「帝都大捜査網」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|岡田秀文

帝都大捜査網

著者:岡田秀文 2017年7月に東京創元社から出版

帝都大捜査網の主要登場人物

郷咲(ごうさき)
私。凶悪犯罪を扱う特別捜査隊の隊長。

多都子(たづこ)
郷咲の娘。郷咲の書類整理などを手伝っている。

貝塚堅生(かいづかかたお)
真面目な履物屋主人。株で騙され大損し多額の借金を負う。

佐伯(さえき)
弁護士事務所の事務員。裏の顔は犯罪者。

帝都大捜査網 の簡単なあらすじ

戦前の昭和11年夏の東京で、刺殺体が次々と発見されます。

連続殺人事件として捜査に当たる特別捜査隊は、被害者の繋がりが見えず悪戦苦闘します。

唯一の共通点は三千円。

被害者たちは、多額の借金を抱え行方をくらまし、刺殺体で発見されたのです。

行われていたのは、命を懸けた殺人ゲームだったのです。

帝都大捜査網 の起承転結

【起】帝都大捜査網 のあらすじ①

刺殺体

東京深川区扇橋町で刺殺体が発見され、身元は財布から阿倍製作所所長の阿倍孝と判明します。

この事件の前日にも世田谷区玉川で変死体が発見されており、身分証から五星商会従業員の箱崎伸二と身元が分かっています。

この2つの事件は同様の刺殺体であることから、連続殺人事件として捜査されます。

二つの事件は、ともに着衣に大量の血痕があるにもかかわらず、周囲には一滴の血も見当たりません。

ただ1点、刺し傷の数が違っていました。

捜査会議を終え執務室へ戻った郷咲は、部屋にいた娘の多都子に事件の内容を話します。

多都子は推理力に長けており、家族とはいえ部外者に捜査内容を話すことを躊躇うものの、彼女の推理力に頼ることにします。

彼女は、死体に多くの傷を負わせたうえ、移動するという異常さに着目し、事件は繰り返されるといい、類似性の事件が発生した時には、連絡を徹底させるように助言します。

郷咲は捜査本部に戻り部下から、殺害時に被害者たちは抵抗した様子はなく、手首・足首に縛られた後があり、解剖結果から睡眠薬を摂取していたと報告されます。

また、箱崎、阿倍ともに多額の借金を抱えていた事実が判明し、さらに死体発見現場近くでトラックの目撃情報が出ます。

これらの事実から捜査をすすめることになりました。

そして、3人目の刺殺体が発見されたと連絡が入ります

【承】帝都大捜査網 のあらすじ②

人生の転落

貝塚堅生は、まじめを絵にかいたような人生を歩んできましたが、同業者による株式投資への誘惑から転落の一途をたどります。

我に返った時には、取り返しがつかないほどの借金を抱えていました。

貝塚は助けを求めて弁護士事務所へ行きますが、けんもほろろに追い返されます。

自殺を決意しますが死にきれません。

ある日、佐伯という弁護士事務所の事務員に声を掛けられ、とんでもない話を持ち掛けられます。

佐伯の話を聞いた貝塚は、突拍子もない話だと思いながらも、状況を打開するにはこの話に乗るしかないと考え、強盗を働きます。

佐伯に指定された額は三千円。

押し入った高利貸しの金庫には五千円近くのお金がありましたが、元々生真面目な貝塚は三千円だけを持ち去り佐伯と合流します。

一方、第3の死体が発見された現場に向かった郷咲は、刺し傷の数に違いがあるものの一連の被害者であると断定します。

被害者の身元はポケットに入っていたハガキから晴山柴吉と判明します。

執務室に戻った郷咲は、多都子に状況を話します。

彼女は、メモに「阿倍隆、火曜日、7カ所」「箱崎伸二、水曜日、6カ所」「晴山柴吉、金曜日、4カ所」と書き込み、「木曜日、5カ所」が抜けていて、まだ発見されていない刺殺体があるといいます。

そして新たに発見された死体の報告が入り「鶴島儀平、土曜日、3カ所」と追記されます。

捜査が続く郷咲たち特別捜査隊は、被害者たちが三千円という同額のお金を持って行方をくらまし、刺殺体となって発見されたことを掴みます。

【転】帝都大捜査網 のあらすじ③

命を掛けたゲーム

佐伯と合流した貝塚が連れてこられたのは、山奥の高い塀に囲まれた廃院でした。

現在は誰も寄り付かないので、見つかる心配はないと佐伯は言います。

そこには、4人の先客がおり、それぞれ花岡タツ・女性、森西文治、晴山柴吉、鶴島儀平と名乗りました。

先客もまた三千円を持ち込んでおり、貝塚が持ち込んだ三千円を合わせると一万五千円となり、全員で確認し金庫に収めます。

それか数日後、新たに室瀬政五郎、箱崎伸二、阿倍孝が合流し、8人の参加者が揃った翌日、ゲームが開始されます。

ゲームの内容は、1日1組ずつ、じゃんけんで勝負し、負けた方が残った参加者に刺されて殺されて行き、最後に残った参加者が佐伯に手数料を支払った残りのお金を持って人生をやり直すというものです。

