「僕と彼女の左手」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻堂ゆめ

僕と彼女の左手

著者:辻堂ゆめ 2018年1月に中央公論新社から出版

僕と彼女の左手の主要登場人物

時田習(ときたしゅう)
主人公。暗記が得意で有名大学の医学部に一発合格する。ひとりで勉強をしたり本を読むのが好き。

清家さやこ(せいけさやこ)
右手の運動機能が失われているが独学でピアノを習得。明るく前向きな性格。

門沢(かどさわ)
さやこの友人。料理とピアノの両方を楽しめるカフェを開く。

吉野治樹(よしのはるき)
時田とは医学部で同期。顔が広く誰とでも気軽に会話ができる。

荒城藤子(あらきふじこ)
さやこの育ての親。都内の老舗から独立して埼玉に和菓子屋を出す。

僕と彼女の左手 の簡単なあらすじ

列車の事故に巻き込まれた父親の無念を晴らすために時田習は医師を志ざしていましたが、採血や手術に恐怖を感じてしまいます。

留年が決定して絶望に暮れていた時に、声をかけてきたのがピアニスト志望の清家さやこです。

父が亡くなった事故でハンディキャップを負いながらも懸命に生きるさやこと交流を深め、時田も希望を取り戻すのでした。

僕と彼女の左手 の起承転結

【起】僕と彼女の左手 のあらすじ①

左手が奏でるメロディー

医学部棟の屋上にぼんやりと立っていたは時田習は、教育学部の建物を探しているうちに迷子になったという清家さやこを案内してあげました。

家業を手伝いながら音楽の先生を目指しているさやこに頼まれて、図書館で勉強を教えます。

勉強の合間に音楽系のサークルの共有スペースを訪ねてみると、さやこが披露したのは左手だけを使った高度な演奏技術です。

右手が動かないことを打ち明けてきたさやこに、時田は医者になることを諦めかけていることを告白しました。

医学部の5年生は「ポリクリ」と呼ばれる病院での実習を受けなければ進級できませんが、時田は血を見ることができません。

次の日にはさやこの住んでいる埼玉県春日部市まで遊びにくるように誘われて、時間だけは持て余している時田は自宅のある横浜市内から1時間40分かけて訪ねてみます。

さやこが待ち合わせ場所に指定したのは春日部駅からバスで20分くらい離れた場所にある、ログハウスタイプの喫茶店「ピアニッシモ」です。

【承】僕と彼女の左手 のあらすじ②

12年前の衝撃によって絶たれた夢

店主の門沢は音大のピアノ科出身で、料理をしたりコーヒーをいれたりしながらも店内のアップライトピアノを弾いていました。

さやことも小学生の頃からの顔見知りのようで、時田には特製のオムライスをごちそうしてくれます。

ピアニッシモの向かいにあるのはさやこの母・藤子が経営する和菓子店「絢乃屋」で、お土産は手作りの芋ようかんと栗どら焼きです。

3日後に今度は時田から電話をかけて、横浜駅から特急で20分ほど離れた相洋台駅でさやこと合流しました。

駅のホームに多くの花束が並べられているのは、12年前にこの場所でスピードを出し過ぎた列車が転覆して30人が亡くなったからです。

当時は小学5年生だった時田は事故の遭った電車の先頭車両に乗っていて、大ケガを負った女の子を抱き抱えてレスキュー隊に引き渡しています。

同乗していた時田の父親は額からの流血が止まらず、病院に搬送されるのが遅れたために助かりません。

小さな医院をひとりで切り盛りしていた父のためにも医者になることを決意した時田でしたが、その夢も血が苦手な体質のために実習の単位を落としてしまいました。

【転】僕と彼女の左手 のあらすじ③

違和感と不協和音が鳴り響く

いつものように屋上で時間をつぶしていた時田に、同期の中でもボランティアやサークル活動に積極的な吉野治樹が話しかけてきます。

駅前の居酒屋まで強引に連れて行かれた時田は、思いきって自らのトラウマについて相談してみました。

猛勉強と二浪の末に何とか医学部に合格した吉野に比べてみると、予備校にも行かずに現役合格した時田は1年くらい留年しても問題ないそうです。

人間の記憶は時間が過ぎるにつれて減衰するようになっているらしく、来年になれば血を見るつらさも多少は薄れているでしょう。

吉野の言葉で少しは気持ちが楽になった時田は、酔っ払った勢いでさやこのことを紹介します。

吉野が疑問に思ったのはさやこが教師になりたいという話で、この大学の教育学部は教育学を研究するのが目的で教員免許の取得と関係はありません。

目指しているのは音大、夢はピアニスト、絢乃屋の店主・藤子は母ではなくおば、清家さやこは演奏名で本名は荒城絢乃。

さらには屋上で会ったのも偶然ではなく、あの脱線事故の日に時田に助けられたことを覚えていたからです。

【結】僕と彼女の左手 のあらすじ④

手をつないで歩き出す

実習に行かなくなってから4カ月がたっていたあの日、時田は屋上から飛び降りるつもりでした。

ふらふらとフェンスに向かっていく後ろ姿を遠目から目撃したさやこは、自分の命の恩人を死なせないためにあらゆる努力をすることを決意します。

キャンパスの案内を頼んだこと、個人的な家庭教師になってもらったこと、ピアニッシモに連れていったこと。

すべてはさやこからの「宿題」で、時田に生きる目的を持たせるためです。

時間があるうちに来年度分の学費を貯金しておくために、時田はアルバイトを始めます。

父のような診断・治療をする臨床医は無理かもしれませんが、重度の損傷を受けた腕の機能を再建する研究医になるつもりです。

アカペラ同好会に所属している吉野は部室の練習ホールを貸し切りにして、さやこのためにプチ・リサイタルをセッティングしてくれます。

時田や医学部の仲間たちが拍手で出迎える中で、さやこは左手をグランドピアノの鍵盤の上にそっと置くのでした。

僕と彼女の左手 を読んだ読書感想

中高一貫校を好成績で卒業して医大にストレートで合格した順風満帆な青年・時田習に、思わぬ落とし穴が待ち受けていてビックリです。

実の父親を目の前で失った衝撃的な過去を抱えながら、少しずつ死の世界へと引き込まれていくようでハラハラさせられます。

そんな時田の目の前に突如として姿を現す清家さやこは、空から舞い降りてきた天使のようで癒やされました。

狭き門と言われているプロの音楽家の世界にも、さやこのような多様性を象徴するピアニストがいてもいいでしょう。

お互いに足りないものを埋め合うようなふたりの関係性と、ラストでそれぞれが選んだ道のりを応援したくなりました。

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