著者:恩田陸 2020年2月に角川書店から出版
ドミノin上海の主要登場人物
王湯元(わんとうげん)
青龍飯店(せいりゅうはんてん)の料理長。美術品の目利きができる。
フィリップ・クレイヴン(ふぃりっぷ・くれいう゛ん)
映画監督。助監督のジョン・シルヴァーとプロデューサーのティム・ポランスキーと上海で撮影中。
董衛員(とうえいいん)
骨董品屋店主。GK(ゴースト・キッドナッパー)の保管係。董衛春(とうえいしゅん)を孫に持つ。
蘆蒼星(ろそうせい)
風水師。映画配給会社勤務で神社の神官の娘である安倍久美子(あべくみこ)と日本側プロデューサー先祖は山伏である小角正(おづぬただし)と一緒に祈祷し、魔物の除霊に挑む。
市橋えり子(いちはしえりこ)
デリバリー寿司屋の寿司喰寧(すしくいねえ)社長市橋健児(いちはしけんじ)の妻。元同僚の田上優子(たがみゆうこ)と北条和美(ほうじょうかずみ)と再会し上海市内を案内する。
ドミノin上海 の簡単なあらすじ
舞台は上海、蝙蝠(こうもり)の図柄が施された玉、通称「蝙蝠」を狙う美術品窃盗団GK(ゴースト・キッドナッパー)と、それを追う香港警察に様々な背景を持つ人々が事件に巻き込まれていくコメディーです。
青龍飯店で喪に服するアメリカ人映画監督とそのペット「ダリオ」の供養にやってきた風水師、映画関係者に注文を受けた寿司屋の社長と連絡員に間違えられた社長の妻とその友人達、彫刻家と骨董品屋店主、そして脱走したパンダまでもが、「蝙蝠」に引き寄せられるように青龍飯店に集まってきます。
「蝙蝠」は誰の手に渡るのか?最初から最後まで笑いっぱなしの、気分が落ち込んでいるときに読むと元気が出る一冊です。
ドミノin上海 の起承転結
【起】ドミノin上海 のあらすじ①
事件は、日中米合作映画「霊幻城の死闘・キョンシーVSゾンビ」の撮影クルーの宿となった青龍飯店で起こります。
青龍飯店の厨房で準備をしていた王湯元の横を、フィリップ・クレイヴンのペットでイグアナのダリオが横切ってしまいます。
フィリップは、ダリオを溺愛していて、今回も姑息な手段でダリオを中国国内に持ち込んでしまいます。
ダリオは、いつも出先で逃げ出す癖があり、いい匂いにつられてか王の厨房に迷い込んでしまったのです。
王は非常に研究熱心で、新たな食材とメニュー開発に余念がありません。
王は調理したダリオを巨大な銀の皿に乗せて、フィリップの目の前に出してしまいます。
それ以来、フィリップはホテルの部屋に閉じこもってしまい、映画の撮影が止まってしまいます。
その頃、美術品窃盗団GKが王が「蝙蝠」を持っていることを突き止めます。
手違いがあり、ダリオの胃袋に「蝙蝠」が詰め込まれてしまったからです。
GKの窃盗の特徴は、中国の美術品で小さな物に限られていることです。
中国では骨董品を持ち出すことが禁じられていて、中国国内で見つかれば国家の物になってしまいます。
骨董品を中国に持ち込んで身代金を持ち主に要求し高く買い取らせます。
交渉は2回までで、最初の交渉が難航したら、他の客を参加させて高い身代金を提示した人に売ってしまうのです。
入札場所であるモビー・ディック・コーヒーに潜り込んでいた香港警察のマギー・リー・ロバートソンのもとに、董衛春が「蝙蝠」の入札の結果を聞きにきました。
1回目は不成立で客同士が談合しているのではないかということで、いつもとは違う様子に両者とも、不安を感じるのでした。
【承】ドミノin上海 のあらすじ②
フィリップが喪に服していた頃、上海浦東(ぷーどん)国際空港の到着ロビーでは、市橋えり子と田上優子、北条和美が再会に喜んでいます。
今夜の宿である青龍飯店に寄ってからパンダを見に行くようです。
その上海動物公園では、パンダの厳厳(がんがん)が脱走を企てていて、飼育員の魏英徳(ぎえいとく)が気を揉んでいますが、また脱走されてしまいます。
厳厳は、ぬいぐるみの屋台に紛れ込んで逃走しますが、最終的には青龍飯店に到着します。
そして、衛春は、董衛員のお使いで「蝙蝠」のレプリカ3本の内の1本を印章店に持ち込み蔵書印を彫るように頼みます。
もう1本は彫刻家の毛沢山(もうたくさん)に渡すために、アートフェア開催中の青龍飯店最上階へと向かうのです。
その青龍飯店では、王がチンピラに襲われ包丁で応戦しています。
王はダリオの胃袋に入っていた玉が、相当高価な物だと考えて隠し持っていました。
一方、撮影が進まず困り果てていた久美子と正、ジョンとティムは、寿司喰寧にデリバリー寿司を注文し、風水師の蘆蒼星にお祓いを依頼します。
蘆は、ダリオの霊が自分の胃の中に入っていた物を気にかけているのに気づき、ダリオが死んだ場所を目指して王のもとへと急ぎます。
そんな中、取引がなかなか成立せずに焦っているマギーのもとに、パンダを見た帰りのえり子達がやってきます。
マギーは、えり子を連絡係と間違えてGKの情報が入っているUSBを渡してしまうのでした。
