「詩人の恋」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|深水黎一郎

詩人の恋

著者:深水黎一郎 2020年9月に角川書店から出版

詩人の恋の主要登場人物

ヨハネス・ブラームス(よはねす・ぶらーむす)
ハンブルク生まれの作曲家。クララに秘めた恋心を持っている。

クララ(くらら)
亡ローベルト・シューマンの妻。ヨハネスとは生涯を通し良き友人であった。一流のピアニスト。

ローベルト・シューマン(ろーべると・しゅーまん)
【詩人の恋】の作曲者。一流の作曲家だったが、精神を病み46歳で亡くなる。

新泉寺瞬一郎(しんぜんじしゅんいちろう)
芸術探偵の異名を持つ、見目麗しい青年。【詩人の恋】の隠された謎を解き明かして行く。

詩人の恋 の簡単なあらすじ

物語の始まりは1856年のデュッセルドルフからです。

作曲家のヨハネスは、亡き恩師の妻であるクララから手紙で脅迫を受けていると相談を受けます。

内容は、亡き夫ローベルトが【詩人の恋】を作曲をするにあたり不正を働いた。

黙っていてほしければ金銭を払えというものです。

しかし、ヨハネスは恩師が倫理に外れた事はしないと確信をしていました。

彼は、彼女と恩師の名誉の為に問題の解決にあたります。

【詩人の恋】には隠された秘密がありました。

時代を越え受け継がれた秘密は、現代の芸術探偵神泉寺瞬一郎によって解明されていきます。

詩人の恋 の起承転結

【起】詩人の恋 のあらすじ①

脅迫の手紙

時は1856年のデュッセルドルフが始まりでした。

作家のヨハネスは恩師であるローベルトを亡くし、その妻のクララを支えるべくシューマン家に度々足を運んでいました。

その日、いつになく憔悴しているクララを心配し、ヨハネスは彼女に何かあったのかと問います。

クララは信頼するヨハネスに、知らない人物から脅迫を受けていると打ち明けます。

脅迫の内容は、亡き夫で作曲家のローベルトが【詩人の恋】を作成するにあたり、作詞家に断りなく改変を行った。

この行為は許される事ではなく、もしも世間に知れ渡れば彼の名誉は地に落ちる。

黙っていてほしいなら金を寄こせ。

と言うものでした。

当時、表現というものは厳しく規制をされていました。

作詞家の許可なく改変を行う行為はそれ自体が悪となされていたのです。

しかし、クララとヨハネスは彼が自らの利益の為に不正を働く人物では無いと確信していました。

ローベルトとクララの為に、ヨハネスはこの問題を解決すべく一人動き出します。

【承】詩人の恋 のあらすじ②

【詩人の恋】の謎

時は進み現代に場面が移ります。

【詩人の恋】はクラシック界における傑作で、ローベルトは偉大な作曲家として名を後世に残しました。

学校の音楽の授業に出てくる偉人。

そのように認識される彼の曲は、今や簡単に手に入るようにもなりました。

高校生の少年は彼の曲を聴き、これは恋の歌で作詞をしたヘンリが主人公であると思います。

しかし、聴き進めて行く内にどうにも理解出来ない事が出てきます。

なぜヘンリは愛する女性と結ばれて悲しみの涙を流すのか?振られた後どうして激しく彼女の事を罵倒したのか?なぜ彼女は夢の中で優しく、死を表す糸杉の花束を渡したのか?これらの疑問を、少年は、作詞家であるヘンリの悲しみが大きすぎたからだと解釈します。

