「教授と少女と錬金術師」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|金城孝祐

「教授と少女と錬金術師

著者:金城孝祐 2014年2月に集英社から出版

教授と少女と錬金術師の主要登場人物

久野(くの)
主人公。5年目に突入した薬学部の学生。学問よりも食用油の販売で小銭を稼ぐのに夢中。

江藤(えとう)
久野の指導教授。学会からは距離を置く変わり者。

永田(ながた)
江藤の元教え子。生徒に人気のある塾講師。

荻睦(おぎむつみ)
永田の受け持ちの生徒。勉強に熱心で大人びている。

楊(やん)
神出鬼没の錬金術師。プライベートは一切が謎に包まれている。

教授と少女と錬金術師 の簡単なあらすじ

大学の研究室で油について研究している久野は、育毛剤を開発している教授から塾の講師・永田を紹介されます。

永田の生徒である荻睦と石けんの実験を通じて交流を深めていく久野でしたが、彼女のコンプレックスは色覚に異常があることです。

突発的に焼身自殺を決行した荻はどこからともなく現れた錬金術師の楊に助けられて、研究者の道を目指すのでした。

教授と少女と錬金術師 の起承転結

【起】教授と少女と錬金術師 のあらすじ①

不毛の研究とキラリと光る人気者

都心にほど近い薬科大学で動植物の油脂や皮革を研究している久野は、江藤教授から育毛について卒業論文を書くように勧められていましたが一向に進んでいません。

研究の合間に京浜急行電鉄の鶴見駅前の大口通から2本入った先にある薬局で、揚げもの用の油を精製して飲食店に売ることの方に力を注いでいます。

ある時に教室で紹介されたのは、江藤が助教授の頃に面倒を見ていた永田というスーツ姿の男性です。

永田の髪の毛は側頭部を残してほとんどが抜け落ちていましたが、毛根のない皮ふが素晴らしく輝いていました。

頭皮の脂についての詳しい話を聞かせてもらうために、永田の勤め先である大手の進学塾「上水ゼミナール」の川崎校を訪ねます。

中学生たちに囲まれて盛んに頭をタッチされている永田でしたが、授業開始のチャイムが鳴ったために部外者である久野は退席しなければなりません。

隣のビルにあるファミリーレストランで時間をつぶしていると授業を終えた永田が顔を出し、クラスの中でも特に優秀な荻睦という女子生徒も一緒です。

【承】教授と少女と錬金術師 のあらすじ②

錬金術師のささやきと少女のひらめき

久野が卒論やアルバイトの油の加工に行き詰まっていることを打ち明けると、荻は未成年でもお酒が飲める店に行きたいと言い出しました。

次の日の夕方に京急子安駅で待ち合わせをしたふたりは、オーナーと久野の顔見知りの女性がふたりで切り盛りをしているダイニングバー「Sunday」へと向かいます。

カウンター席にいつの間にか座っているのは楊という錬金術師を自称する男ですが、物質を貴金属に変える訳ではありません。

現代の錬金術師が目指しているのは不完全なものを完全に近づけるための方法、光の世界こそ神が最初に作った完全なもの、そこに近づけば近づくほど純粋な存在になれる人間。

楊のヒントを聞いていた荻が思い付いたのは、花や木の油と水酸化ナトリウムを混ぜて石けんを作る実験です。

近所で適当に香りのいいものを採ってくるだけでは物足りなくなった荻は、遠出をしたいと久野にお願いします。

荻の自宅からも上水ゼミナールからも近く日帰りで行ける距離にあるのは、横須賀のくりはま花の国くらいしかありません。

【転】教授と少女と錬金術師 のあらすじ③

穏やかな花の国で穏やかでない別れ

もともとは海軍の弾薬置き場だった軍用地に作られたアミューズメントパークで、駅の周辺からは離れたところにあり車窓を流れる風景ものどかです。

足元に敷き詰められた鮮やかなローズマリー、低木に弾けるように連なるマグノリア、無数に咲き誇るポピー。

さまざまな花に囲まれながらも憂うつそうな表情を浮かべていた荻に、久野は何色が好きなのか聞いてみました。

その途端に荻は何本かの花を摘まみ取ると投げ付けて、駐車場から飛び出して視界から消えてしまいます。

その日を境にして連絡が取れなくなり、上水ゼミナールにも出席していません。

永田の話では荻は幼い頃に遭った交通事故の後遺症で目に色覚障害を抱えているようで、自分の弱みを他人に知られる何よりも恐れていたようです。

塾の欠席が気になった永田が荻の両親に電話をしてみると、2日前から帰っていないことが分かり捜索願まで出されていました。

捜索員まで家に張り付いていて誘拐事件も考慮されているために、このままでは最後に一緒にいた久野が容疑者にされてしまうでしょう。

【結】教授と少女と錬金術師 のあらすじ④

雨上がりの夜空に虹の香りを

久里浜駅からタクシーを捕まえて花の国第二駐車場に停めてもらった久野は、坂を駆け上がってハーブ園の最上階まで来ました。

道の脇に生い茂る花までがめちゃくちゃにむしり取られていて、生々しくきつい匂いが辺り一面には漂っています。

日が沈んで暗闇に包まれた花畑の中で見つけたのは、この2日間でさ迷い集めてきた草花を握りしめた荻です。

花畑に黒いタールをまき散らして火を放ったために真っ赤に染まりますが、彼女にはモノクロームにしか見えていません。

猛烈な上昇気流が発生して無数の花が舞い上がる中で、久野は肌に水滴を感じます。

間もなくどしゃ降りの大雨によって火は消し止められて、荻は感情を爆発させて泣き叫ぶばかりです。

雲がひとつもない満月の夜に雨を降らせることができる人物と言えば、久野には錬金術師くらいしか思い付きません。

荻の目は色を感じられないままでしたが、虹色の香りがする特別なシャボン玉石けんを作ることを決意するのでした。

教授と少女と錬金術師 を読んだ読書感想

主人公・久野が住んでいるビール工場に面した古いマンションや、怪しげなバイト先の薬局など京浜工業地帯の殺伐とした景色が印象的でした。

気が向いた時に足を運ぶ大学のキャンパス内でも、教授の江藤を筆頭に実生活の役に立たないような研究ばかりに明け暮れていて笑わされます。

ひょんなことから行動をともにすることになる荻睦も、およそ今時の女子中学生とは思えません。

個性が豊かな登場人物たちを導きつつも、多くを語ることもなく消えていく錬金術師・楊も忘れられないでしょう。

終盤の山場となる横須賀の観光スポット・くりはま花の国にも、ポピーが見ごろを迎えるころには行ってみたいです。

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