「ゼンマイ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|戌井昭人

ゼンマイ 戌井昭人

著者:戌井昭人 2017年6月に集英社から出版

ゼンマイの主要登場人物

細谷進(ほそやすすむ)
主人公。雑誌に旅行や食べ物の記事を書くライター。辺境の地に行くのが得意。

竹柴保(たけしばたもつ)
横浜に生まれてトラック1台で事業を興す。卓越した運転技術と度胸の持ち主。

細谷加代(ほそやかよ)
進の4歳年下の妹。成城の大学でフランス語を教えている。妊娠中だが結婚には執着していない。

ハファ(はふぁ)
モロッコで生まれたベルベル人。気高さを漂わせていてサーカス団員としても芸達者。

ジェローム(じぇろーむ)
加代のパートナー。フランス出身で北京の企業で働く国際派。

ゼンマイ の簡単なあらすじ

運送会社の社長・竹柴保にかつて愛した女性・ハファを探すことを頼まれたのは、細谷進と加代のきょうだいです。

インターネットでの情報収集とモロッコまで飛んでのこまめな調査の結果、ハファが病死して小さな村に葬られたことを突き止めます。

ハファとの思い出の品であるゼンマイを現地に埋めて帰国した竹柴も、間もなく病気で息を引き取るのでした。

ゼンマイ の起承転結

【起】ゼンマイ のあらすじ①

ひと目会いたい彼女

1967年に来日したジプシー魔術団が1年間の興業を行った時に、興業機材の運搬をするトラック運転手として同行したのが竹柴保です。

竹柴は巡業中に20代半ばの女性団員・ハファと濃密な関係を続けていて、巡業が終わった後に竹柴は使っていたトラックを譲り受けて運送業を始めました。

世田谷区内に拠点を置く「バンブー運輸」は、都内のデパートや大型家電量販店の荷物輸送を委託されるほどに成功します。

竹柴がノートパソコンを購入してインターネットを覚えたのは77歳になった頃で、「ジプシー魔術団」と検索すると出てきたのがハファの写真が添付されたフランス語のページです。

プリントアウトしたものを会社から1キロくらい離れた場所にある大学へ持っていき、フランス語講師の細谷加代に訳してもらいました。

日本から戻ったハファはモロッコのタンジェに渡ったこと、街中にある雑貨屋でノートやお菓子などを売っていたこと、レジは鉄格子で囲まれていてピンクの花が飾っていること。

わずかに得た手掛かりをもとに竹柴はハファに会いに行くつもりで、加代も同行を頼まれます。

恋人・ジェロームの子を身籠っていて安定期にも入っていない加代が、代役として紹介したのがフリーライターをしている兄・進です。

【承】ゼンマイ のあらすじ②

残り時間を刻むゼンマイ

待ち合わせ場所の成田空港に現れた竹柴は大きめのエコバッグをぶら下げただけの軽装で、航空券からクレジットカードまでを進に預けました。

竹柴が上着のポケットから取り出したのはマッチ箱くらい黒光りした箱で、バタフライ形のゼンマイが付いています。

ハファが日本を去る時にプレゼントしたもので、ゼンマイを回すと魔除けになるそうです。

トラックの運転中に交通事故に巻き込まれて足を骨折、熱海に海水浴に行ったら危うく溺死、自宅で就寝中に放火。

これまでの人生でゼンマイを巻き忘れた日には、竹柴の身には決まって不幸が降りかかっていました。

もらった当初は朝に10回巻けば24時間回っていたゼンマイも、最近では3時間おきに巻かなければなりません。

ジプシー魔術団の興業は大盛況で多くの人に利益をもたらしましたが、関係者の多くが早死にしているのも事実です。

自分が生き残れたのはゼンマイのおかげで、この箱が止まった瞬間に自分の命運も尽きると竹柴は信じています。

【転】ゼンマイ のあらすじ③

迷路のような町で当てのない人探し

成田から11時間のフライトでドバイへ、4時間のトランジットがあってモロッコの中西部カサブランカへ、カサブランカで1泊してから鉄道でタンジェへ。

ゼンマイの効果があったのか無事にタンジェの駅に到着した一向は、日雇いの運転手が群がって客引きをしている中でも特に信頼できそうなハミッドという男性に声をかけました。

グランタクシーと呼ばれていてこの地域ではワンランク上の車両ですが、あちこちが凹んでいてクーラーも故障しています。

新市街に入ったタクシーはフランス広場を目指し、領事館の目の前にあるのが予約していた5つ星ホテルです。

ハミッドの腕と人間性を見込んだ竹柴は、日本円にして1万円ほどのお金を渡して次の日からハファの捜索を手伝ってもらいました。

1日中異国の地を歩き回った竹柴はさすがに疲れた様子で、ホテルに戻ると夕食も取らずにベッドに横になっています。

ひとりで夜の町を散策していた進が市街地を離れて坂道を下っていくと、迷路のようなプチソッコという地区に入り込んでしまい帰り道が分かりません。

会計スペースに鉄格子があって横にピンクの花が活けてあるお店を発見できたのは、まったくの偶然です。

【結】ゼンマイ のあらすじ④

木の下で眠りにつく愛しい人とゼンマイ

プチソッコの店でハファが働いていたのは30年ほど前のことで、悪い病気にかかってリフ山脈のふもとにある小さな村に引っ越したそうです。

タンジェからは車で3時間ほどはかかる道のりを、ハミッドは竹柴と進を愛車に乗せて猛スピードで駆け抜けました。

ハファの遺体が埋葬された場所は1匹の羊がつながれたイチジクの木陰で、竹柴は手を合わせて黙とうしたあとにゼンマイの箱を根もとに埋めます。

ゼンマイがなくても大丈夫だと少しだけ涙を流しながら帰路についた竹柴でしたが、1カ月後には入院することになり医師から宣告された余命は3カ月です。

進がお見舞いに行ってから1週間後には竹柴は容体が急変して亡くなり、遺骨は遺言通りにイチジクの木の下ではなく普通の石の墓に納骨されます。

相変わらずライターの仕事がない進は貯金を取り崩しながら漬け物工場でアルバイト、大学の仕事を辞めた加代はフランスへ移住。

ジェロームとのあいだに授かったのは男の子で竹柴の下の名前をもらって「タモツ」にしようかと考えているそうですが、進は止めたほうがいいと忠告するのでした。

ゼンマイ を読んだ読書感想

裸で鎖を引きちぎる怪力自慢の男、玉の上に乗るピエロに熊の調教師。

魔術団と聞いて「見せ物小屋」や「荒唐無稽人間市」といった看板を思い浮かべるのは、かなりのオールド世代ではないでしょうか。

社長さんとしてそれなりの地位と富を築きながらも、若き日の記憶に浸ってばかりの竹柴保が切ないです。

いかなるアクシデントにも動じない豪胆な性格と思いきや、昔の恋人・ハファからの贈り物であるゼンマイを律義に巻いている姿には笑わされました。

魔除けのゼンマイのはずが、次から次へと災難ばかりを持ち込んでくるような気もします。

過去の束縛から竹柴を解放するために力を貸す、正反対の兄と妹の優しさもほほえましいです。

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