著者:戌井昭人 2011年8月に講談社から出版
ぴんぞろの主要登場人物
今井(いまい)
主人公。その日暮らしの脚本家。言われるままに何でも引き受けていて主体性がない。
長谷川(はせがわ)
元俳優で現在は芸能事務所を経営。お金とノルマにうるさい。
座間カズマ(ざまかずま)
長谷川の事務所に所属。寄席に出演しているが鳴かず飛ばず。
ルリ(るり)
元ダンサーで相当な修羅場をくぐってきた。昼間はパチンコをやって夜になると出勤。
リツ(りつ)
ルリの孫。「リッちゃん」の愛称と脱ぎっぷりの良さで人気。
ぴんぞろ の簡単なあらすじ
脚本家としてパッとしない今井と、芸に行き詰まった浅草のコメディアン・座間カズマはサイコロ賭博で荒稼ぎを試みます。
不正を見破られた座間は容体が急変して亡くなり、後始末をすることになった今井が向かうのは山奥の温泉町です。
宴会のお手伝いをしていた今井でしたが三味線奏者のルリがバス事故に巻き込まれたために、彼女の孫・リツと東京へ戻るのでした。
ぴんぞろ の起承転結
【起】ぴんぞろ のあらすじ①
徹夜で芝居の脚本を書き上げた今井は、銀座線の田原町駅で降りて浅草六区の交番脇にある赤茶けた雑居ビルへ向かいました。
ビルの2階には「はせがわ芸能事務所」という木製の看板が貼り付けていて、中にいた長谷川は封筒に入った原稿用紙を流し読みすると1万円札を5枚ほど手渡します。
事務所を出た今井が近くの食堂でアジフライと生ビールを注文すると、隣の席に座っていたのは長谷川が抱えるタレントのひとり・座間カズマです。
六区の地球館という寄席に出ている座間ですが、コメディアンとしてはたいして売れていません。
数年前からマジシャンに弟子入りして芸の転向を図っているという座間は、サイコロとどんぶりで実演してみせました。
3つのサイコロには仕掛けがしてあって、好きな時に「1」「1」「1」のピンゾロと呼ばれる最高の役を出すことができます。
この技があれば幾らでも大もうけができるという座間と一緒に、今井が参加したのは11月の酉の市に南千住で開かれる裏賭博です。
【承】ぴんぞろ のあらすじ②
明治通りを渡って入り組んだ裏道をしばらく歩くと、どん詰まりに見えてきたのは玄関前に電球がひとつだけ光っている建物です。
赤いカーペットが敷かれた部屋の中では男たちがどんぶりを囲んで車座になっていて、座間と今井もメンバーに加えてもらいました。
「4」「5」「6」で「シゴロ」の高打点を出した今井の目の前には札束が積まれていきますが、座間は一度も勝っていません。
追い詰められた座間が小細工でピンゾロを出そうとした瞬間に、親をやっていた五分刈りの男がその手をグイッとねじ上げます。
恐怖のあまりに座間は横に倒れて動かなくなってしまい、心臓マッサージを試みましたがすでに呼吸はありません。
座間の手のひらには「1」「1」「1」のピンゾロが出来上がっていて、五分刈りが言うにはサイコロの目にはすべて意味があるそうです。
五分刈りに命じられるままに今井は座間の遺体を背負って長谷川のもとへ運び、持病の心臓病が悪化したということでうやむやにします。
【転】ぴんぞろ のあらすじ③
座間が受けていた仕事は宴会場の余興で、依頼してきたのは長谷川が昔世話になった恩人のために断れません。
子供向けのテレビドラマを1本書く以外には予定がない今井は、給料の他に食事も宿泊先も提供されると聞いて代役を引き受けました。
ローカル線の駅で降りてからバスを乗り継ぐと、群馬県のひなびた観光地「勧善温泉ハイキングコース」の看板が見えてきます。
サウス劇場は木造の古い一軒家で、かつては浅草で踊り子をやっていたルリの三味線と孫娘のリツが披露するストリップがメインイベントです。
まったく司会の経験がない今井は酔っ払ったお客さんを怒らせてしまうことも度々ありましたが、何とか前説をこなせるようになりました。
人員が足りない時にはステージ裏に回って照明スタッフのまね事までしたり、ルリとリツの衣装を運んだりとそれなりに役に立っています。
当初の予定では10日ほどでお役御免のはずでしたが、すっかりルリに気に入られてしまったようで解放してもらえません。
【結】ぴんぞろ のあらすじ④
あと数日で大みそかというある日のこと、朝から雪が降っていましたがルリはいつものように駅前のパチンコ店へと出掛けていきました。
この日の夜にはグランドホテル「寿鶴」での営業が入っていましたが、本番前になってもルリは姿を見せません。
今井とリツが舞台裏で待機していると、ルリの乗っていたバスが山あいの崖に転落したとホテルの従業員が血相を変えて知らせにきます。
乗客たちが救急車で搬送されて先は駅の裏手にある総合病院ですが、1番後ろの席に座っていたルリは首の骨が折れていたために助かりません。
宴会の予約をすべてキャンセルしたリツが、ルリの遺骨が入った骨つぼを抱いて戻ってきたのは事故発生から3日後のことです。
すっかり落ち込んだ様子で一日中こたつで眠っているリツを心配した今井は、彼女を東京見物へと連れていきます。
浅草方面に向かう途中で鷲神社に立ちよった今井がさい銭箱に3つのサイコロを投げ入れると、「1」「1」「1」の目が出るのでした。
ぴんぞろ を読んだ読書感想
物語の前半は大勢の観光客や地元民でにぎわう浅草で、演芸場や居酒屋が軒を連ねる街並みに味わいがありました。
わき道にそれると怪しげなネオンに包まれたお店や、非合法のギャンブル場まで立ち並んでいて危険なムードも高まっていきます。
「人生には意味がないけど賽の目は宇宙につながっている」とは、賭博場を取り仕切る強面な五分刈り男のセリフです。
どんぶり鉢の外に転がり落ちたサイコロのようにあっけなくこの世を去っていく座間や、浅草から群馬へと流されるままな今井の生きざまにはピッタリですね。
たどり着いた秘境の温泉で待ち受けている、ふたりの女性とのつかの間の交流にはホッコリしてしまうでしょう。
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