著者:田牧大和 2020年3月にPHP文芸文庫から出版
鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)の主要登場人物
青井亭拾楽(あおいていしゅうらく)
猫専門の売れない画家、元義賊「黒ひょっとこ」
サバ(さば)
珍しい雄の縞三毛、美猫 ふしぎな力を持つ。
さくら(さくら)
雌の縞三毛、子猫 おてんば。
お智(おとも)
鯖猫長屋の家主で、人気の饅頭屋「見晴屋」の主
掛井十四郎(かけいじゅうしろう)
北町定廻同心、通称「成田屋の旦那」立ち回りは苦手で情に厚い。
鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) の簡単なあらすじ
人でない者が現れたり、何かと事件がおこる鯖猫長屋、今回は長屋の家主、お智とニキのご隠居の世話をする少年太市が、ゴタゴタに巻き込まれます。
いつも頼りになるサバが、怪しげな白い鴉(からす)が現れてから様子が変わります。
駄猫のようになったサバを気にしながら、拾楽はお智と太市を救出するため奔走します。
あやかしや怪異にまったく動じない成田屋の旦那、掛井の活躍が今回も見られます。
鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) の起承転結
【起】鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) のあらすじ①
ニキのご隠居のお使いで、「見晴屋」の饅頭を買いに来た太市が、男に脅され、お智と一緒に監禁されてしまいます。
繁盛していた店をいきなり閉めてしまって従業員にも休みをとらせたことなどから不審を感じた拾楽が見晴屋を探りはじめます。
見晴屋まではサバも同行しますがそこで白い鴉に会ってからサバの様子が変わってしまいます。
駄猫のようになってしまい拾楽を助けてくれなくなるのです。
しかし、妖狐さえ素手で捕まえるほどあやかし、幽霊のたぐいにはめっぽう強い成田屋の旦那、掛井と目明かしの平八と手分けして探索を進め、蔵に閉じこめられた太市とつなぎをつけることに成功します。
どうやら太市は誰かと人違いされたようで、監禁されてはいても身の危険はなさそうです。
そのころ、白い鴉をつれた少年が、ニキのご隠居を訪ねてきます。
自分は千里眼、何でも見通す力がある、太市の行方を教えると言いますが、ご隠居は断ります。
そこで、少年は自分は彦成屋に逗留していると告げて帰ります。
彦成屋は二人が監禁されている見晴屋の隣、大店の紙問屋です。
【承】鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) のあらすじ②
サバが駄猫になってからも白い鴉は鯖猫長屋にまとわりつくようにいつも来ています。
そんな中、やってきた掛井は、今回の事件はニキのご隠居を煽りに来た白い鴉と少年が関わっていることや、お智、太市を案じることあまり、冷静さを失っており、見晴屋か彦成屋に乗り込むと憤っています。
その様子を見ていたサバが、表にいる白い鴉を襲います。
手加減してやったので白い鴉は自力で飛び去ります。
サバは白い鴉が少年の千里眼となっていたことが分かっていたのです。
少年の力を封じるためにサバは動いたわけです。
そしてサバと三人は見晴屋に向かいます。
拾楽が中の様子をうかがうとお智は戒めも解かれ、犯人の男を諭しているようでした。
今は踏み込み時期ではないと拾楽は犯人の顔だけを確認して引き下がります。
似顔絵を見た平八により犯人は目明かし長兵衛の手下、寅次だと分かります。
拾楽と平八は寅次の周辺を探り、掛井は善後策を講じにニキのご隠居のもとに向かいます。
白い鴉を傷つけられた少年は彦成屋で不穏なつぶやきを漏らしています。
【転】鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) のあらすじ③
結局、寅次がこんな押し込みをはたらいてしまったのは恋ゆえでした。
拾楽がたどりついた寅次の住まいには黒い南蛮犬がいました。
