父は朝早くから出社、続いて弟が登校、最後に母がパート先に。

ひとりになるのを見計らってパソコンから大手SNSのサイトにアクセスしてみると、高校生の頃に憧れていた彼女が日記を投稿しています。

しばらくページを更新していなかった彼女は、好きな仕事を始めて新しい自分を発見したと嬉しそうです。

バイト先はJR舞浜駅の前にあり日本人なら誰でも知っているであろう「夢と魔法の王国」で、僕と同じく1983年の4月生まれです。

彼女からヒントを受け取ったような気持ちになった僕は、たったひとりで王国を訪れて営業時間終了まで目的もなく園内を歩き回りました。

家族連れやカップルが多い中で、男ひとりの来園者はめったに見当たりません。

【承】今日もひとり、ディズニーランドで のあらすじ②

孤高のライダーもついにはガソリン切れ

ひとりで入国したゲストには「おひとりさま」ではなく、「シングルライダー」というオフィシャルの呼称が与えられます。

初めの頃は他人の視線がきつかった僕ですが、慣れてくるとそれほど気にはなりません。

スタンドで販売されているスイーツの中でも1番に人気のあるチュロスを、常に3本ほど片手に掲げるようにもしていました。

知らない人が僕を見れば一緒に来ていた友だちと逸れてしまったか、待ち合わせをしているようにも見えるでしょう。

夏休みに入ると各地から観光客が押し寄せてくるために、行列に並んでチケットを購入したりアトラクション順番を待つのもひと苦労です。

それでも僕の顔を見て「幽霊みたい」とつぶやく父や、畳んだ洗濯物の横に無言で就職情報誌を置いていく母と家にいるよりかよっぽど晴れやかな気分になれます。

思い切って年間パスポートに切り替えてみましたが、自宅のある都内から通うとなると交通費も安くはありません。

秋も半ばを過ぎる頃には、いよいよ貯金も残りあとわずかです。

【転】今日もひとり、ディズニーランドで のあらすじ③

王国の裏庭にそびえ立つ不夜城

普段は何かにつけて無関心な父が突如して怒りを爆発させたのは、僕がリビングに脱ぎ散らかしていたジーンズを洗濯機に放り込もうとした時です。

チュロス、アイスクリーム、ジュース、ポップコーン… ポケットから出てきたのは山のようなレシートで、働きもせずに好き勝手していたことは一目瞭然でした。

王国のパスポートとATMから引き出した全財産、5万円にも満たないほどの現金を手にした僕は舞浜方面へと向かいます。

景観を保つために王国は浦安市と連携を組んでいて、カプセルホテルやマンガ喫茶などの施設はありません。

オフィシャルホテルは驚くほどの料金で、唯一チェックインできそうなのが条例の網目をくぐり抜けて営業しているカップル向けの安価な宿泊施設です。

ベッドはスイッチを入れると回転するタイプ、いい加減な配電のため1時間ごとに落ちるブレーカー、薄い壁の向こうからは若い男女のあえぎ声。

ろくに眠れないまま次の日の朝を迎えますが、それでも王国通いだけは止めるつもりはありません。

【結】今日もひとり、ディズニーランドで のあらすじ④

明日への扉を開き一歩踏み出す

いよいよ所持金が底をついて今夜の宿の当てはありませんが、最後にシンデレラ城を見に行くことにしました。

明日からはお先真っ暗な中でも、冬のイルミネーションに包まれた王国のシンボルだけはやたらと輝きを放っています。

お城の中にはネズミのようなマスコットの王様が自給自足をしている「トゥモローランド」と呼ばれているエリアがありますが、ここだけは抵抗がありこれまで1度も立ち入ったことはありません。

案内役の女性キャストからはいつものように「1名様ですか?」と確認されますが、その声にはどこか懐かしい響きがあります。

思わず顔を上げて目線を合わせると、紛れもなく今年の春に僕を王国に誘い出すきっかけを作ったSNSの彼女です。

静かに笑顔でお出迎えをしてくれた彼女は、ひとりでこんな時間にこの場所に来ている理由を問いただすこともありません。

エレクトリカルパレードがフィナーレに差し掛かり魔法の時間が消え去る頃、僕の携帯には「夕食が用意してあるよ」という父からのメッセージが届くのでした。

今日もひとり、ディズニーランドで を読んだ読書感想

「僕」「父」「母」「弟」と固有名詞がまったく登場しない語り口が独特ですが、日本全国どこにでも存在する中流家庭の風景がぼんやりと思い浮かんでくることでしょう。

この本のタイトルこそ某テーマパークの名称が使用されていますが、物語の中では「王国」としか呼ばれないほど徹底しています。

長くて気だるい人生の春休みに突入してしまったような主人公の、突拍子もない行動の数々には笑わされました。

そんな彼の背中をそっと後押しすることになるヒロインにも名前が付いていないのは残念ですが、見た目も中身もステキな女性であることは間違いありません。

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