「金剛の塔」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|木下昌輝

金剛の塔

著者:木下昌輝 2019年5月に徳間書店から出版

金剛の塔の主要登場人物

聖徳太子(しょうとくたいし)
木製のストラップ風お守りでストーリーテラー

スカイツリー(すかいつりー)
ストラップ。聖徳太子のお守りとともに行動する。

正大工(しょうだいく
四天王寺の五重塔建立に関わった様々な時代の棟梁。

権大工(ごんだいく)
四天王寺の五重塔建立に関わった様々な時代の副棟梁。

金剛の塔 の簡単なあらすじ

建設会社を退職した高木悠は、幼少を過ごした四天王寺にやって来ます。

ポケットには、聖徳太子のお守りとスカイツリーのストラップが付いたスマホが入っています。

境内に入った悠は、魂剛組の瀬戸崇史と再会し、崇史率いる瀬戸組で働くことになりました。

加工場で掃除から修業を始めますがうまくいかず落ち込む悠に、聖徳太子のお守りがアドバイスします。

そして聖徳太子のお守りは、五重塔にまつわる時代の旅へと出立します。

金剛の塔 の起承転結

【起】金剛の塔 のあらすじ①

安土桃山から平安初期の出来事

安土桃山の頃、10歳の四郎は遠縁にあたる大阪四天王寺の魂剛組で権大工を勤める魂剛広目の養子となるべく旅しています。

四郎は道中で木札を拾います。

木札は自ら「聖徳太子」と名乗り、見たこともない素材に細長い塔を模したもの(聖徳太子曰く「すかいつりぃ(天樹)」という)に話しかけられます。

無事に四天王寺へ到着し四郎と同じ歳の竹若(二十四世正大工を継ぐ)とともに修行に入ります。

ある日、竹若は四郎との技術争いに敗れ出奔し、後を追うように広目も行方知れずとなります。

四郎は権大工の後継ぎとして、五重塔を再建します。

四郎は、源左衛門と名を変えて魂剛組の手伝いを始めた竹若に、心柱の立柱を任せます。

四郎は、心柱の基礎に入る仏舎利を取り戻すべく、かつての養父・広目を探し当てます。

そして見事に心柱立柱を成し遂げた源左衛門は、二十四世正大工となり、広目の号を名乗ることになります。

これを見届けた聖徳太子の木札とスカイツリーのストラップはさらに時代を遡り、平安の世へ旅立ちます。

 平安の世は、乱れており盗賊が跋扈しています。

高真路は右頬に傷のある埜弥虫(やみむし)に脅され強盗をさせられそうになります。

その瞬間ハレー彗星が夜空を横切り、人々が目を奪われているすきに木片に描かれた聖徳太子に「逃げろ」といわれ走り去ります。

高真路は番匠として木を見分ける力が備わっており、魂剛組の琵琶丸に信用され五重塔の再建に力を貸します。

そんな高真路を埜弥虫は殺そうとします。

琵琶丸と四天王寺の僧侶に命を救われた高真路は、新たな人生をかみしめています。

【承】金剛の塔 のあらすじ②

江戸時代、落雷により焼失。

落雷により焼失した四天王寺は再建が進まなかったが、勧進元である淡路谷屋太郎兵衛という謎の商人によって五重塔の再建が決定しました。

魂剛組第三十四世正大工・伝右衛門は、悪友たちと日々遊び呆けています。

権大工の金剛太平治は、伝右衛門に代わり采配を取っています。

ある日、伝右衛門は悪友にそそのかされ、紙屑屋から書き損じの絵を盗みます。

この紙屑屋こそが淡路屋太郎兵衛で、このことが原因で伝右衛門は破門、家は断絶を言い渡されますが、淡路屋から最期のチャンスを与えられます。

何とか条件をクリアした伝右衛門は、再び悪友と夜遊びに明け暮れます。

淡路屋は死の間際、伝右衛門を呼び出し、放蕩の理由を問いただします。

伝右衛門は弟の数之輔が正大工を名乗るのにふさわしいと考えて、自分が破門されるようにふるまっていたのです。

そして、その理由を聞いた淡路屋は動けなくなった自分の後を継いで紙屑屋になるように説得します。

伝右衛門は、建造途中の五重塔を見ながら紙屑を集めています。

【転】金剛の塔 のあらすじ③

黒猫と大工と五重塔

再び平安の時代にやって来た木片の聖徳太子は黒猫に拾われます。

この時代の金剛組の正大工・金剛五良は、猫アレルギーです。