その犬を鯖猫長屋に連れて帰ったことから謎はスルスル解けていきます。
犬を探して薬種問屋「佐賀屋」の娘、お遙が訪ねてきます。
寅次とお遙は恋仲ですが、お遙には縁談が持ち上がっていました。
寅次は目明かしの手下と大店のお嬢さんという身分の違いで悩んでいました。
そんなとき、お遙の母親が白い鴉を連れた「千里眼様」が京から来ていると知ります。
占い、まじない好きの母親は娘の縁談を「千里眼様」に見て貰おうとしていました。
お遙は「千里眼様」が寅次と一緒になったら幸せになると言ってくれないだろうか、と考え、寅次の方は「千里眼」にお遙との仲を見透かされ言いふらされることに怯えてしまいました。
目明かしの手下などと好き合っていることが世間に知れればお嬢さんの良い縁談が遠のくと考えたのです。
そこで「千里眼様」を脅して言いふらさないように頼むつもりが太市と間違えたということだったのです。
お遙を連れ、拾楽、掛井、平八、さくらが見晴屋に向かいます。
無事、お智と太市を救い出し、寅次はしょっ引かずニキのご隠居宅にお遙も一緒に連れて行きます。
寅次はご隠居の下で働くことになりました。
「ご隠居」は周りの者にそう呼ばせているだけで実際は北町奉行も一目置く臨時廻同心の現役、菊池喜左衛門です。
【結】鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) のあらすじ④
最初から鯖猫長屋を見張っていた白い鴉の名は焔(ほむら)、寅次を操って太市たちを監禁させた少年の名は暁(あかつき)です。
暁は幼いときから人ならざる力を持っていました。
また、白い髪と、左目は赤く、右目は茶色、女子のような顔立ちといった容姿から修験者達に御子とあがめられ育ちました。
しかし、焔の目を通さなければ使えない千里眼、操りきれない風、力のない火、すべてが中途半端な力の暁は、やがて修験者達から天狗と人との間にできた半可者と見られてしまいます。
その扱われ方の変化に耐えかね暁は寺を逃げ出します。
暁は焔の目を通してみていた普通の暮らし、その中にある仲間や友に深いあこがれを覚えます。
旅の途中に、僧から鯖猫長屋の噂を聞きます。
サバと拾楽が暮らしている不思議なことばかりおこるらしい長屋。
そこで暮らせば、自分のような不思議な力を持った者達、仲間、友が集まると思ったのです。
そして暁は自分が鯖猫長屋に暮らすため、拾楽とサバ、そして長屋の住人達を追い出しにかかります。
暁は火をおこし風を呼び鯖猫長屋を燃やそうとしますが、住人達が力を合わせ消火します。
暁のおこす火はサバには効きません。
焔はサバではなく子猫のさくらに襲われ倒されます。
拾楽は暁の供の大男を倒します。
霊やら呪いがまったく見えず、効かない掛井がただの腕白小僧に見舞うよう暁にげんこつを落とします。
霊的なものをまったく持たず信じない最強の同心が、天狗のような力を封じて暁をただの気の弱い少年に戻します。
こうして鯖猫長屋は守られ、誰もしょっ引かれず、死人も出ず「鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)」は平和に幕を閉じました。
鯖猫長屋ふしぎ草紙(八) を読んだ読書感想
元一人働きの盗人「黒ひょっとこ」拾楽と美猫サバが住まう鯖猫長屋に今回やってきた騒ぎのもとは千里眼を持つ少年と気味の悪い白い鴉です。
みんなのアイドル太市少年とおてる直伝お節介継承者お智が監禁されるという心配な始まりですが、二人は頼もしく、賢しさ、肝っ玉の強さを遺憾なく発揮してくれます。
気味の悪さに対抗できるのは、化け物や幽霊、怪異にびくともしない「成田屋の旦那」掛井十四郎です。
拾楽の元の稼業を知っていてからかったり、剣の腕はからっきしで立ち回りになると逃げ出すような同心ですが、情に厚く、真っ直ぐな性分、勘は鋭く冷静沈着さも持っています。
今回は太市心配のあまり冷静さをときどき失いますが、やはり最後は頼りになり、ますますファンになりました。
サバとさくらの戦いぶりにもほれぼれします。
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