「百年泥」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|石井遊佳

著者:石井遊佳 2018年1月に新潮社から出版

百年泥の主要登場人物

野川(のがわ)
ヒロイン。日本で金銭トラブルに巻き込まれたために国外に逃れる。愛想がなく人の話をよく聞かない。

デーヴァラージ(でーばらーじ)
野川の受け持ちの生徒。語学力に優れているが態度は反抗的。

カールティケーヤン(かーるてぃけーやん)
野川の上司。福岡で支社長を務めたこともあり日本通。

アーナンダ(あーなんだ)
デーヴァラージのクラスメート。気がきいて小まめに雑用を引き受けてくれる。

百年泥 の簡単なあらすじ

多重債務者となった野川が元夫から紹介されたのは、インド南部の都市・チェンナイの日本語学校の講師の仕事です。

雨期に入ると大規模な洪水を目の当たりにし、クラスの中でも手を焼いていたデーヴァラージが泥の清掃作業をしているのを目撃します。

泥の中から出てきた思い出の品で、デーヴァラージの苦労人としての過去と日本との所縁を知るのでした。

百年泥 の起承転結

【起】百年泥 のあらすじ①

借金地獄から亜熱帯の国へ

フリーライターを自称する男性とお付き合いをしていた野川は、頼まれるままに保険証を貸してしまいました。

男性は野川の名義で10社以上の消費者金融からお金を借りると、間もなく行方をくらませてしまい連絡が取れません。

厳しい取り立てに参ってしまった野川が恥をしのんで泣き付いたのは、去年に別れたばかりの元夫です。

人材ブローカーをしている元夫は、南インドのチェンナイにあるIT会社「ヒンドゥー・テクノロジーズ」へ派遣する日本語の先生を探しています。

月給は円に換算すると安いですが、現地での生活費は桁違いに安いために5年ほどで完済できるでしょう。

教育に関してはまったくの未経験者でしたが、元夫にはこれまで5回ほど借金を申し込んでいるために断る訳にはいきません。

ヒンドゥー・テクノロジーズの東京支社で副社長のカールティケーヤンと面接をすると即日採用となり就労ビザを手渡され、2週間後にはチェンナイ行きの飛行機に乗り込みすぐに授業を任されます。

【承】百年泥 のあらすじ②

生半可教師に浴びせられる洗練

ヒンドゥー・テクノロジーズの本社は野川が借りているアパートから、アダイヤール川を架かる橋を渡って15分ほど歩いた対岸にありました。

東京・大阪・福岡に支社を持つこの会社では優秀なプログラマーを多く抱えていて、週に1回は取り引き先と会議をするために日本語が欠かせません。

日本語トレーニングプログラムがスタートした途端に、積極的に質問を投げ掛けてくるのがデーヴァラージです。

大学で教育課程を修了した訳でもなく教師の養成講座を受講した訳でもない野川にとっては、扱いやすい生徒ではありません。

デーヴァラージの方も野川が教師として平均的なレベルに達していないことを敏感に見抜いていて、取り巻きの生徒をけしかけてきます。

朝9時半からスタートして夕方5時45分まで、昼休みをはさんで午前中1回と午後1回にそれぞれ15分ずつ休憩、授業は1時間半でひと区切り。

アパートに引き揚げる頃にはぐったりと疲れ果てた様子の野川は、たちまち足腰の痛みと円形脱毛症に悩まされ始めます。

【転】百年泥 のあらすじ③

百年ぶりの濁流を目の当たり

赤道上のチェンナイは1年間を通じて蒸し熱い気候で、酷暑の7月が終わって8月下旬に入る頃には延々と雨が降り続いていました。

堤防が決壊してしまったようでアパートの周囲はコーヒーのような色の川に囲まれているために、外に出ることができません。

クラスの中でも特に面倒見のいいアーナンダに窓口になってもらい、授業の休みを電話で伝えてもらいます。

3日ぶりに晴れ間が射してきたために出社すると、橋の上で竹製の熊手のような道具を持って清掃しているのはデーヴァラージです。

タミル・ナードゥ州では交通違反をした場合には罰金刑ではなく、ペナルティーワークと呼ばれる労役で払わなければなりません。

サリーの布きれ、スパイダーマンのぬいぐるみ、日本の有名な酒造メーカーの空きビン。

百年に一度とも言われている豪雨によって辺り一面には泥が堆積していて、中からは国際色豊かなガラクタが次から次へと飛び出してきます。

デーヴァラージが野川の前に差し出したのは、泥の中で探り当てた古いコインの形をしたペンダントです。

表面には「EXPO’ 70」の文字が刻まれていて、大阪万博の時に製造されたメモリアルコインに間違いありません。

【結】百年泥 のあらすじ④

泥にまみれてキラリと光るお宝を発掘

教室での見下したような態度とは別人のような震える声で、デーヴァラージは自らの生い立ちを語り始めました。

父親は調教した熊とレスリングを取って巡業をする旅芸人、母親は同じ村の呪術師のお手伝い、駆け落ち同時で授かったのがデーヴァラージ。

母親が亡くなった時に葬式代もなかったほど困窮していた親子に、大阪万博の年に母を亡くした日本人旅行客が「供養」という言葉を教えてお金を恵んでくれます。

名前も告げずに立ち去った日本人のおかげで泥棒にならずにすんだと、デーヴァラージは今でも恩を忘れてはいないそうです。

野川が担当する初級日本語クラスは基本的に4カ月の契約ですが、洪水で多くの生徒が故郷に帰ってしまい再開の見通しは立っていません。

とりあえずのところは全員が集合するのを待って、あらためて教科書を最後まで終えるつもりです。

記念コインを面倒くさそうに欄干から川へと掃き落としている問題児とも、当分に縁が切れないでしょう。

今度の休みに海にデートに行かないかと誘われた野川は、「いやです」とお断りをしてから会社へと向かうのでした。

百年泥 を読んだ読書感想

主人公・野川の何ともつかみどころのないキャラクターと、行き当たりばったりで行動してしまう性格も魅力的です。

ついうっかりで赤の他人の借金を押し付けられるところは理解できませんが、異国の地でいきなり教壇に立つなど意外にも度胸があるのかもしれません。

ストリートの舞台になっている、人口500万人がひしめきあうチェンナイの街並みがエネルギッシュでした。

大阪市とは都市提携を結んでいることでも有名で、商店街や自動車のダッシュボードに友好の証しとして贈られた招き猫が飾られているのが印象的です。

世界屈指のITビジネスの聖地と、関西の商売繁盛の置き物とのあいだに不思議な絆を感じます。

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