「バイバイ! 代表取締役はひきこもり」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|藤山勇司

バイバイ! 代表取締役はひきこもり 藤山勇司

著者:藤山勇司 2012年4月に徳間書店から出版

バイバイ! 代表取締役はひきこもりの主要登場人物

玉田寿樹(たまだとしき)
主人公。人前に出ると極度にあがってしまう。職歴はないが多くの資格とネット技術を取得している。

塩川常吉(しおかわつねよし)
暴力団の若頭補佐までのぼり詰める。足を洗い真っ当に生きることを模索中。

酒井常勝(さかいつねかつ)
以前は工務店を経営していた。ロマンス・グレーでダンディーな身なりにこだわる。

護国寺百合(ごこくじゆり)
実家は有名な神社で弁護士としても活躍する。「女王様」の愛称で1部のマニアに人気がある。

玉田寿子(たまだとしこ)
寿樹の妹。奇抜なファッションを好み男にだまされやすい。

バイバイ! 代表取締役はひきこもり の簡単なあらすじ

28年間のあいだ世間と関わりを持たなかった玉田寿樹が、職探しのために訪れたハローワークで出会ったのは塩川常吉と酒井常勝です。

それぞれの得意分野を生かすために起業をして、常吉と酒井は過去にやり残していたことにもきっちりとケジメをつけます。

ふたりの影響から寿樹も今までの自分本位の生き方を改めて、家族と向き合うことを決意するのでした。

バイバイ! 代表取締役はひきこもり の起承転結

【起】バイバイ! 代表取締役はひきこもり のあらすじ①

気弱なうり坊が猪突猛進の両雄と手を組む

都内屈指の名門・快晴高校に入学した玉田寿樹ですが、パニック障害が原因で1年で退学をしました。

通信教育を経て私大の雄・稲穂大学に合格したものの、やはり2年で通えなくなり除籍処分を受けます。

28歳の時に広告代理店を営んでいた父親が失踪、葛飾柴又の実家では妹の寿樹が彼氏を連れてきて同せいを始めたために寿樹の居場所はありません。

母親から手切れ金の30万円をもらって引っ越した先は、江東区の門前仲町の南にある日当たりの悪いワンルームアパートです。

木場のハローワークで求人情報を閲覧していると、干支が同じ亥だというふたりの男性と意気投合して近くの居酒屋「潮亭」へ向かいました。

ひとりは塩川常吉で40歳、つい最近まで所属していた仲門組は解散、もうひとりは酒井常勝で52歳、こちらも社長をしていた「三条工務店」が倒産したばかり。

もう1度不動産業で身を立てることにチャレンジしたいという酒井ですが、自己破産を申請しているために企業の役員にはなれません。

何度も懲役をくらって深川警察署に目を付けられている常吉も、代表になった途端に企業舎弟だと誤解されてしまうでしょう。

宅地建物取引主任者の資格を持つ寿樹であれば、クリーンな青年実業家のイメージにぴったりです。

【承】バイバイ! 代表取締役はひきこもり のあらすじ②

迷えるイノシシたちを導く女王の神託

代表取締役は寿樹、会社名は「3人の亥年」を略して株式会社サンイ、オフィスは仲門組が取引場所として利用していた隅田川のほとりの事務所。

事業が軌道に乗り始めた早々に、寿樹が大田区田園調布で起きた空き巣事件の容疑者として逮捕されてしまいました。

国選弁護専門の護国寺百合のおかげでえん罪だと証明されましたが、ショックから寿樹は自宅に閉じ込もって出社してきません。

「富丘八幡宮」の宮司の娘でもある百合は「女王様の館」というサイトを開設していて、道を外れかけた者に救いの手を差し伸べています。

百合が酒井に与えた「神罰」は社長時代に開発途中で放置した神田神保町の案件を解決すること、常吉はこの物件を不法に占拠している神雷会を排除すること。

ようやく外に出られるようになった寿樹は百合の指令通りに、自分を誤認逮捕した警察署の前で無言の抗議を決行しました。

数時間に渡って立ち尽くす寿樹の姿はニュースでも報道されて、警察には市民からの抗議が殺到します。

【転】バイバイ! 代表取締役はひきこもり のあらすじ③

幽霊が息を吹き返す

神保町駅の出口から西に進んで白山通りを渡ると、築50年をこえる4階立てのビルが見えてきます。

階には神雷会の事務所、2階にはマージャン店、3階から4階にかけては競輪・競馬のノミ屋。

バブル時代には派手に違法なギャンブルも行われていましたが、抗争で多くの死人が出てからは「幽霊ビル」と恐れられていて警察も現場を封鎖しているだけ手を出せません。

建築基準法や不動取引の知識がある寿樹がこのビルを落札、裏社会に顔が広く押しも強い常吉が粘りに粘って交渉、アングラマネーのある酒井が資金面で協力。

施錠されていた廃ビルは隅々まで洗い清められて、常吉の男気に胸を打たれた神雷会も撤退していきました。

今では破産財団となった三条工務店に高値で売却されたために、酒井はかつての部下たちにようやく退職金を払うことができます。

社長の座に復帰してほしいというありがたいお誘いも舞い込んできましたが、酒井はもう少しだけ寿樹と常吉の側にいて見守ってあげるつもりです。

【結】バイバイ! 代表取締役はひきこもり のあらすじ④

神様メールで商売繁盛と家族も円満

寿樹には「不動産を主題にしたゲームを開発せよ」、酒井には「各地でセミナーを開き経済を活性化せよ」、常吉には「社会から振り落とされた者たちの働き口を作れ。」

相変わらず百合は「お告げ」と称するメールを送り付けてきますが、ひとつひとつの課題をクリアする度にサンイの業績は上向いていきます。

そんな最中に寿樹を訪ねて泣きついてきたのは、かつて自分を家から追い出した寿子です。

例の彼氏が浮気をしていたこと、実家を担保にして消費者金融から借金をしていたこと、心労から母親が寝込んでいること。

本来であれば彼女を助ける義理はありませんが、もめ事の解決は常吉の得意とするところでした。

悪質な彼と業者を玉田家からたたき出し、酒井のアドバイスに従って寿樹名義の抵当権をつけておいたためにお金に困ることはないでしょう。

いつものように寿樹が出勤すると、社の前に横付けしてあるのは常吉が営業車として調達したベンツ600SLです。

ハンドルを握っているのは酒井で、ふたりに言われるまま寿樹は後部座席に乗り込みます。

母の具合がだいぶ良くなったことを聞いた寿樹は、久しぶりに家族の待つ葛飾まで送迎してもらうのでした。

バイバイ! 代表取締役はひきこもり を読んだ読書感想

生まれながらに授かった優秀な頭脳を生かせずに、進学校をドロップアウトしてただただ無為な日々を送る玉田寿樹はいかにも今どきの若者ですね。

コワモテでお近づきになりたくない塩川常吉、ハローワークには似つかわしくない高級スーツを身にまとった酒井常勝。

まるっきり接点がなさそうな3人が、干支が一緒というだけであっという間に会社を立ち上げてしまうユーモラスな展開です。

人見知りで引っ込み思案な寿樹を行動力のある常吉が後押し、向こう見ずな常吉を人生経験の抱負な酒井がケア。

お互いに足りないものを埋め合うような関係性が見事にバランスが取れていて、3人にとっては幸運の女神とも言える護国寺百合のキャラクターも魅力的でした。

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