著者:木皿泉 2013年4月に河出書房新社から出版
昨日のカレー、明日のパンの主要登場人物
(寺山徹子(テツコ))
本作の主人公。25歳で夫の一樹を病で亡くし、その後義父と同居。同僚である岩井と交際しているが結婚は考えていない。
(寺山連太郎(ギフ))
本作のもう一人の主人公。テツコの義父。気象予報士。パチンコに依存していたが、妻により克服する。
(岩井正春(いわい))
テツコの恋人。マイペースであるが純粋で優しい。
(寺山一樹)
連太郎夫婦の一人息子でテツコの夫。23歳でテツコと乾坤氏、25歳で亡くなる。
(小田宝(タカラ)
寺山家の隣人で一樹の幼馴染。客室乗務員として働いていたが、ある日突然笑えなくなり、退職。連太郎、テツコからは「ムムム」と呼ばれている。
昨日のカレー、明日のパン の簡単なあらすじ
テツコは夫の一樹を亡くした後、ギフと同居することとなる。
テツコとギフはともに病気で若くして亡くなったテツコの夫であ一樹が忘れられず、前に進めなかったが、それでも徹子は結婚を考えるようになったり、ギフがこれまでチャレンジしてこなかった趣味を作ろうとしたりと、悲しみにつきまとわれながらも必死に前を向いて生きていく姿が描かれています。
昨日のカレー、明日のパン の起承転結
【起】昨日のカレー、明日のパン のあらすじ①
テツコは寺田一樹と結婚するも、7年前に一樹は25歳で病で亡くなりました。
その後、実家には帰らず、気象予報士として働くギフと平屋で2人暮らしをするようになりました。
ギフとテツコが住む家の隣にはタカラという客室乗務員として働いている女性が住んでいました。
しかし、常に笑顔であり続けなければならない環境にいなければせいか、ストレスである日突然笑えなくなり、退職することになりました。
そのことを知っていたテツコとギフが「ムムム」というあだ名がつけられるほど、無表情に自宅でこもるようになり、心配しています。
タカラのストレスの一因は、一樹との別れにありました。
タカラと一樹は幼馴染で、一樹が亡くなったことに心を痛め、なぜ先に一樹が亡くなってしまったのか、タカラ自身が先に死ぬべきだったのだと落ち込んでいました。
そこで、タカラが一樹に修学旅行のお土産としてあげた雪だるまのぬいぐるみを、キャビンアテンダントの後輩に特別に許可をもらい、飛行機に乗せてもらいました。
これをきっかけに、タカラは少しずつ笑えるようになるのでした。
【承】昨日のカレー、明日のパン のあらすじ②
テツコと岩井は交際しており、岩井は結婚をしたいと考え、プロポーズをしました。
しかし、一樹のことが忘れられず、プロポーズを断りました。
また、実家の母親との関係も悪く、19歳で家を出たために、家族に対する恐怖心を持っていました。
家族を持ったとしても、いずれは死んでしまい、取り残されてしまうことを想像し、結婚に至ることは考えられません。
そのことを岩井さんには伝えましたが、岩井さんは理解したものの受け止めきれません。
テツコはこれ以上長々とギフと同居するわけにもいかないとも考えていました。
ギフとテツコが共に高齢になったときのことを考えると迷惑をかけてしまうと思ったからです。
この不安をギフには伝えられず困惑していました。
一方で、ギフは自分がテツコを引き留めては結婚に踏み込めず幸せでなくなってしまうと考えていました。
そこで、テツコから紹介された山ガールと一緒に登山しながら、互いに過去の傷と向き合うことになります。
【転】昨日のカレー、明日のパン のあらすじ③
テツコは岩井さんをどうすれば忘れられるか悩んでいました。
その姿に、テツコが岩井さんと別れたと聞いた同僚から岩井さんが結婚詐欺に遭ったと聞くことになる。
しかも500万ほどの大金を渡した相手が小学生だと分かる。
そのことを知ったテツコは岩井さんに対して激しく怒る。
しかし、実は岩井さんは結婚詐欺に遭ったわけではなく、その女の子が人間関係に絶望し、死にたいと思っていました。
また岩井さんは同じ状況にある絶望的な人間だと思いついた嘘が大金だったことをその女の子から知らされました。
テツコは、自殺しようとしていた女の子の願いを聞いて心を救った岩井さんの温かさを感じる。
岩井さんにテツコは「魔法のカードをくれたら結婚を考えてもいいよ」と伝え、連太郎の亡き妻夕子の妹に断られた上司は腹いせにテツコに嫌がらせをする。
実はその妹や岩井さんはテツコの上司からお金を無心されていました。
それを手伝う岩井さんは「最強のカード」を渡します。
【結】昨日のカレー、明日のパン のあらすじ④
テツコは一樹への思いを断ち切り、思い出ばかりに囚われる人生はやめることを決めます。
テツコはいつも持ち歩いていた一樹の遺骨の一部を墓に返却しました。
ある日、ギフは手紙を置いて旅に出た。
旅の相手は習い事先で出会った1人の女性である。
この女性と交際することで、家を出てお互いに自立しようと考えます。
しかし、ギフは女性に騙されていました。
女性は家具を販売しているものの、売り上げが不調なので家具を買ってほしいと頼み、ギフは家具を購入しますが、家を出る身として、今住んでいる家には配送せず、岩井さんの住所を配送先にします。
その後、ギフが席を立った隙に女性は姿を消してしまいます。
ギフは困惑しましたが、テツコには事情を言えず、岩井さんの部屋に家具を持ってギフは助けを求め転がりこみます。
岩井さんはあの手この手でトラブルを解決することに成功しました。
そのころ、岩井さんが会社を退職するかもしれないと知ったテツコの気持ちは揺らぐ。
そこで岩井さんのために京都に訪れお茶碗を買います。
これまではテツコとギフがお揃いの京都のお茶碗を使い、岩井は持参した自分のお茶碗を使っていました。
テツコとギフのお茶碗とそろえることでテツコは岩井さんと一緒に家族として生きていきたいという意思の表れでした。
昨日のカレー、明日のパン を読んだ読書感想
一言で表すと、温かい気持ちになります。
人との別れはとても悲しく、その悲しい思い出だけにつきまとわれます。
ただテツコとギフが同居する中で少しずつ2人に変化が起きていき、辛い気持ちを前向きな気持ちになっていく過程がとてもリアルで、読者が前向きな気持ちになる本だと思います。
また、仕事のストレスで退職してしまうこと、愛人を亡くしてしまうこと、全てが実際に起きる話で、共感する人も多いのではないのでしょうか。
今不安で押しつぶされそうな人、温かい気持ちになる本を読みたい人、変わりたいと思う人にはぜひ読んでほしい1冊です。
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