「夜の塩」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山口恵以子

夜の塩

著者:山口恵以子 例)2009年5月に43555から出版

夜の塩の主要登場人物

篠田十希子(しのだときこ)
お茶の水女子大を卒業後、高校の英語教師になる。

菊端なみ江(きくはたたみえ)
十希子の母が務めていた料亭の女主人。

津島六郎(つしまろくろう)
二流紙に記事を売るフリーの記者。

久世龍太郎(くぜりゅうたろう)
与党の幹事長。なみ江のパトロン。

糸魚川修三(いといがわしゅうぞう)
ブローカー。若いころ、久世竜太郎のカバン持ちだった。

夜の塩 の簡単なあらすじ

十希子の母は、料亭の中居をしながら、娘を女手一つで育ててきました。

ところが突然、架空取引で騒がれている会社の資金課長と心中してしまいました。

これは偽装心中ではないか、と疑いを持った十希子は、母の勤めていた料亭の中居となって、事件の手がかりをつかもうとします。

料亭には、さまざまの権力者や、役人や、企業人が客としてやってきます。

十希子は事件の真相に迫れるでしょうか……。

夜の塩 の起承転結

【起】夜の塩 のあらすじ①

母の死

昭和30年、篠田十希子は、良家の子女が通うお嬢さま学校で、英語の教師を務めていました。

同じ学校の英語の教師との結婚話もまとまり、幸福の頂点にいます。

ところがそんなとき、父亡き後、女手一つで十希子を育ててくれた母が、三晃物産の資材課長といっしょに死体で発見されました。

架空取引の件で、東京地検特捜部が三晃物産を摘発し、捜査している中での出来事でした。

警察はふたりが心中したものとみなしました。

十希子は納得できません。

自分の花嫁姿を見るのを楽しみにしていた母が、自殺するなどありえない、と思ったのです。

スキャンダルを扱う二流紙の各社は、この心中事件と、残された子である美人教師のことを、おもしろおかしく書き立てます。

世間が騒がしくなったために、十希子は恋人から結婚話を解消されてしまいました。

そんななか、十希子は、母の残した貯金通帳に、不審な入金が続いていたことを見つけます。

十希子は母の死の真相をさぐるため、学校をやめ、母の勤めていた料亭で、中居として働かせてもらえるよう、女主人のなみ江に頼みこむのでした。

【承】夜の塩 のあらすじ②

中居修行

十希子は、料亭の千代菊で、中居として働き始めました。

たくさんある部屋の名前を覚えるのも大変です。

仕事の時間中は、料理やお酒を運び続け、休む暇もありません。

そんな十希子に、津島六郎が接近してきました。

彼は、母の心中事件をおもしろおかしく書き立てたフリーの記者でした。

対馬は、十希子の母は心中ではなかったのかもしれない、と話します。

なぜなら、部屋に情交のあとがなく、前島の性格から心中は合わない、というのです。

津島は、さらなる巨悪をあばくことで、芋づる式に、母の心中事件を偽装した奴を捕まえられる可能性がある、と言い、十希子に協力を求めます。

十希子が千代菊で見聞きしたことを教えてほしい、つまり、スパイをしてほしい、と言うのでした。

一方、東京地検の紺野直樹は、十希子と恋人の婚約解消を知って、十希子に接近してきました。

しかし、十希子は紺野からのプロポーズを、さらりと受け流してしまったのでした。

やがて十希子は、与党の幹事長で、なみ江のパトロンでもある久世龍太郎の家のパーティを、手伝うことになりました。

大変豪勢なパーティの裏で、十希子は、久世の妻がヒステリックに八つ当たりするのを目の当たりにし、夫妻の仲の悪さを知るのでした。

その後しばらくして、かつて久世の秘書で、いまはブローカーである糸魚川修三から、十希子は食事に誘われました。

【転】夜の塩 のあらすじ③

情婦になる

津島に呼ばれた十希子は、大新製薬について情報はないか、と訊かれました。

大新製薬の睡眠薬で疑わしい事故が起こっているので、ネタがほしいというのです。

十希子は、大新製薬の下請けのデザイン会社に税務署の査察が入ったことを教えるのでした。

中居を続ける十希子は、いろいろなものを見ます。

芸者修行した半玉のまち子がデビューし、たちまち人気者になるのも見ました。

糸魚川と食事をした際、まち子の水揚げの話が出ました。

まだ十七歳なのにひどい、と十希子は思います。

糸魚川は、本人が出世を望んでいるのだから、むしろよいことだ、と十希子をたしなめるのでした。

また、別の日、久世龍太郎と検事総長と、与党の閣僚経験者の曽根が会合しました。

