著者:伊吹有喜 2010年2月にポプラ社から出版
四十九日のレシピの主要登場人物
遠藤百合子(えんどうゆりこ)
ヒロイン。都内で夫と義理の母親に気をつかいながら暮らす。
熱田良平(あつたりょうへい)
百合子の父。警備の仕事をしていたため声が大きい。
熱田乙美(あつたおとみ)
良平の再婚相手。生前は料理が得意で地域のボランティアにも熱心だった。
井本幸恵(いもとさちえ)
乙美の教え子。10代の頃から家出を繰り返し他人の家を泊まり歩いていてる。
遠藤浩之(えんどうひろゆき)
百合子の夫。進学塾を経営していて忙しい。異性関係にだらしがない。
四十九日のレシピ の簡単なあらすじ
夫の浩之との関係に思い悩んでいた遠藤百合子が、久しぶりに帰郷したのは血のつながらない母・熱田乙美の四十九日を執り行うためです。
遺言通りに準備をして当日を迎えると、故人を忍んでたくさんの参列者が駆け付けてきます。
乙美の人望の厚さに勇気をもらった百合子も、夫婦としてもう一度やり直すために浩之の元へと帰るのでした。
四十九日のレシピ の起承転結
【起】四十九日のレシピ のあらすじ①
継母・乙美の葬儀の後で父親の良平が落ち込んでいると聞いて、名古屋で新幹線を降りた遠藤百合子は実家へ向かいました。
風呂にも入ろうとしない良平の身の回りの世話をするために、毎日のように熱田家に通ってくるのは井本幸恵と名乗る少女です。
生前に百合子が絵はがきを教えていた福祉施設「リボンハウス」の生徒だそうで、小さな画用紙のカードをリングに通したものを持っています。
料理、掃除、洗濯、美容… さまざまな項目に分けられたカードには日常生活のコツが丁寧に書き込まれていました。
「四十九日のレシピ」というカードによると料理を立食形式で出してしてほしいそうで、読経や焼香も望んでいません。
レシピと言えば良平はここ2週間ほどまともな食事をしておらず、夫・浩之の浮気が原因で百合子も栄養失調のように痩せ細っています。
透き通った出汁、香ばしい匂いがするゴマ、庭から採ってきて細かく刻んだ青ネギ、スープに溶け込んだバター。
ふたりのために井本が用意した昼ご飯は、乙美のレシピを参考にした塩ラーメンです。
【承】四十九日のレシピ のあらすじ②
死者の魂は49日のあいだだけこの世界に滞在していて、その法要を無事に終えるとあの世に旅立っていくそうです。
お客さんを呼んで盛大にお見送りするためには、まずは荒れ果てたこの家の屋根や壁を大幅に修理・補修しなければなりません。
男手が必要な良平たちのために、井本はこのあたりの自動車メーカーで働いている日系ブラジル人カルロス・矢部を連れてきました。
一時期はその工場の社員食堂でパートをしていたこともある乙美には、同僚たちからいじめを受けていた際に助けられた恩があります。
腰を痛めている良平の代わりに日曜大工を、運転が苦手な百合子の代わりに愛車のフォルクスワーゲンで買い出しを。
パスポートに記載されている名前は長すぎて発音が難しいために、良平が付けてあげたニックネームは「ハルミ」です。
小回りがきくがすぐにおなかが空くハルミのために、百合子は乙美に習って覚えた親子丼をごちそうしました。
ここ最近は身だしなみに構わなくなっていたことに気がついた百合子は、美容室で髪形を変えてショッピングセンターで新しい服を買います。
【転】四十九日のレシピ のあらすじ③
宴会のために1階の家具類を移そうと、乙美が作業場として使っていた奥の部屋の扉を開けました。
中から出てきたのは乙美が災害のために備蓄していた日用品で、これを片付けなければ宴会はできません。
品質は良いものばかりで缶詰めの賞味期限も切れていないために、リボンハウスに電話をして寄贈することにしました。
軽トラックで引き取りにきた園長は、健在だった頃の乙美の働きぶりについて詳しく教えてくれます。
いつもニコニコと真っ白な紙に絵を描いていたこと、空いた時間には隅々までをピカピカにしていたこと、亡くなる3日前にみんなで豚まんを作ったこと。
リボンハウスは心に傷を負ったり何かに依存している女性をサポートするための場所で、自立した後はなるべく連絡を取らないのが原則です。
いま現在のパートナーや職場に、互助施設にいたことを隠していたり知られたくない人もいるでしょう。
四十九日にはできる限り多くの卒業生に出席してほしいのが百合子の本音ですが、何人分の料理を用意すればいいのか検討も付きません。
【結】四十九日のレシピ のあらすじ④
午後13時きっかりに玄関から入ってきたのは口うるさい良平の姉、続いて疎遠になったいた親族やいとこ、さらにはリボンハウスの園長のブログを見たOGたち。
みんなが料理に箸をつけてビールを飲み始めた頃に顔を出したのは、乙美とチャリティーイベントで仲良くなったという女性です。
彼女が差し出したのは乙美がお弁当によく作ってくれたコロッケサンドでしたが、良平はカバンが汚れると文句を言ったことを思い出しました。
たかがソースのシミくらいで怒鳴ってしまったことを後悔した良平は、泣きながら素手でコロッケをつかんでかぶり付きます。
小さな家の中には大勢の人であふれかえって、しめやかな法事というよりもみんなで歌って踊っての大宴会です。
乙美に線香をあげるつもりで東京から来た浩之は、この盛り上がりに水を差したくないと足早に立ち去ります。
良平が呼んでくれたタクシーに乗り込んで井本に背中を押された百合子は、「名古屋駅まで大至急」と運転手に行き先を告げるのでした。
四十九日のレシピ を読んだ読書感想
妻と死別して生きる気力を失っていた父・良平、夫とうまくいかずに居場所がなかった娘・百合子。
心を閉ざしていた親子のもとに次から次へと押しかけて、強引にでも外に引っ張り出していく珍客たちには元気をもらえます。
「食べものを買う時にはパトカー、プラス信号機」という、乙美のこだわりは見習いたくなりますね。
白と黒、赤・黄・緑をバランスよく生かした献立は色どりも豊かで、体にも優しそうで本を見ながら作ってみたくなりました。
食欲が生きるエネルギーへとつながっていくように、死者の喪失感を乗りこえたそれぞれの旅立ちが感動的です。
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