猫を毛嫌いし追い払おうとしますが、中々猫は去りません。

ある日、作業場に呪詛人形に使用されたと思しきカラスの首が捨てられていました。

誰の仕業か不明で、このままだと五良は正大工の座を追われてしまいます。

黒猫は犯人を突き止め、五良へ伝え、事なきを得ますが、五良のアレルギーは治ることはありませんでした。

 この事件を見届けた木片の聖徳太子は、再び江戸時代へ赴き四郎の娘婿となる第二十五世正大工・金剛伝右衛門の元へやって来ます。

四郎は娘のお七の手に握られている木片を見て驚き、30年経って再び現れた木片に不思議な思いを寄せます。

伝右衛門は明日から始まる四天王寺復活に合わせて現れたのだといいます。

大阪夏の陣から早三年が経ちますが、街には落ち武者が溢れ、伝右衛門は襲われてしまいます。

死の間際、伝右衛門はお七に作業場へ連れていくように懇願します。

お七は伝右衛門を負ぶって作業場へ行くと、四郎が待っていました。

最期まで五重塔の作業に身を捧げて伝右衛門は旅立ちました。

それから五重塔は見事に再建され、お七が袖を探ると木片はなくなっていました。

五重塔の完成を見届けた聖徳太子の木片は旅立ったのでした。

【結】金剛の塔 のあらすじ④

初代金剛

地揺れの多いこの国に耐久性のある五重塔を建てるべく百済から海を渡って倭の国へやって来た金剛、早水、永路は、難波の港に到着します。

金剛の腰ひもには例の木片が結わえられています。

百済で倭国語を覚えた3人でしたが、実際に通じるか不安でした。

早水が倭人と話してみたところ、無事に通じたのでホッとしました。

金剛は、百済で知り合った恵便という僧侶に会いに行きます。

恵便もまた海を渡って倭国へ来ていたのです。

恵便は3人の尼僧を紹介します。

その一人、善信尼は金剛たちが描いた五重塔設計図を見ると「これは五重塔ではない」と意味深な言葉を発します。

五重塔は美しいものだといいます。

ある日、金剛たちはこの地で地揺れに遭遇します。

金剛たちが建てた五重塔は崩れ燃えてしまいます。

善信尼は金剛へ「地揺れに負けない仏塔を建てよ」と命じ気を失います。

その言葉を聞いた金剛は五重塔の再建を誓いますが、戦が始まり事は進みません。

やがて戦が終わり、五重塔再建が始まった金剛は、良案を見出し素晴らしい五重塔を完成させます。

金剛の手のひらにある木片が見届けたかのように消えてなくなりました。

聖徳太子の木片とともに時代は現代の東京・丸の内に戻ります。

松本華奈のスマホには聖徳太子の木片とスカイツリーのストラップがつながっています。

恋人の坂田大規とおそろいですが、坂田の友人である高木悠も同じものを持っています。

この日は、華奈が会社のセミナーでプレゼンするために本社へやってきました。

丸ビルの建築について語り、いつの間にか他社が建てたスカイツリーの事まで話、やがて自分でも知らない四天王寺の五重塔の歴史を語りだします。

不思議に思いながらもプレゼンを終えた華奈は大規のラインへ悠から届いた写真を見ています。

悠が持っている聖徳太子の木片とスカイツリーのストラップは千年の時を旅したように色あせていました。

金剛の塔 を読んだ読書感想

五重塔を軸に、現代から平安へ、また江戸時代へと時代を行ったり来たりする描き方は、とても面白くて一気読みしてしまいました。

歴史に興味がある人はもちろんですが、興味がなくても楽しめる作品です。

また、ストーリーテラーが聖徳太子の木片のお守りとスカイツリーのストラップという設定は、新鮮で作者の感性が素晴らしいと思います。

私は四天王寺の五重塔には一度だけ訪れたことがありますが、このような物語が詰まった建物だとは知らず、もったいないことをしたなと思います。

恐らく、多くの人々がこのような逸話が残されたものだと知らずにいるのではないかと思います。

もっと多くの人に、この本を読んでほしいと思います。

そして、四天王寺の五重塔に訪れる時には、この物語で描かれた様々な時代に思いを馳せながらじっくり見学してほしいと思います。

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