「つなみ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|沢正

著者:沢正 2012年7月に幻冬舎ルネッサンスから出版

つなみの主要登場人物

わたし(わたし)
物語の語り手。建設現場で電機関連の工事を受け持つ。仕事とローンの支払いに追われてゆとりがない。

妻(つま)
わたしとは18歳で社内結婚。食品加工工場のパート従業員。体は丈夫だが涙もろい。

社長(しゃちょう)
わたしの上司。業務以外には気配りを示さない。

兄(あに)
わたしの兄。国立大を出てIT関連の会社を企業。自信に満ちあふれていて貪欲。

つなみ の簡単なあらすじ

ごく普通のサラリーマンとして郊外に購入した一戸建てで妻と暮らしていた「わたし」の生活が一変したのは、東日本大震災がきっかけです。

妻は被災地のボランティアへと向かい、わたしも小さな失敗から職と住宅を失います。

音信不通になった妻ともう一度始めからやり直すために、わたしも東北の地へ旅立ちを決意するのでした。

つなみ の起承転結

【起】つなみ のあらすじ①

突如として激震が走る

2011年の3月11日、老朽化したオフィスビルの中でわたしは40年あまりの人生において経験したことのない激しい揺れを感じました。

ゼネコンから受注した工事を下請けの会社に紹介する仕事をしているために、各現場の責任者に指示を出した後で妻に電話をしています。

食品加工のパート勤務を終えているであろう妻の携帯からは応答がなく、安否確認をしたい人が増え続けていて混み合っているのでしょう。

一刻も早くこの職場から抜け出したいわたしですが、社長の目があるために定時までは持ち場を離れる訳にはいきません。

ようやく就業時間を迎えますが電車の復旧の目通しは立っていないために徒歩で帰宅するしかなく、都内から埼玉県浦和市の我が家へとたどり着いたのは7時間後の夜明け頃です。

翌日は土曜日で疲れ果てて眠っていたわたしを、昼頃になって妻が起こしてくれます。

ホームセンターに出掛けていくつかの工具を購入して、自宅の被害状況をチェックしましたがこれといった異常は見当たりません。

【承】つなみ のあらすじ②

夫婦関係に見えない亀裂が

3月12日の午後3時頃に発生した福島第一原発発電所の爆発事故は、わたしたち夫婦にも思わぬ形で甚大な被害をもたらしました。

4年ほど前にわたしの父親が亡くなった時に東京電力の株を2000株ほど相続し、これまでは1株当たり3000円前後を維持しています。

600万円で売却して住宅ローンの繰り上げ返済に使おうとしたわたしに、命令口調で反対したのが社会的な成功を収めていた兄です。

絶対に安全と兄が太鼓判を押した東電の株価はみるみるうちに下落していき、いま処分しても相続時の約3分の1の200万円にしかなりません。

追い打ちをかけるように妻が勤務先から生産調整のために解雇を言い渡されて、1日の大半をテレビの前で過ごしていました。

報道チャンネルばかりを見ている妻は津波で家族や財産を失った人たちの姿を見て、時には涙を流しています。

出し抜けに避難所の炊き出しに行きたいと言い出したのは、震災から1カ月ほどが経過した4月の中旬の朝です。

猛反対するわたしを潤んだ目でにらみ続けていた妻の姿は、その日の夕方には家の中にはありません。

【転】つなみ のあらすじ③

愛する人とマイホームを手放して

次の日の夜にはわたしの携帯電話に妻からのメールが届きましたが、仙台市近辺の小学校の体育館であることの他には詳しい住所は記されていません。

希望通りに仮設の炊事場に回された妻は1日中野菜をカットしていたそうですが、とても充実した1日だったそうです。

2通目のメールは1日後に3通目は1週間後と少しずつ間隔があいていき、盛りだくさんに書き込んでいた初回より内容も減っていきます。

最後のメールは妻が家を出てから3週間後のことで、これ以降は電話会社との契約を解消したようで通話もメールの送受信も不可能となりました。

私的な考えごとに気を取られていたわたしは、勤務中にコンピューターへの単純な入力ミスをして会社に200万円程度の損失を与えてしまいます。

業績の悪化に苦しんでいた社長は前々から人員整理を計画していたようで、真っ先にターゲットになったのがわたしです。

会社を辞めて月々のローン返済の目通しが立たなくなったわたしは、強制競売にかけられる前に任意売却に踏みきりました。

【結】つなみ のあらすじ④

復興支援と自分自身も再生

職と家を失った今となっては、わたしがこのさいたま市にとどまる理由もなくなりました。

京都の高級住宅街に現金で豪邸を立てた兄に頼めば経済的な援助を期待できますが、義理の姉とはうまくいっていません。

42歳でまだまだ十分にやり直しができる年齢のわたしは、いっそのこと東北地方を再スタートの地点として選ぶのもひとつの手です。

身の回りのものを整理したわたしは仙台を目指して、大宮駅から東北新幹線へと乗り込みます。

ボストンバッグには洗面用具一式と簡単な着替え、思い出のアルバムの他には妻の部屋で見つけたノートが入っています。

上半分は月々の収支を記録する家計簿の役割りで、下の余白に書かれていたのは結婚以来口に出さずにため込んでいた妻の不満です。

常に節約を命令する夫が嫌だったこと、映画を見たりすてきな服を着たり少しのぜいたくがしたかったこと、縛られずに自由に生きたかったこと。

気がつくと自由席はほぼ満席で、たまたま空席だったわたしの隣には幼い娘を連れた30代前半とおぼしき女性が座っています。

仙台へは仕事で行くのかと訪ねられたわたしは、「大切な人を探しに行きます」とだけ答えるのでした。

つなみ を読んだ読書感想

未曽有の自然災害をテーマにした文学は数多くあれども、被災地域とは直接的な関係がない場所から描かれているのが斬新です。

巨大な津波から小さな波紋が広がっていくように、夫婦の日常やパワーバランスが少しずつかき乱されていくようでミステリアスでした。

突如として安定した生活を投げ出して体ひとつで地震発生地域へと飛び込んでいく、妻の大胆さには驚かされます。

残された夫としてはただただ困惑するしかなく、現状を受け入れるしかない無力感には同情してしまうでしょう。

ひとつ屋根の下にいる時にはお互いに真正面から向き合うことのなかったふたりの、ドラマチックな再会と感動的な和解を願うしかありません。

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