「そういう生き物」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|春見朔子

「そういう生き物」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|春見朔子

著者:春見朔子 2017年2月に集英社から出版

そういう生き物の主要登場人物

原田千景(はらだちかげ)
ヒロイン。薬局で調剤を担当する。出世競争にも関わらず結婚願望もない。

広川雅哉(ひろかわまさや)
千景の元恋人。スナックでまかないを作ったり接客をする。男性であることに違和感を感じているために「まゆ子」と名乗る。

ほなみ(ほなみ)
雅哉の叔母。不倫が原因で会社勤めをやめて水商売を始める。

先生(せんせい)
千景の大学時代の恩師。仕事が趣味で引退後も論文を読んだり顕微鏡をのぞいている。

小山央佑(こやまおうすけ)
先生の孫で小学生。不登校中だが好奇心があり自主学習にも積極的。

そういう生き物 の簡単なあらすじ

原田千景のもとに身を寄せることになったのは、高校生の時の彼氏でいま現在では「まゆ子」としてスナックで働く古川雅哉です。

千景は友人の結婚式に参加した際に雅哉への心無いうわさに心を痛めますが、本人はのん気にカタツムリを飼育したり料理をしたりしています。

子どもがいない父の妹から養子縁組みを勧められたりもしますが、雅哉は千景との静かで自由な暮らしを選ぶのでした。

そういう生き物 の起承転結

【起】そういう生き物 のあらすじ①

18歳の彼が28歳の彼女に

原田千景が高校を卒業してから10年ぶりに広川雅哉と再会したの場所は、カラオケがあってモニターで古い洋画が流れているスナックです。

黒かった髪の毛は金色、カラーコンタクトを装着してマニキュアもメイクも完璧、お店での呼び名は「まゆ子。」

外見はまるっきり変わっていましたが、飲み物のおかわりを聞いてきた時の声ですぐに雅哉だとすぐに分かりました。

お店が終わった後で近くの居酒屋へ飲みに行き、向かい合った席でビールを片手にお互いの近況を報告し合います。

千景はいくつかのクリニックが入ったビルの一室で薬剤師、雅哉は父の妹・ほなみが経営しているお店を手伝いながら居候の身。

高校を卒業して以来誰かと暮らすことなど想定していなかった千景が、雅哉を自分のマンションに来るように誘ってみたのは珍しく気持ちよく酔っていたからです。

次の日には雅哉は身の回りの荷物をまとめて寝袋まで持ち込んできたために、いまさら撤回する訳にはいきません。

【承】そういう生き物 のあらすじ②

殻の中のふたり

千景のマンションに見知らぬ男の子がやって来たのは、雅哉との共同生活がスタートとしてから1週間が過ぎた頃です。

千景は朝早くから出社していたために、雅哉が小山央佑と名乗る少年からプラスチックのケースに入った2匹のカタツムリを受け取りました。

小山の祖父は千景が大学生の時に所属していた研究室の教授で、数年前に退職してからもみんなから「先生」と呼ばれています。

小学校を休んでいる央佑は祖父の家に遊びに行くことが多く、そこで千景に勉強を教えてもらったことがきっかけで顔見知りになったそうです。

拾ったカタツムリを隠れて飼っていたところを母親に見つかってしまい、捨ててくるように言われましたがすっかり情が移ってしまいできません。

昼間はほとんど自宅にいない千景に代わって雅哉が世話をするようになり、央佑も頻繁にマンションに出入りしてケースの中を掃除していました。

すっかり仲良しになった雅哉と央佑は一緒に動物に遊びに行ったり、図書館に行ってカタツムリの飼育方法や生態について調べたりしています。

【転】そういう生き物 のあらすじ③

好奇のまなざしと悪酔いをかき消すモーニングセット

高校時代の友人の結婚式に出席した千景は、雅哉が女性の姿でスナックで働いていることをおもしろおかしく吹聴しているかつてのクラスメート・伊尾を目撃しました。

当時雅哉と1年生近く付き合っていた千景も興味本位の視線にさらされていて、いつ何を言われるのか不安で平常心ではいられません。

二次会が終わった後に伊尾とふたりっきりになった千景は、誘われるままに彼の家に行って一夜をともにします。

10年前に千景たちが破局したいちばんの理由は、雅哉には女性の裸を見た瞬間におう吐感に襲われてしまう体質があったからです。

朝になって二日酔いで帰ってきた千景に、雅哉はいれたてのコーヒーと冷蔵庫の余りもので作った朝食を振る舞ってから出勤します。

雅哉のカバンの中に入っていたアルバイト情報誌を見つけたほなみは、唯一の肉親であるおいがここを去ってしまうことを心配しているようです。

養子になってくれればこのお店を好きにしていいという申し出はありがたいですが、返答に困った雅哉は逃げるようにして開店準備に専念しました。

【結】そういう生き物 のあらすじ④

自由研究の完成をお好み焼きでお祝い

先生の妻でもあり央佑の祖母でもある女性の訃報が、冬の始めの明け方に千景のもとに舞い込んできました。

故人の遺志を尊重して身内だけで見送るために、千景たちは通夜にも葬式にも顔を出す必要はありません。

一度だけ千景は先生に師弟関係以上のものを求めたことがありましたが、妻の具合が悪いことを理由にやんわりと断られたことがあります。

葬儀が落ち着いてから何度も先生の家に電話をかけてみましたが、ずっと呼び出し音のままで逃げ回っているようです。

愛と性への渇望をひとりの相手で満たすことをあきらめた千景は、これ以上は先生に何も求めるつもりはありません。

雄と雌の区別がないカタツムリはこの時期になると数十個の卵を産んで冬眠することが分かり、雅哉に説得された央佑はかわいがっていた2匹を自然に還してやります。

央佑がエサとして持ってきた大量のキャベツを食べきってしまうために、雅哉は腕によりをかけて特製のお好み焼きを作ってパーティーを開くのでした。

そういう生き物 を読んだ読書感想

10代の頃に短期間だけ男女カップルとして成立していたふたりの、10年後のひとつ屋根の下での日常が不思議なタッチで描かれていました。

小学校にもろくに通わずに昼間からカタツムリの観察に熱中する少年・小山央佑や、風変わりなおいをおおらかに受け止めるほなみとの交流もユーモラスです。

肉体的な性別と精神的な性別が一致しない雅哉の内面の葛藤と、雌雄同体であるカタツムリがうまく絡み合っていきます。

同世代が結婚・昇進とステップアップに躍起になっている中でも、あくまでもマイペースを貫く千景と雅哉の姿には心が温まりました。

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