初日の午後6時、8人はくじ引きで1組目の対戦を決めます。

この日は、貝塚と阿倍。

ゲーム開始前、睡眠薬を服用し席につき、手首と足首を固定されます。

紙に自筆で書いたじゃんけん(グー、チョキ、パー)を出し、対戦します。

結果は、貝塚の勝ちです。

負けた阿倍は、睡眠薬の効果も表れ朦朧とする中、残った参加者7名に刺されて絶命します。

貝塚は気を失い翌日昼頃まで眠ってしまいますが、その間に死体はトラックに載せられ遺棄されてしまいます。

午後6時、2回目の対戦は、箱崎と鶴島です。

昨日同様に睡眠薬を服用し勝負。

結果は、箱崎の負けです。

同様に6人に刺され絶命します。

さらに翌日の3回目は、花岡と森西ですが、森西は緊張に耐え切れず対戦前に自殺します。

そして、翌4回目、室瀬と晴山の対戦は、室瀬が勝ち晴山が殺されました。

 特別捜査本部では、最後に発見された鶴島儀平の定期入れから、指紋が出たとの報告があり照合が急がれています。

また、阿倍と鶴島の関係者から麹町にある債務問題を得意とする水島弁護士事務所へ相談していたことがわかり、捜査員が話を聞きに行きます。

【結】帝都大捜査網 のあらすじ④

人生の結末

水島弁護士事務所の相談者一覧の中に箱崎、晴山の名があり、休職中の事務員が対応したことがわかりました。

この事務員が佐伯だったのです。

佐伯の本名は中河寅吉といい、以前に起こった集団貰い子殺しの事件の際に取調を受けていました。

そんな中、佐伯の撲殺死体が発見されたという一報が入ります。

 一方、命のゲームを続けている貝塚は、鶴島と対戦し勝ち残ります。

翌日、貝塚が目覚めると生き残った室瀬と花岡がおり、佐伯の姿が見えません。

3人で佐伯の部屋に行くと後頭部を殴打され死んでいました。

3人は、現金を3等分し逃げることを話し合います。

 水島弁護士事務所から提出された名簿から貝塚の名前が浮上し、高利貸し宅の強盗も貝塚の所業と突き止めます。

また、同じく名簿から森西文治も水島弁護士事務所を訪れた後、失踪していることが判明します。

さらには、鶴島の定期入れから出た指紋が多都子のものと一致します。

多都子の日記から澄田泰代という女性が浮上し、花岡タツという名を名乗り行方不明です。

中河と澄田が共謀し今回の事件を起こしたと断定し捜査します。

 貝塚たち3人は、仲間割れをします。

花岡は毒入りのワインを飲み、室瀬は貝塚と争い拳銃の暴発で死亡します。

貝塚は花岡と室瀬の遺体を埋め、現金を持って廃院から立ち去ります。

 澄田の捜査をしていた班から廃院を見つけ、さらに男女の死体もみつけ見つけます。

死後2週間ほど経過しており、室瀬と澄田と断定されます。

そして、貝塚を追っていた班が大阪の安宿で貝塚を逮捕します。

貝塚は現金を持って逃げたにものの手を付けておらず、事情聴取にも素直に応じ、身柄が送検され捜査は終了します。

会議が終わった郷咲に部長の鴨志田は、「奥さんとお嬢さんの一周忌だから、ゆっくり休むように」言い渡します。

帝都大捜査網 を読んだ読書感想

現在と違ってデータベースなどない昭和11年の捜査は、指紋の照合は人海戦術で行われます。

ネットどころか電話も行き届いていませんし、防犯カメラもなく、捜査はすべて人の力で行われます。

そんな時代で凶悪事件が発生すると、捜査員の努力と解決するという強い思いがなければ、決して解決はしないと思います。

現在との捜査の違いを思い浮かべながら読み進めると面白さも倍増です。

また、命を懸けた殺人ゲームは、1回限りのまさに真剣勝負が手に汗握る描写で息苦しくなるほどでした。

結局、気が小さい真面目な商売人だった貝塚は、大金を手にしたものの使う事すらできず、逮捕された時のホッとした様子が印象的でした。

さらに郷咲の娘・多都子がすでに死んでいたことに驚き、最後の最後まで楽しませてくるストーリーでした。

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