「対極」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|鬼田隆治

対極-鬼田-隆治

著者:鬼田隆治 2020年8月に小学館から出版

対極の主要登場人物

谷垣浩平(たにがきこうへい)
42歳の警部。表向きは警視庁刑事部捜査一課だが、実際は特殊班捜査第一係の係長。

中田数彦(なかたかずひこ)
警部補。特殊部隊制圧第一班の班長。

川村年雄(かわむらとしお)
警部。特殊部隊指揮班の班長。

大口明憲(おおぐちあきのり)
41歳の警部補。特殊班捜査第一係に所属する谷垣直属の部下。

井岡光(いおかひかり)
33歳。NPO法人NDLの代表者。

対極 の簡単なあらすじ

日本刷新党なる者から「厚生労働省を解体せよ」との恐喝文が届きました。

要求を受け入れなければ、関連団体の人間をひとりずつ殺すといいます。

まもなく、ひとりの少年が関連団体の男を人質にとり、ビルの屋上に立てこもります。

特殊犯罪捜査課の谷垣は少年を説得しようと試みますが、特殊部隊制圧班の中田は、指揮に従おうとしません。

狂犬のような中田はその後もことごとく谷垣に逆らうのでした……。

対極 の起承転結

【起】対極 のあらすじ①

 

狂犬登場

悲惨な生い立ちのせいでぐれていた中田は、高校三年生のときに警察学校に殴り込みをかけますが、助教をしていた川村の勧めで警察に入ることにしました。

中田はその暴力性を生かして出世し、やがてSATに入隊します。

一方、正義感にあふれ出世街道を登ってきた谷垣は、特殊犯罪捜査係SITの係長となり、立てこもり事件などに出動します。

あるとき、暴力団組員が、同じ組の若頭を拘束して立てこもる事件が発生しました。

出動した谷垣は犯人を説得しようとしますが、特殊部隊の中田が、勝手に犯人の手を撃ち抜き、身柄を確保します。

谷垣が怒っても、中田は涼しい顔です。

数週間後、厚生労働省に、日本刷新党と名のる者から犯行予告の声明文が送られてきました。

厚生労働省を解体せよ、さもなければ関連団体に勤務する者を一人ずつ撃ち殺す、という内容でした。

まもなく、厚労省の天下り団体に勤務する老人を人質に、銃を持った少年がビルの屋上に立てこもる事件が発生しました。

興奮する少年を谷垣が説得しようとします。

しかし、少年が人質の脚を撃ったことで、中田が無断で狙撃命令を出し、少年を撃ち殺してしまいました。

少年の身元はわかりませんが、その体からは、医師の処方なしでは入手できない薬品成分が検出されました。

やがて、日本刷新党から、第二の犯行予告が届きます。

【承】対極 のあらすじ②

 

第二の事件

若い女が、厚生労働省の天下り団体の理事を人質にとって、公園に立てこもる、という事件が発生しました。

女性は理事の頭にライフルを突き付けています。

谷垣が説得に当たるなか、女は突然苦しみだして倒れ、死亡が確認されました。

女の体からは、第一回目の事件を起こした少年とは種類が違いますが、医師の処方なしでは入手できない薬品成分が検出されました。

女の髪はウィッグです。

女は卵巣癌にかかっていて、髪を失ったのでした。

また、一回目と二回目の事件に使われたライフルは、ファインベルクバウ603という銃でした。

銃の出所を探っていくと、射撃練習場の経営者、木村太助が浮かんできました。

聞き込みにいった谷垣は、事件を起こした若い女が、木村の姪、美原優であることを知ります。

また、木村は彼女に、三丁のライフル銃を貸し出していたこともわかりました。

谷垣は、犯行の動機が、薬の承認の遅れ、ドラッグラグであるとにらみます。

美原優がかかった卵巣癌の薬として、海外ではカボス肉腫用の薬が効果があるとされていますが、国内では承認されていません。

美原優はそういう承認の遅れに抗議して立てこもり事件を起こしたのだろう、と考えたのです。

【転】対極 のあらすじ③

 

