「ほんとうに誰もセックスしなかった夜」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|唯野未歩子

ほんとうに誰もセックスしなかった夜

著者:唯野未歩子 2011年12月に小学館から出版

ほんとうに誰もセックスしなかった夜の主要登場人物

わたし(わたし)
物語の語り手。高校の非常勤講師。雑務の合間に油絵も描く。ひとりで気ままに生きるのが好き。

あのひと(あのひと)
わたしの不倫相手。質感にこだわりを持つ額縁職人。 知的でユーモアがある。

正枝(まさえ)
わたしの母。自然化粧品会社に勤務。他人と一緒にいるのが好き。

櫻井(さくらい)
わたしの同僚。仕事も真面目でプライベートでも充実している。

まゆか(まゆか)
わたしの受け持ちの生徒。ナイーブだが態度はふてぶてしい。

ほんとうに誰もセックスしなかった夜 の簡単なあらすじ

学校の先生をしながらプロの画家を目指している「わたし」が、額縁を作る「あのひと」と出会ったのは27歳の時です。

世間からは許されない関係を続けた末に別れますが、どちらかが死ぬ前に1度だけ会うことを約束します。

10年後に自らの死期を悟ったあのひとは、わたしを呼び出して最期のひとときを楽しむのでした。

ほんとうに誰もセックスしなかった夜 の起承転結

【起】ほんとうに誰もセックスしなかった夜 のあらすじ①

 

絵に描いたふたりの未来図

美術学校を卒業したわたしが、高校の非常勤をしながら青山のグループ展に油絵を出展したのは27歳の時です。

社交辞令のような打ち上げが終わって関係者が二次会へと向かう中で、わたしとあのひとだけがタクシーに乗り込んで一夜をともにしました。

素材を生かした特徴的な額縁を作っているあのひとには妻がいて、わたしとは25歳の年齢差があるために不倫関係として周りの人たちから非難を浴びます。

母・正枝との静かな暮らし、学生時代から付き合いのあった女友だち、グループ展からの誘い、雑誌のイラストの仕事。

わたしが失ったものは多いですが、あのひととの共同作業で1枚の絵を完成させることができたのは何よりです。

ふたりの作品はわたしがひとり暮らしを始めたマンションの部屋に飾られていて、コンテストにも展覧会にも発表する予定はありません。

わたしとあのひとはたくさんの未来の計画を立てましたが、ほとんどは実現することなく別れることになりました。

【承】ほんとうに誰もセックスしなかった夜 のあらすじ②

 

会えない方が幸せ

38歳になったわたしは相変わらず独り身で、高校生たちに美術を教える合間に個展を開いていました。

美術学科にはわたしを含めて3人の講師がいて、5歳歳上の歳上で彫刻を担当している櫻井とはときどき飲み会に行く仲です。

緑がまばゆくアウトドアには絶好の季節となったゴールデンウィークの最終日、独身者ばかりで秋川渓谷に行く集まりにわたしは櫻井から誘われます。

櫻井は日にちや時間、買い出しの割り振りなどを前もって手配してこまめにメールで報せてくれました。

芸術家タイプではないものの生徒たちからの信頼も厚く、社交的な一面も兼ね備えています。

他の同僚たちからはそれとなく櫻井と付き合ってみるように勧められていましたが、わたしはどうしてもその気になれません。

みんなでバーベキューを楽しんでいる時にも、わたしが考えているのはあのひとのことだけです。

死ぬ前にひと目だけ会うことよりも、永遠に会えないことをわたしは5月の空に祈りました。

【転】ほんとうに誰もセックスしなかった夜 のあらすじ③

 

小悪魔たちのささやかな反乱

わたしが働いているのは小中高とエスカレーター式の私立校で、ふたつのグループに分かれていました。

よその中学校から入試を受けて入ってきた外部生、小学校から持ち上がってきた内部生。

わたしはどちらかというと内部生の方が苦手で、その中でも特に手を焼いているのがまゆかという女子生徒です。

月を迎えて文化祭の準備が始まると、美術を選択している生徒たちは静物画の課題を提出しなければなりません。

完成した作品は文化祭で展示するとわたしが口にした途端に、突如としてまゆかを中心とする内部生たちから不満の声が上がります。

みんなの作品は展示するのに、先生の絵だけは展示しないのは不公平。

まゆかたちを静めるために、わたしは最も誇らしく思っている絵を展示することを約束しました。

文化祭当日、美術室に飾られているのはわたしが絵を描きあのひとが額縁を作ったあの作品です。

彼氏と一緒に絵を見にきたまゆかはわたしたちの作品に、「誰もセックスしなかった夜」という不名誉なタイトルを与えて帰っていきます。

【結】ほんとうに誰もセックスしなかった夜 のあらすじ④

 

最期まで遊び心を忘れずに

ある日突然にあのひとから電話がかかってきて、わたしは都内のホテルの一室で10年ぶりに対面します。

かつては特別な1本の樹のようだったあのひとも、今では空洞化した流木のようでこれが最期の密会となるのは明らかです。

ふたりが宿泊した部屋の壁には2羽のすずめをモチーフにしたデッサン画がかかっていていましたが、ホテルを出る時には白紙を収めた木枠の額縁しかありません。

すずめたちが紙の上から飛び去る瞬間を見逃してしまったことを、わたしは深く後悔します。

あのひとの葬儀に出席した2カ月後のこと、わたしのもとに届いたのは1通の封筒です。

差出人はあのひとの妻で、中身はホテルで見たすずめの絵でした。

チェックアウトの時刻が迫っていた時、わたしはバスルームにいたことを思い出します。

額縁のことなら何でも知っているあのひとなら、わたしがメイクを直している間に枠を外して絵と白紙をすり替えるくらい簡単でしょう。

いつも驚かせたり感激させてくれたあのひとに、2度と会えないことを痛感したわたしは涙を流すのでした。

ほんとうに誰もセックスしなかった夜 を読んだ読書感想

タイトルこそセンセーショナルですが、あくまでも大人のピュアなラブストーリーに徹していました。

「わたし」と「あのひと」という固有名詞を禁じられたふたりの男女が、世の中の流れから弾き出されていく展開には胸が痛みます。

一見すると無邪気な女子高校生・まゆかによって、ふたりの愛の結晶ともいえるアート作品を汚されてしまうシーンも切ないです。

27歳のわたしと52歳のあのひとの間に横たわっている、25年間という歳月にも思いを巡らせてしまいます。

10年後の残酷な再会を描きながらも、絵の中に閉じ込められたふたりが羽ばたいていくかのようなクライマックスが圧巻です。

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