また、ある大学の青年はこの曲がシューマンによって改変されたと知り、違和感を感じました。

なぜ彼はわざわざ悪い方へ改変したのか。

大学の講師の阿井先生と日奈子先生と共に疑問を追ううちに、青年は芸術探偵と呼ばれる人物と出会います。

彼の名前は神泉寺瞬一郎。

見目麗しい青年で、芸術に関して広く深い知識を持ち、芸術に関する謎を解明する為ならば異様に軽いフットワークで世界を飛び回る人物です。

神泉寺により、【詩人の恋】の改変は誤植によるものだと判明します。

しかし、ここでまたもや疑問が現れます。

監修を行ったヨハネスは完璧主義者であり、誤植を見逃す事はあり得ない。

もしや、彼は敢えて誤植を見逃したのでは無いだろうか?この考えに至った神泉寺は、謎を解明すべく更に深く思考を巡らせていきます。

【転】詩人の恋 のあらすじ③

燃えた証拠

場面が変わり、今度はドイツのベルリンへと舞台が移ります。

ドイツ文学者でありシューマン愛好家の阿井は、休暇を兼ねた第一級品資料の収集の為にベルリンの高級古書店に来ていました。

大学の資料として古書の買い付けを終えた阿井は、なぜか店主の御眼鏡に叶い、彼が代々受け継いで来た家宝を見せられます。

家宝とは古い手紙でした。

年代は19世紀の中頃です。

「親愛なる友よ!」で始まる手紙を読み、彼は衝撃を受けます。

差出人はシューマンでした。

シューマンは、【詩人の恋】を彼の友人の為に改変すると伝えます。

改変された曲は、人間が成熟した頃、すなわち芸術において表現の自由が得られた頃に解明されるだろうと、シューマンは言います。

そして、読んだ手紙は燃やしてくれとも頼みます。

なぜならば、友人は殺人の罪を犯していたからです。

当時のシューマンにとって、犯罪者と交友をしていることが判明するのは非常に立場が危うくなる事でした。

リスクを冒して送った手紙。

それはシューマンの友人に対する深い友情と、芸術に対する崇高な決意の現れでした。

この手紙は、【詩人の恋】の解釈を根本から覆しかねない大発見でした。

歴史的偉大な作曲家が、最高傑作とも言える曲に秘密のメッセージを込めたのです。

この手紙に歴史的価値を見出した阿井は、資料に購入を申し出ますが予算が足りません。

何とか費用を工面し、再び古書店に赴いた彼はとんでもない光景を目にします。

店は、火をつけられ燃えていました。

貴重な古書と共に手紙も、店主も炎に呑まれてしまったのです。

実は、店主は極右派でありネオナチの外国人排斥運動の活動資金を、店の売り上げから支援していました。

それを知った過激派の左派の報復により、店に火が放たれたのです。

これにより、【詩人の恋】の新たな解釈の裏付けの証拠はこの世から消えてしまいました。

【結】詩人の恋 のあらすじ④

隠された物語

【詩人の恋】を巡る物語はの真相は、神泉寺によって紐解かれていきます。

彼は、国際的なテノール歌手の藤枝和之に、【詩人の恋】の練習のためにピアノの伴奏をしてくれと頼まれます。

神泉寺は、【詩人の恋】に対する観念が根底から覆っても良いなら付き合うと藤枝に言います。

藤枝は不思議に思いながらも、その条件を受け入れました。

歌曲を進めて行く中で、神泉寺は藤枝に【詩人の恋】の新解釈を伝えます。

【詩人の恋】の主人公は、原作者のハイネともう一人居た事。

それは、シューマンの友人です。

シューマンは、ハイネの意思を尊重しているように見せかけて、詩の取捨選択と順序の入れ替え、ほんの少しの詩の改編だけで、甘ったるい恋愛と失恋の歌謡集の下に、殺人犯の激情と絶望の物語を組み込んだのです。

シューマンは、友人が強すぎる愛と執着心が故に、勢い余って愛する人を殺し、自分の命で罪を償おうとしている事を理解していました。

更に、それを自分にも重ね合わせたのです。

自分の中にある狂気を、作品として昇華する為にシューマンは【詩人の恋】を作りました。

そして、当時の時代では、殺人犯の物語が芸術として認められないことも分かっていました。

だからこそ隠し、未来にメッセージを託したのです。

神泉寺の解釈は、荒唐無稽と言うにはあまりにも的を得ている物でした。

藤枝は、シューマンのが友人の為に歌を作ったという証拠は無いのかと問います。

彼はそのような物は無いと答えます。

しかし、この解釈はこの【詩人の恋】に更なる深みを持たせると神泉寺は確信をしていました。

藤枝も、話を聞き終える頃には今までのように【詩人の恋】を歌う事は出来ないと思っていました。

神泉寺は、才能のある藤枝ならば、今後百年残る【詩人の恋】を歌う事ができると彼に伝えます。

藤枝は、二週間後の本番の為に更に修練を積む事を約束しました。

詩人の恋 を読んだ読書感想

実に、構成に長けた物語でした。

主人公の特定が非常に難解で、場面も時代も全く異なる。

共通しているのは、【詩人の恋】のみ。

それなのに、読み進めて行く内にパズルのピースがはまるように情報が集まっていくのです。

しかし、最後の章になってもピースは半分しか集まっていないように感じていました。

本当に物語は終わるのか?なんて不安を吹き飛ばすラスト20ページ。

まさしく怒涛の答え合わせでした。

芸術探偵の華麗な考察により、あっという間にパズルが完成しました。

この物語は、詩人の恋に隠された謎を探す物でした。

そして、主人公は読者だったのでは無いかと私は思うのです。

だからこそ、章ごとに語り手が変わり、読者にとって必要な情報が提示されていったのではないかと思います。

最後で一気に話が繋がるのが爽快でした。

スッキリしたい時にオススメの本です。

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