そのことを津島に教えると、彼は十希子に、検事の紺野とよりを戻すように言いました。

検事側からの情報を得たいというのです。

十希子は、紺野と少しだけ距離を縮めることにしました。

また、別の日、糸魚川が千代菊にやってきました。

大新製薬の下請けのデザイン会社の副島が呼ばれ、糸魚川に土下座します。

彼らの会合が終わると、すっかり憔悴した副島が出ていきました。

会合のあと、糸魚川は十希子に、自分の女になれ、と言いました。

自分は飽きっぽいから二、三年辛抱すればいい、その間に大金がつかめる、と誘うのです。

しばらくして、また糸魚川が来たとき、十希子は、母の通帳を見せ、そこに定期的に入っているお金は、糸魚川からのものではないか、と問いました。

もし糸魚川が母と肉体関係があったのなら、十希子は情婦の話を断るつもりです。

しかし糸魚川と母との間にそんな関係はなく、母は彼のスパイを務めていたのでした。

十希子は糸魚川の情婦になることを承諾し、一緒に旅行に出かけるのでした。

【結】夜の塩 のあらすじ④

事件の終結と十希子の愛

旅行から帰った十希子は、下宿のようなアパートを出て、一人暮らしを始めました。

あるとき、糸魚川から、津島の経歴を教えられました。

津島は、もとは一流新聞の記者でしたが、検察にガセネタを掴ませられ、新聞社をやめたのでした。

そして、そのガセネタを掴ませるよう工作したのが、糸魚川だったのです。

そうするうちに、大新製薬の睡眠薬・ソメイユが大きな社会問題となりました。

ソメイユを不正承認させたとして、大新製薬の元幹部と、厚生省の当時の幹部が逮捕されました。

また、厚生族の参議院議員も斡旋収賄の容疑で逮捕され、さらには、検事総長にも、政権との黒い結びつき疑惑が持ち上がってきたのでした。

そんなとき、なみ江の道楽息子の満が、ソメイユを飲んでいて、冠動脈血栓で亡くなりました。

十希子を呼んだなみ江は、バチが当たったのだと話しました。

実は以前、久世と糸魚川が女を殺す相談を耳にしていながら、その女が十希子の母のことだとは思わず、そのままにしてしまったのです。

十希子は、糸魚川の留守中に、彼の事務所に忍び込み、犯罪の証拠となる書類を盗み取りました。

その現場を糸魚川に見つかってしまいますが、彼は餞別だと言って、書類を十希子に渡してくれました。

十希子はその書類を東京地検特捜部に提出し、久世龍太郎を殺人教唆で、糸魚川修三を殺人で訴えたのでした。

久世と糸魚川は逮捕されました。

拘留された糸魚川に面会した十希子は、結婚してほしいと懇願します。

母を殺した先生は憎いが、先生を愛している、というのです。

糸魚川は、すべての財産を十希子に譲る遺言状を作ったのち、手首を噛み切って自殺します。

夜の塩 を読んだ読書感想

ヒロインが、母の汚名を晴らすために行動をおこし、その過程で、愛してはならない男性を愛してしまう、というお話です。

サスペンス・メロドラマですね。

このての小説の常として、ヒロインである十希子のキャラは、非常に魅力的に作られています。

戦時中の生まれで、早くから父を亡くしたものの、お茶の水女子大を出て、ミッション系の有名私立高校の英語教師を務めている、という設定です。

いわゆる才媛です。

美人で頭がいい。

また精神面でも、母の心中スキャンダルで二流紙におもしろおかしく書かきたてられ、教職を辞するものの、中居となって母の無念を晴らそうという、強靭な精神力の持ち主です。

その一方で、愛情も豊かです。

最初のほうでは婚約者との性の営みを楽しみ、幸せを堪能します。

後のほうでは、愛してはならない男性との、体だけの結びつきから、やがて心から愛するようになります。

つまり、人間としても、女性としても、魅力的なキャラクターで、読者にとってあこがれ、共感できるようになっているのです。

この作品の成功には、この魅力的なキャラクターが果たしている役割は大きいと思います。

さて、主要登場人物のもうひとり重要なのが、糸魚川修三です。

ヒロインの十希子が愛してしまう相手とあって、冷血な悪役ではあるものの、十分に魅力的です。

いや、むしろ悪役だからこそ魅力的と言うべきかもしれません。

私は、俳優の香川照之をイメージしながら、読み進みました。

こんなふうに、自分の好みの俳優が演じているさまを想像しながら読むというのも、小説のひとつの楽しみ方ではないでしょうか。

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