著者:江戸川乱歩 2017年7月に青空文庫から出版
黄金豹の主要登場人物
明智小五郎(あけちこごろう)
主人公。1年前に麹町の高級アパートに探偵事務所を移した。
小林芳雄(こばやしよしお)
明智とは親子のような間柄。 療養中の明智の妻に代わって身の回りの世話もする。
園田武夫(そのだたけお)
小林の友人。中学1年生。少年探偵団の副団長で勇気がある。
助造(すけぞう)
園田の父が雇った庭師。 高齢だが腕っぷしは強い。
松枝(まつえだ)
信用金庫の社長。 熱心な宝石のコレクター。
黄金豹 の簡単なあらすじ
都内各地で「まぼろしの豹」が現れるといううわさが広がっている中で、小林芳雄は明智小五郎の力を借りて友人の園田一家のピンチを救いました。
黄金豹に大切な宝物を狙われた松枝の依頼を引き受けた明智は、毛皮の中に犯人が隠れていたことを見抜きます。
背後で糸を引いていた怪人二十面相と、明智と小林は杉並区の西洋館で久しぶりの対面を果たすのでした。
黄金豹 の起承転結
【起】黄金豹 のあらすじ①
銀座通りにある宝石商のお店にはたくさんのショーケースが並んでいて、お客さんが自由に歩いて眺められるようになっていました。
客のひとりが店内の片隅に全身が金色に光った大きな豹を見つけたのは、人通りが途絶え始めた午後の8時頃のことです。
豹はケースの扉を開けてひとつ何100万円とする高級な宝石を次々と飲み込んでいき、応接室に逃げ込んでカギをかけてしまいます。
通報を受けて駆け付けた警察官がドアを体当たりで破壊して踏み込んだ時には、豹の姿は部屋の中に見当たりません。
この事件が発生してから3日後のこと、明智小五郎の助手である小林芳雄は友だちの園田武夫の家に遊びに来ていました。
ふたりが不気味な声を聞いたために窓の外を見てみると、闇の中に輝く金色の豹が話しかけてきます。
父親のコレクションである純金の豹の置き物を明日の午後10時までに必ず奪いにくると言い残したために、武夫は心配で仕方がありません。
武夫の父は寝室の縁の下へ純金像を埋めて、住み込みの学生と庭番の助造に見張らせています。
【承】黄金豹 のあらすじ②
武夫の家は麹町6番町の静かな屋敷町にあって、明智探偵事務所からもそれほど遠くはありません。
次の日の学校の帰りに小林は事務所に立ち寄って、明智にこれまでの経過を報告した後で園田家の警備をお手伝いしに行きました。
やがて夜になって置時計が10時を告げたために、武夫の父は助造に命じて純金像を入れた箱を掘り返して確認しますが中身は空っぽになっています。
小林は助造が床下の横穴に純金像をビニールに包んで隠したことを見抜きましたが、すでに犯人は逃走した後です。
何とか純金象を守ることには成功しましたが、助造は6日前に園田の父が知人の紹介で雇ったばかりでその後の行方は分かりません。
「園田邸の怪事件」として話題になってから3週間ほど後のこと、株式会社宝玉堂の大阪支店に勤める野村は5000万円のダイヤモンドを東京の本店に運んでいました。
東海道線の夜行列車に護衛役の荒井と一緒に乗り込みますが、金色の猛獣が寝台に潜り込んできたのは関ケ原を通過したあたりです。
ダイヤの入ったカバンを口にくわえた豹は、車両と車両をつなぐ通路を破って消えてしまいます。
【転】黄金豹 のあらすじ③
黄金豹が東海道線の中に現れて大騒ぎとなった10日後のほど、昭和信用金庫の社長・松枝が明智の探偵事務所を訪ねてきました。
松枝が命の次に大切にしているというインドの宝石を、ここ2日の間にもらいにいくと脅迫電話がかかってきたそうです。
松枝から預かった宝石を書斎の金庫に保管した明智は、小林と一緒に事務所の向かいの通りに停めた自動車の中から様子を伺います。
夜の9時を過ぎた頃に屋根の上からロープを伝って黄金豹が事務所の中へと浸入していきますが、明智は車外に出ようとはしません。
金庫の中には明智の助手が豹の毛皮を被って隠れていたために、黄金豹は宝石をあきらめて逃げ出しました。
黄金豹は新宿から中野を過ぎて杉並区の森や畑が見える寂しい場所に入った頃から、ぐったりとして動く様子がありません。
車で追跡してきた明智と小林が豹の体をつついてみると、1枚の敷き皮のようなものが落ちているだけです。
黄金豹の中に入っていてこれまでの犯行を重ねてきた張本人と決着をつけるために、小林は森の中にそびえるレンガ造りの西洋館へと忍び込みます。
【結】黄金豹 のあらすじ④
館には10歳くらいの女の子と10匹以上の猫がうろちょろとしているだけで、豹の姿は見当たりません。
母親はイブニングドレスを身につけた30歳くらいの美しい女性ですが、どことなく猫のような顔をしていました。
「いいものを見せてあげる」という親子の言葉につられて洋室の中に踏み入れた途端に、床板に隠されていた落とし穴に引っ掛かってしまいます。
穴の底には白いひげを生やした老人がいて、彼こそが一連の事件の真犯人です。
西洋館の門から入った小林とは別に、庭の地下通路からここまでたどり着いた明智も合流しました。
銀座の宝石店の支配人から園田家の庭師、東海道線の車掌にいま目の前にいる老人まで。
いくつもの顔を持った変装の達人でもあり、黄金豹といった大胆不敵なトリックを思い付くのはひとりしか考えられません。
明智が「怪人二十面相!」と叫んだ瞬間に事前に連絡していた警察官が突入して、希代の怪盗との戦いに見事に勝利を収めるのでした。
黄金豹 を読んだ読書感想
上品な銀座の街並みやセレブ御用達の高級宝石店にはおよそ似つかわしくない、貪欲さをむき出しにしたモンスターが迫力満点です。
大阪と東京のあいだに新幹線が走っていない時代に執筆された作品のために、寝台列車のノスタルジックな雰囲気も味わうことができました。
東京のど真ん中から走行中の車内までと、神出鬼没で怪しく金色に輝く魔獣の正体とその目的に引き込まれます。
名探偵の明智小五郎と小林少年との名コンビの、ごく普通の日常生活もさらりとしたタッチで描かれていてほどよい息抜きになりました。
すべての黒幕はやはりあのライバルでしたが、さらなる戦いの幕開けを予感させるようなラストが心憎いです。
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