明らかになる真実

谷垣は、美原優に親切にしていたという金子医師のもとを訪ねます。

金子は、ドラッグラグ問題に抗議するNPO法人、NDLの特別顧問でした。

金子は、一回目の事件を起こした少年、山本翔の病気のために未承認の薬を処方し、二回目の事件を起こした女、美原優のために、卵巣癌ではなくカボス肉腫と診断して薬を処方してくれる医師を探してやっていました。

また、NDLの代表者、井岡光については黙秘します。

NDLの事務所へ行ってみると、そこにはだれもいませんでした。

三丁目のライフルは井岡が持っているものと考えられます。

警察は井岡の写真を入手しました。

長身で、太って、ブルドッグのような顔です。

特徴的な容姿のため、すぐにでも見つかると思われましたが、見つかりません。

さて、公休日になった谷垣は、家族サービスをし、夕食は家族でグラタンを食べました。

たまたま中田は、レストランに入る谷垣を見ていて、グラタンを食べる男とバカにします。

数日後、警視庁での対策会議が始まる前、谷垣は、まわりに秘密にしているはずの特殊班の任務が外部に漏れていることを知ります。

会議にやってきた中田を見て、彼が漏らしたのだと考え、ふたりは取っ組み合いをします。

しかし谷垣が勝てる相手ではありませんでした。

中田は自らの階級章を指して言いました。

これは偽りの紋章なのだ、と。

警視庁は、被疑者が政府側の人間なら、逮捕しない。

検察もそういうのは起訴しない。

法の下の平等などはないのだ、と。

【結】対極 のあらすじ④

 

最後の事件

井岡が、厚生労働省時間の孫娘を人質にとり、町田駅前広場にたてこもりました。

井岡は、孫娘にライフルを突き付けています。

銃はファインベルクバウ603の最後の一丁です。

谷垣が現場へ行くと、その男はとても井岡とは思えないほどやせ細っていました。

収監されている金子医師に連絡をとって確認すると、やはりそのやせ細った男が井岡だとわかりました。

井岡は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という不治の病にかかっていたのです。

ALSについても、苦痛をやわらげるために海外では承認されている薬が、国内では承認されていないのでした。

谷垣は、井岡と交渉して、人質を交換させます。

孫娘の代わりに、武装解除した中田を人質として差し出しました。

井岡は興奮して、いまにも中田を撃ちそうです。

川村が谷垣に狙撃命令を出すように要請しますが、谷垣はためらいます。

そのすきに、井岡が発砲し、中田は倒れました。

やむなく川村が直に狙撃命令を出し、井岡を撃ちます。

井岡も中田も重症で病院に運ばれました。

その後、事態の責任をとって、谷垣は休職することになりました。

休職中に、意識を回復した井岡が谷垣と話をしたいと申し出ます。

呼び出され、井岡と話をした谷垣は、井岡の無念の思いをくんで、彼が発表するはずだった声明文を新聞社へ渡したのでした。

対極 を読んだ読書感想

第二回警察小説大賞を受賞した作品です。

おもな登場人物はふたりです。

正義感を持ち、仲間内の警察官でさえ悪事を働けば告発しようとする谷垣と、正義感のかけらもなく、自分の暴力願望を満たすためだけにSATの一員として活躍する中田、この対照的なふたりです。

そして、魅力的なのは、実は中田のほうだったりします。

まるで狂犬のように凶暴な男ですが、どうせ警察なんて公平な正義を貫いているわけじゃない、とうそぶく彼のセリフには、ある程度の説得力があるからです。

また、自分の欲望のままに生きているその生き方自体が、ルールを破るに破れない小市民にとっては、魅力があるということも言えます。

それから、今回の話で、厚生労働省の怠慢のために、海外で承認されている薬が、国内ではなかなか承認されない、という問題が提起されています。

こういう問題があるのだ、ということを広く知らしめる役目をはたした作品でもあります。

ただ、読むときはあまり硬いことを考えず、八方破りのキャラクターとストーリーを楽しめばよいでしょう。

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