【転】ドミノin上海 のあらすじ③
USBを返すため、モビー・ディック・コーヒーの前まで戻ってきたえり子は、マギーに渡すよう、近くをぶらぶらしていた少年に紙袋を託し帰っていきます。
少年は、USBの情報を抜き取り、託されたUSBとレプリカの「蝙蝠」をマギーに渡します。
その様子を向かい側の2階の喫茶店から、衛員が眺めています。
少年から受け取ったデータをチェックした衛員は、追手が迫っていることを知り、自ら青龍飯店の王の所へ向かうことにしたのです。
その頃、王の部屋に蘆が率いる映画撮影スタッフが流れ込んできます。
イグアナを調理した時何か入っていなかったかを尋ねられた王は、顔色を変えて腹を立てて部屋を出ていきます。
供養されなかったダリオの霊は、上のほうが気になっているようで、一行を最上階へと導きます。
さらに、チンピラに襲われていた毛沢山を助けた柔道黒帯の優子も、拾った印章(レプリカの「蝙蝠」)を毛に渡しに最上階へと向かいます。
その途中、優子は王とぶつかったため、レプリカの「蝙蝠」と本物の「蝙蝠」が入れ違いになってしまいますが、そのことに気づいた王も衛員と一緒に優子を追いかけ最上階へと向かうのです。
そこには、ミニチュアダックスフントの燦燦(さんさん)に導かれ同じく最上階へと辿り着く魏英徳もいます。
そして、その最上階アートフェアの会場では、毛沢山の空洞になっている彫刻の中に必死に身を隠そうとしている厳厳と、厳厳に驚いて一度は逃げ出した美術品泥棒の戻ってくる姿があるのでした。
【結】ドミノin上海 のあらすじ④
青龍飯店最上階へとやってきた一行は、毛の彫刻を運び出そうとする泥棒に出くわします。
驚いた泥棒が彫刻から手を離したため、彫刻が倒れ、飛び散った破片を受けた燦燦が気絶します。
次の瞬間ダリオの霊が燦燦の中に入り込み、優子の手から離れた「蝙蝠」は厳厳の胃袋に収まります。
厳厳は、後ろに紫と黄色の影を漂わせていて、蘆と久美子と正の意見により、鬼門を目指し、優子を盾に取った泥棒とその泥棒を盾に取った厳厳の移動が始まります。
その頃、衛員に騙されたことを知ったマギーも青龍飯店へと向かっています。
今回の入札が不成立になるよう仕向けたのは衛員で、捜査を錯乱させる為にレプリカの「蝙蝠」をばら蒔いていたのです。
一方、フィリップは、お寿司を堪能し、燦燦の体を借りたダリオとの再会に喜んでいます。
ダリオは今回の大騒動を撮影させようとご主人にカメラを持つように促します。
上海市内上空ではヘリコプターが旋回し、道路はパトカーが30台以上連なる大騒ぎです。
一行が辿り着いた先は、フィリップの巨大な撮影セットが広がる場所です。
蘆は厳厳たちを巨大な門に促します。
蘆、久美子、正が祈り始めたら、紫と黄色の影が渦となり厳厳から飛び出しました。
優子は泥棒の腕の急所を突き厳厳に背負い投げをくらわします。
健児の改造バイクに乗ったえり子は優子を救出し、厳厳の口から飛び出した「蝙蝠」をマギー目掛けて弾き飛ばし、マギーはそれキャッチします。
英徳は厳厳に麻酔を打ち込み、ダリオは燦燦から抜け出して紫と黄色の渦を追いかけて門を抜けていきました。
その後、優子と和美は休暇を楽しみ日本へ帰国、フィリップの映画は蘆に出演してもらい話題になり、厳厳はパンダ野生化プロジェクトで故郷に帰還、英徳は悪さをしている厳厳を追いかけ山に入ったということです。
衛員や王はどうなったのか、「蝙蝠」は無事だったのかは、わからないのでした。
ドミノin上海 を読んだ読書感想
この作品は、「蝙蝠」がどうなるのかという事件を軸に、騒動に巻き込まれる人たちの背景が語られています。
エキストラに間違えられた蘆蒼星、毛沢山の借金、厳厳の脱走劇、寿司喰寧の状況など、ここでは紹介できなかった、ユニークなキャラクターたちのこの背景が最後まで笑わせてくれます。
事件には全く関係のないキャラクターも登場して、作品を盛り上げてくれていると思います。
例えば、えり子達3人の元後輩森川安雄(もりかわやすお)は、上海で成功している若き実業家としてインタビューを受けているだけです。
「嗤う男」シリーズで売れっ子画家になった蔡強運(さいきょううん)もアートフェアで登場しているだけです。
歯が真っ白で映画スターのような上海警察署長の高清潔(こうせいけつ)は、改造バイクで配達をする市橋健児を追いかけて事件に遭遇するだけで、上海市内の交通ルールとモラル向上に一生懸命です。
このように、事件と関係がないエピソードが語られていますが、その情景は頭の中でくっきりと映像として表れて楽しめると思います。
みんな憎めなくて面白いキャラクターで、なぜかストーリーを邪魔しません。
「蝙蝠」を追いかけながら、それぞれの人たちの人間関係や背景を楽しむことができる作品だと思います。
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